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内部争い

「内乱? グルーガリアで?」


「はい。以前よりグルーガリア国の首都に潜ませていた我らの同胞からの連絡です。現在、【アトモスの壁】によって強固な守りで固められたあの都市では、内部で大きな動きがみられます。いわゆるミディアム派と反ミディアム派が主導権を求めて争い合っているとのことです」


 グルー川の中州にある材木所。

 その攻略はあっさりと完了し、現在はそこで伐採できる柔魔木をオリエント国が手にすることができるようになった。

 これで、さらに魔弓オリエントを作りやすくなるだろう。

 そんなふうに、実利を得る攻略を進めていたところで、新たな情報が入った。

 それは影の者からもたらされた情報だ。


 以前から、各国にはトラキア一族とも呼ばれる影の者たちが入り込んでいる。

 彼らは不思議な森に生まれ育ち、そこで鍛えられた肉体と個人の資質にあった魔術などを用いて、刺客のような仕事をこなす。

 だが、刺客として動くよりは圧倒的に情報を集める仕事のほうが多く、今回もグルーガリアに入り込んでいた者が掴んだ情報だ。


 グルーガリアの首都は壁で囲まれ、内部に入ることができるのはしっかりと身元を調べられた者だけだ。

 が、すでに数年前から入っていた者であれば、そのまま内部に潜んだまま行動できた。

 そいつが、追尾鳥のような連絡用の鳥を使って、壁の外へと手紙を送ってきたのだ。

 そこには、グルーガリア国での内部分裂の様子が書かれていた。


 どうやら、グルーガリアでは二つの意見を持つ者たちで争い合っているらしい。

 それは、言い換えるとオリエント国と徹底抗戦すべきという意見の者たちと、そうではない者たちであった。

 いや、どちらかというと親バルカ派ともいえる存在がグルーガリア国内に出てき始めたらしい。


 今回のオリエント対グルーガリアの戦いは国同士の戦いでありながらも私怨でもあった。

 【流星】を使う我が子を殺された親であるヘイル・ミディアム。

 そのヘイル・ミディアムが俺を攻撃したことに端を発しての戦いだ。

 それによって、始まった国を巻き込んでの戦いではオリエント国に対して他の小国までもが関わってきての大がかりなものとなった。


 戦力差は明らかだった。

 普通であればその兵数差を見るだけで、あるいは一戦交えたらオリエント側が折れて和睦する流れだっただろう。

 だが、米の流通などを利用しての持久戦の結果、グルーガリア国側はほとんど満足な戦果をあげることなく国内が荒廃するばかりとなった。


 現状ではだれがどう見てもグルーガリア側に勝ち筋は無くなっている。

 そうなればどうなるか。

 当たり前だが、責任論が湧き出てくる。

 これほどまでに国土が荒れ、しかも肝心要の柔魔木がある材木所及び中州までもをオリエント国側におさえられてしまった。

 いったい誰がどう責任を取るのか、ということになった。


 グルーガリア国内で向かう矛先というのは二つだろう。

 国内が荒れ果てたのはオリエント国が原因であり、材木所を手にしているのもそこなのだから、なんとしてでも奪い返すべきであるという徹底抗戦を辞さない者たちだ。

 これらはいわゆる武闘派系の者であり、ヘイル・ミディアムに近しい者たちでもあった。


 だが、そんな連中こそに責任があるという主張がここ最近、大きくなってきているということらしい。

 そもそもが、オリエント国と戦うことになったのが間違いであり、しかもそれがただの個人的な恨みによる行動だったのだ。

 ヘイル・ミディアムが全て悪いのであって、彼とその彼にしたがって行動した者たちこそが悪いのだという意見だ。


 今までならば、そんな意見は出なかっただろう。

 だが、ここに至ってはそうも言っていられない。

 ここまで国土が荒れ果てていくのを黙ってみていられないからだ。

 これ以上、事態が悪化すればさらに自分たちの土地や収益までもが失われてしまう。

 だったら、すべて悪いのはヘイル・ミディアムらであって自分たちではない、というのがそいつらの意見だった。


 ようするに、責任の押し付け、あるいは責任転嫁ともいえるだろう。

 反ミディアム派の行動原理は「自分たちは関係ないから許してくれ」というものだ。

 悪いのはすべてあいつらで、俺たちは悪くない。

 だから、助けてくれというわけである。


 が、それを口で言うだけでは相手も信用しない。

 ならばどうすべきか。

 悪い奴ら、責任を取るべき奴らを自分たちで成敗して、それを身の潔白の証明として使おうということになった。

 つまり、今はいないヘイル・ミディアムをすべての元凶にし、その一族を中心に関係者の首を切ってオリエント国との交渉に入ろうという勢力がグルーガリア国内で勢いを増してきたのだ。


 どうも、オリエント国は敵対国でありながらも、ある程度の信用を向こうから持たれているようだ。

 これまでの実績なんかも関係しているのかもしれない。

 敵対したパージ街やぺリア国、あるいはイーリス国などとも戦闘後に交渉を行い、剣を収めてきた実績があるからな。

 それに、バルカ教会のこともある。

 グルーガリア国にもあるバルカ教会はオリエント国と密接な関係があり、交渉の窓口になりえる。

 しかも、その教会は魔法を使う者は信者であり、信者を助けるために行動するという教義もあるのだ。

 それを利用して、交渉の場を用意することができると思われているのだろう。

 そのためには、この戦いを終わらせるために責任を取るべき連中に働いてもらおうと武力行使に出たようだ。


 そんなこんなで、グルーガリアでは二つの意見がぶつかり合うこととなった。

 物理的に閉鎖されている、壁で囲まれた都市の中でだ。

 もちろん、ミディアム派も黙ってその主張を受け入れるはずがない。

 受け入れたら、自分の首が胴体と別れることになってしまうのだから。


 こうして、グルーガリア国内では内部で争いが勃発することとなった。

 生き残りをかけた戦いをする者たちを、俺たちは外から見届けることになったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 切欠はともかく戦争にしないで済む交渉蹴った奴放置じゃなあ
[一言] ぶっちゃけ殺し殺されの世界にいるくせに誰々の仇!とか、おまいうなんだよね~
[良い点] 冷酷だけど信頼されてるからなあ 更新再開ありがとうございます!待ってましたー!
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