外交官の危険性
「それはまた、なんというか危険な賭けをしましたね」
「アロンダルを味方につけたことはそんなに危険だったかな? オリバだったらどうしていた?」
「私であればどうしたか、ですか。難しいですね。ただ、危険な賭けといったのはアロンダル殿を味方につけたことよりも、イーリス国への対処ですよ」
「イーリス国への? 外交でなんとかしようってのはまずいってこと?」
「はい。というか、お忘れですか? グルーガリア国とオリエント国が戦になったのは私怨からです。グルーガリア国のヘイル・ミディアム殿が実の息子を殺された恨みでアルフォンス殿を攻撃した。それに対する報復として今回の戦いが始まったのです。であれば、イーリス国でもそうなるかもしれません。十剣士を三人倒したということは、それを恨む者もいるということですよ」
「なるほど。十剣士三人を倒したことで混乱する隙をつければと思ったけど、恨みでなにされるか分からないってことか。そう言われると確かにそうかもね。外交に向かった奴は大丈夫かな?」
「さて、どうでしょうか。ですが、そのことは外交を担う者であれば行く前から危険性を理解しているでしょう。それを承知で行っているのです。ぜひ、アルフォンス殿にはイーリス国に対しての外交が成功した際には、それに見合った対応をしていただければと思います」
イーリス軍の迎撃を終えて帰還した俺はグルー川の拠点でオリバと話していた。
グルーガリア国への援軍として現れたイーリス軍を追い返すのではなく、十剣士の一人を味方にして別動隊に仕立て上げるという作戦を聞いたオリバだったが、すぐにそれがどれだけ危険のあるものかを理解していたようだ。
確かにオリバの言うとおりかもしれない。
恨みというのは大きいものだ。
それも、人の命というのは重い。
イアンと戦った十剣士がどういう人間だったのか、今となっては俺たちには知る由もないが、彼らにだって大切な人はいたのだろうし、彼らを大切に思っていた人もいるだろう。
そういう者たちがこちらを恨まないはずがない。
少なくとも彼ら三人が属していた派閥の関係者は、オリエント国を叩くべしという意見になるだろうな。
ただ、現役の十剣士という武力が無くなったその派閥の勢いがどこまであるかというのが問題になるだろうか。
それらの派閥ともともと敵対している派閥をうまく使って、イーリス国を操ることができればいいが、それは外交官の手腕にかかっているといってもいい。
そんな難しい外交がうまくいったのならば、その仕事をこなした外交官にはきちんと報いるように。
オリバの言葉を聞いて、考えさせられるものがあった。
というのも、ぶっちゃけそこまで深く考えていなかったからだ。
俺としては戦場で倒した相手が自分のために働くと言ってきたから、それを最大限に利用しようと思っただけだ。
イーリス国に対しての外交もうまくいけば儲けもので、ぶっちゃけ失敗してもそれはそれでいいやとも思っていた。
なので、外交官がどんな気持ちと覚悟でイーリス国へと向かっているのかといったことは、全然考えもしていなかったのだ。
だが、確かにオリバの言うとおりだと思う。
きちんと報いる必要がある。
なんなら、多少失敗しても感謝するくらいの気持ちが必要かもしれない。
危険を承知で敵対国へと向かう者をないがしろにしていたら、今後外交に向かってくれる者がオリエント国にいなくなるかもしれないからだ。
そうなったら、さすがに困る。
「オリバの言うとおりだな。助言をくれて助かったよ」
「いえいえ、とんでもない。ですが、ご理解いただけて良かったです」
「だけどなあ。多分だけど、アイもそのへんの判断ってあんまりちゃんとわかってないんじゃないかと思うんだよね」
「アイ議長がですか?」
「そう。アイはそういう心情とか覚悟を汲み取っての対応って多分しないんだよね。だけど、それが必要なこともあるだろう? もしよかったら、オリバにはそのへんの手伝いをしてくれると助かるかな。魔導通信器でバナージ殿とも話し合って、イーリス国の寝返り工作が成功したら、それを成し遂げた外交官にどういう報酬を提示すればいいか考えておいてくれないか?」
「私がですか。分かりました。僭越ながらどのようなものがいいか、考えさせていただきます」
アイは普通に事前に提示した条件で仕事をこなしたら、既定の報酬を渡すだけ、とかになりそうだしな。
だけど、今後のことを考えて、ちょっと色を付けたりしたほうがいいのかもしれない。
そのへんの塩梅はバナージやもともとバナージのもとで仕事をしていたオリバなんかのほうがよくわかっているだろう。
その後のオリバからの意見では、バルカ教会の評価をあげてやるのはどうだろうかというものだった。
外交で敵対国を味方につけるという働きは、ある意味で敵軍を倒して国を得ることにも匹敵する仕事でもある。
むしろ、戦わずして戦力を増やすことにもなっている。
だが、ただお金を渡すだけではなく、地位をあげたほうがいいのだが、あまり下手に高すぎる地位を約束するのも後々困る可能性もある。
だったら、バルカ教会の評価をあげてやるのはどうだろうかというものだった。
今はS評価で金貸しができるようになるが、たとえばB評価にまであげる、とかであれば今後もバルカ教会、あるいはオリエント国のために働いてくれることになるというのがオリバの読みだった。
結構いい案なのかもしれない。
とりあえず、俺とアイはそのオリバの意見を受けて、外交に出向いている者に仕事達成の暁には評価が上がることを伝えて、鼓舞することにしたのだった。
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