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殲滅戦

「キーマ様、敵影近づいてきます。そろそろ魔法が届く距離に入るかと」


「よし、総員、魔法準備だ。先頭の敵騎兵を狙い撃て」


 我ら1000を超えるキーマ騎兵隊が一丸となって白の魔獣の群れへと突き進んでいく。

 魔獣型の数は100か200かというところか。

 こちらのほうが圧倒的に数的優位にある。

 いくらあの白いのが魔法を放てるといえども、数の有利は覆しようがない。

 このまま押しつぶしてやる。

 俺が騎竜を走らせながらそう考えていると、こちらの魔法が届く距離に入った。


「狐化・朧火」


 俺と声をあわせてこちらの騎士が魔法を発動する。

 ウルクが誇る妖狐変化の魔法、【狐化】だ。

 頭には狐の耳が飛び出し、尻には尻尾が生える。

 フサフサとした金色の毛並みが突撃する騎兵に広がっていった。

 その狐化を発動した状態でさらなる魔法である【朧火】を発動する。

 これまで幾多の戦場で宿敵フォンターナの【氷槍】を撃ち落としてきた炎の魔法。

 それが一斉に敵へと放たれる。


「散開、壁を造れ」


 朧火が敵へと殺到する瞬間、俺の耳に声が聞こえた。

 まだ少年の声だ。

 少し高めの声が【狐化】によって鋭敏になった聴覚によってはっきりと聞き取ったのだ。

 散開?

 もしかして戦わずに逃げる気なのだろうか。

 そうか、やつの狙いはもしかするとこちらの戦力を測るだけでまともにぶつかる気はなかったのかもしれない。

 だが、逃がすはずがないだろう。

 なんといってもこちらもスピードのある騎兵隊なのだ。

 背中を見せて逃げるようなことを許すはずがない。


「キ、キーマ様。前方に壁が出現しました!」


「は? な、なんだあれは……」


 だが、俺の予想は次の瞬間には覆されていた。

 逃げる気なのかと思った敵がこちらの前方で左右に別れて横に流れるように進む向きを変えた。

 しかも、ありえないことに左右に流れていく白の魔獣が通ったところに次々と壁ができていくではないか。

 何だあれは?


「くっ、壁にぶつかるぞ。止まれ」


「いけません、キーマ様。前を進んでいる我々が止まれば後方の騎兵が後ろからぶつかります。止まってはいけません」


「ちっ、騎兵隊、急速旋回だ。壁にぶつからぬように大きく旋回しろ!」


 最高速度で敵に突撃するためにスピードをあげていたのが仇となった。

 こちらが走る目の前に次々と壁が出来上がり、左右に広がっていくのだ。

 急停止しようと思ったが、確かに爺やの言う通り、止まれば後ろからぶつかりかねない。

 ならばと、急激な角度で旋回を開始する。

 こちらも先頭から左右に別れてグルリと回らざるを得なくなってしまった。


「なんだ、この壁は。朧火が当たっても燃えないところを見ると幻覚の類ではないことは間違いないが」


「キーマ様、覚えておいでですか? フォンターナの家宰であるレイモンドを倒して騎士になったというアルスは築城を得意にしているということを」


「築城? まさか、やつは戦いながら城でも造る気だというのか?」


 アルス・フォン・バルカは築城をはじめとする建築が得意だとは報告を受けている。

 確かレイモンドとの戦いの前にも城を造ったという話だし、領地を与えられた際にも変わった城をつくったようだ。

 後者の城はなにやら見たこともないような建築様式で評判になっていたのも知っている。

 だが、まさか戦闘中に城を造るなどあり得るはずがない。

 俺はいったい何を見せられているのだ……。


「くそ、忌々しい壁だ。……なんだ、今の音は?」


「キーマ様、後方の騎兵が状況を察知しきれず曲がりきれなかったようです。壁に激突したのかと」


「なに? どうもこの壁は薄っぺらいものではないようだな。騎兵が衝突してもびくともしていない」


「そのようです。どうやら、この壁はこちらを取り囲むようにつくっているようです。早く後方の壁がないところから脱出するのが重要かと思います」


「分かっている。後ろの損害は気にせず止まらず進め」


 お互いの騎兵隊が衝突しようとしていた直前に敵の魔獣型が左右に別れて壁を作り、それをそのままこちらを取り囲むようにされてしまった。

 ほとんど真後ろへと戻るほどの角度で旋回しなければならなかったこちらの騎兵隊だが、その数の多さが仇となったようだ。

 あまりの急角度の旋回だったため、判断の遅れた後方部隊の一部は曲がりきれなかったようだ。

 しかも、突撃力のある騎兵がぶつかっても壁はほとんど崩れたように見えない。

 もしかしたら、騎兵の突撃を想定して分厚い壁を造ることができる魔法なのだろう。

 そのような魔法は今まで聞いたこともないのだが……。


「見えた。出口だ。あそこから脱出するぞ」


 だが、ぶつかったのは後方のごく一部だ。

 今はそのことに引きずられる訳にはいかない。

 急旋回後に見えてきた今はまだ壁のない部分に向かって脱出するために騎竜を走らせる。

 その時だった。

 こちらを取り囲むように作られていた壁が左右から閉じられる前に、再び少年の声が聞こえた。


「槍、一斉掃射」


「な、なんだと? ……ひょ、氷槍が来るぞ。迎撃しろ」


 左右に作られた壁からの脱出路。

 そこへ目掛けて走っていたこちらの騎兵に向かって、出口部分の外側から魔法が放たれる。

 あれは紛れもなくフォンターナ家が持つ氷の魔法、【氷槍】だ。

 それが一斉に放たれたのだ。

 慌ててその氷の槍を撃ち落とそうとする。

 しかし、その動きが遅れてしまった。


 最高速度で走っていたところに壁を作られて急速旋回した影響だ。

 走っている騎竜から振り落とされかねないほどの角度で曲がったために、なんとか手綱を握りしめて姿勢を維持しながら走っていたのだ。

 さらに隊列が左右に別れ、しかも縦に間延びしてしまっていた。

 前方にある出口部分から一斉に放たれた【氷槍】を【朧火】で溶かし落とすにはこちらの手が圧倒的に足りなかったのだ。


 先頭を走る騎竜に氷の槍が殺到する。

 俺の声を聞き、かろうじて【朧火】を放ったものもいるようだが、その数は明らかに足りなかった。

 鋭利な氷の槍が騎竜や騎士、兵士へと直撃する。

 まるで時間が止まったのではないかと思うほど、周囲の動きがゆっくりとなる感じがした。

 氷槍にて傷を負った騎兵が倒れ、そこに後方からついてきていた別の騎兵が衝突する。

 ドンッという大きな激突音がしたかと思うと、ぶつかった騎兵が宙を舞う。

 そうして倒れた騎兵を更に後ろからきた騎兵が乗り上げてしまう。


 最悪の悪循環だった。

 1000ほどもいた騎兵が全て壁の中に取り囲まれたのだ。

 そこから脱出するために、たったひとつの出口へと殺到する。

 だが、それが悪かった。

 ただ一点に集中したこちらの動きはたった一手で動きを完全に止められてしまった。

 もはや分かっていてもこの流れを止めることは誰にもできなかった。


「こ、こんな馬鹿なことが許されるか。認めん、俺は認めんぞ。爺や、氷槍を無視して走り抜けるぞ。損害覚悟で脱出して、敵を、アルスを討つ。……爺や、どうした、どこだ、爺や?」


 この流れを断ち切るのは不可能。

 であるならば、やるべきことはひとつだ。

 こうなったらこちらの損害は覚悟で敵の頭を潰すしかない。

 そう判断した俺が爺やへと指示を出した。

 だが、その返事がない。

 まさか、と思い周囲を見回しても、それまで横につけていた爺やの姿はどこにもなかった。


「許せ、爺や。ウルクの英雄をこんな形で失うとは無念だ。だが、お前の仇は俺が討つ。皆のもの、俺に続け。なんとしてもアルスを討ち取るのだ」


「壁、閉じろ」


 だが、俺の思いは届かなかった。

 決死の覚悟で出口から脱出し、アルスを討ち取ろうといまだ氷槍を放ち続ける白の魔獣に特攻を仕掛けた瞬間、さらに少年の声を耳に捉えた。

 爺やの無念を晴らそうと俺に続いてアルスへと突撃を仕掛けた残りの騎兵は残らず新たに現れた壁に衝突し、キーマ騎兵隊の動きは完全に絶たれたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 1人だけフォートナイトやってる…
[良い点] 鎧のオッサン達にキツネ耳とフサフサ尻尾が!?
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