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アロンダル隊の使い方

「あいつはなんだ? お前の知り合いか、アルフォンス?」


 イーリス軍本陣での戦いが終わった。

 本陣にいた三人の十剣士を倒したことで、ほかのイーリス兵が抵抗をやめたからだ。

 といっても、部分的にはまだ戦いが続いている。

 夜更けで暗いためにすぐには状況がつかめずに散発的な戦闘があるからだ。


 だが、ひとまずは落ち着いたということでイアンが俺に聞いてきた。

 というか、俺から声をかけたのだけれど。

 俺が何か言わなければ、イアンはきっとアロンダル隊との戦いを始めていただろうしな。

 歴戦の傭兵でもあるイアンは自分の敵に襲い掛かったアロンダルたちをみてもそれが味方であるとは判断したりしない。

 敵の敵は味方、なんてことはなく普通に第三勢力と判断するからだ。

 なので、俺がアロンダルたちへの攻撃をさせないためにイアンに近づいたのだ。


「あいつはアロンダルだ。俺と血の契約を行ってオリエント国につくことにしたイーリス国の十剣士の一人だな」


「十剣士? なんだそれは?」


「なんか、イーリス国には強い剣士十人をそういうふうに呼んで特別扱いしているらしいよ」


「ふむ。だが、そんな奴が味方につくと言ってきたからといって、よく信用したな。血の契約を全員としたのか?」


「いいや、アロンダルだけだな。ほかの連中はアロンダルについて行動しているだけだ」


「……それは大丈夫なのか? そんな奴らをよく味方と呼べるな。一緒に行動するには危険だと思うがな」


「それは大丈夫だよ。どうせアロンダル隊とは一緒に行動しないしな」


 アロンダル隊は信用できないだろうという至極もっともなことを言うイアン。

 そのイアンに今後についてを説明する。

 これからのアロンダル隊の活用についてだ。


 俺も別にアロンダル隊を完全に信用していない。

 が、状況的に利用できそうだとも考えていた。

 それは、今のオリエント国の状況にある。


 もともと、ぺリア国と戦った俺の背後から攻撃してきたヘイル・ミディアムおよびグルーガリア国への報復として始まったこの戦いは、現在持久戦となっている。

 首都を壁で囲んで閉じこもっているグルーガリア国とグルー川の川岸に拠点を作っているオリエント軍。

 そのオリエント国への反撃の手段としてグルーガリア国が用意したのがほかの小国からの援軍だ。

 その数はなんと十か国をも越える国から軍が出向いてやってくる。


 そのための対処として俺が考えていたのがグルーガリア国およびその周辺国からの食料を減らすことだった。

 それはある程度は進んでいる。

 が、今後はそれが難しくなることも予想された。

 イーリス軍以外にも次々と援軍が到着すれば、オリエント軍は拠点に籠って防衛主体の戦いになる可能性が高いからだ。


 外に打って出て食料の倉庫や拠点を荒らしまわる、ということができなくなってしまうだろう。

 そこで、その役目をアロンダル隊にやらせようと思う。

 グルーガリア国へと援軍にやってきたイーリス軍がオリエント軍とは積極的には戦わずに食料を狙って行動することで、ほかの小国からやってきた援軍を牽制できると考えたからだ。


「つまりは別動隊か。あるいは、オリエント軍への援軍効果のある部隊として利用するというわけだな」


「そういうこと。直接一緒に行動しなけりゃ、裏切られたときの危険度はさほど高くはないしね」


「だが、そんなに簡単にいくのか? 軍というのは国元からの命令も届くだろう? 最初からある作戦と違いすぎると言われるのではないか?」


「いや、そんなことはないさ。グルーガリア国に侵入したイーリス軍はオリエント軍と戦い、指揮官級の十剣士三人を失った。が、生き残った十剣士の一人であるアロンダルが軍の指揮をそっくり引き継いで軍を動かすことになっただけだ。もっとも、今回の戦いで食料も失われたから、現地調達すべく尽力している、とでも報告しておけばいいよ」


「ずいぶん適当な説明だが、それで通じるのか?」


「多分ね。軍の指揮系統なんてオリエント国以外は案外適当なものだからね」


 イアンはアトモスの戦士だ。

 傭兵として戦場に出て、そこで戦い報酬を得る。

 そんな生活をしてきたから、軍とともに行動した経験は多いが、きちんと軍に所属したという面ではオリエント軍が初めてともいえる。

 だからこそ、イアンの軍にたいして持っている常識は今のオリエント軍のものであるともいえるだろう。

 だが、オリエント軍はほかの小国とはだいぶ毛色が違う。

 イーリス軍はオリエント軍とはかなり性質が違うものなのだ。


 俺が国防長官になり、バルカ式に軍制改革を行ったオリエント国はかなり組織化された軍である。

 が、イーリス軍は十剣士という特別な存在がいて、そいつらの名声で国内から兵を集めて作り上げたものなのだ。

 十剣士が自分の配下を使い、集めた人を束ねて行動しているだけとも言える。

 なので、ほとんどの兵は軍の作戦行動を正確には理解していない。

 命じられたとおりについていき、その場で伝えられる命令を実行するだけだ。

 今回で言えば、貧民に線路を作らせながらグルーガリア国に向かうということだけしか知らない兵も多い。

 なぜ、オリエント軍と戦うのかという理由もきちんと知らなければ、戦う相手がオリエント軍であると知らない者すらいるらしい。


 なので、三人の十剣士がいなくなった後、それを引き継いでアロンダルがこの軍の指揮を執ってもある程度は機能するだろう。

 もちろん、その場から逃亡する兵や貧民もいるだろう。

 だが、残ったイーリス兵でグルーガリア国内を荒らしてくれればそれでいい。


 そして、そんなふうに勝手に現場で判断して行動するイーリス軍の制御を本国ができるかどうかという問題がある。

 が、イアンと話す前にアロンダルとも話したのだが、しばらくの間は確実に見逃されるだろうということだった。

 というか、オリエント国と違って魔導通信器みたいなものがないからな。

 アロンダルが伝令を使って、襲撃を受けたが問題なしと報告しておけば時間が稼げるのだ。


 そして、時間を稼いだうえで外交を行う。

 オリエント国ではバナージが外交を得意としているが、バナージ以外にもそれを行う人材はいる。

 もともと、小国の中でも弱国として知られるオリエント国は外交で生きてきた国だからだ。

 十剣士という武力を持つイーリス国に弱国オリエント国ではこれまでならば有利な外交はできなかっただろう。

 しかし、今は違う。


 なぜならば、十剣士のうちの三人が同時に失われたからだ。

 彼らは強力な達人であるが、それ以外にもイーリス国内での派閥争いに関わる人物でもある。

 十剣士はたしかに強い十人を国内から選ぶそうなのだが、その選考過程には国内政治の影響も受けるのだそうだ。

 代々の名家の出身から誰が何人、その十人の枠に収まるかで政治的な意味合いが変わってくる。

 それが今回は三人が失われたことで、派閥争いが起こることは必然だとアロンダルは言った。


 つまり、イーリス国は政治的にしばらく混乱する。

 それをオリエント国の外交官がうまく話をつけて、正式に味方へと引き込めないかというのが俺の考えだ。

 グルーガリア国に援軍を出す国を自陣営にひっくり返せば、敵対国が一つ減るだけではなく、戦力差が二つ挽回できるということでもあるからだ。

 やってみる価値は十分にあるだろう。


 こうして、アロンダルは残ったイーリス兵の大部分をまとめ上げ、オリエント国とは別にグルーガリア国内で活動を再開することとなった。

 そして、オリエント国からはイーリス国へと外交官が向かい、国ごとこちらにつくように交渉が行われることとなったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 外交戦略で、援軍を寝返りを誘う。 一ヶ国寝返れば、皆疑心暗鬼になるしね。
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