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キーマ騎兵隊

「よし、このまま森を突っ切ってフォンターナの連中に打撃を与えるぞ」


 収穫時期が終わったタイミングでフォンターナが動いたという報告がきた。

 大方の予想通りというところだろう。

 昨年になってフォンターナに権力争いが起こったのだ。

 結果としてそれまでのレイモンド派が一掃されて、当主であるカルロス派にまとまった。

 となれば相手の動きは読みやすい。

 領内をまとめたらしいが、内心では面白く思っていないものも多いのだ。

 その不満を抑えるためにも、自領の外へと目を向けさせるのが一番だ。

 ウルク家を共通の敵として改めて戦い、自領内の勢力を安定化させることを考えるに違いない。

 まさしくフォンターナの動きはそのとおりとなったのだ。


「キーマ様、もうすぐ森を出ます。物見の報告では進行ルート上に敵影なしとのこと。このまま、フォンターナの陣地へと攻撃を仕掛けることが可能です」


「よし、このまま速攻を仕掛けるぞ、爺や」


「はい、それがよろしいと爺も思います。まだ、フォンターナがこちらに到着してすぐです。おそらくは移動の疲れをとるために一息ついているところでしょう。そのスキを突けば戦果をあげられましょうぞ」


 兵を率いる俺を補佐する爺やが話しかけてくる。

 かつてウルクの猛将として知られ、俺の教育係となった爺やがそばに居てくれるだけでも心強い。

 長年戦い続けてきた爺やが今回のフォンターナとの戦いで選んだのは、速攻だった。

 以前の戦いからアインラッドの丘をウルク家のものとして維持してきたおかげで、こちらが攻めることのできる場所と相手からの攻撃ルートをすべて把握している。

 その上で、この奇襲を進言してきた。

 フォンターナが陣取りした場所に急襲することができる。

 ここでやつらに損害を与えて出鼻をくじけば、あとは丘を要塞化しているこちらが圧倒的に勝ちやすくなる。

 故にこの攻撃を成功させなければならない。


「キーマ様、森を出ます。このまま作戦の通りに」


「よし、騎兵隊の兵士たちよ、このままフォンターナのやつらを血祭りにあげるぞ」


 森を抜けるタイミングで俺が声を上げる。

 この攻撃のためにアインラッドの丘に陣取るウルクの騎兵部隊を連れてきている。

 そのすべてが獰猛で力と硬さのある騎竜たちだ。

 全身を鱗に覆われ二本足で走る騎竜に跨がりながら、我がウルク軍が敵陣目掛けて疾走する。


「……なに? それは本当か?」


「はい、間違いありません。敵に動きあり。こちらを察知し、迎撃に向かってきているようです」


「爺や、どうした?」


「はっ、キーマ様、只今連絡が入りました。フォンターナの一部の部隊がこちらの動きに気づき、迎撃の準備に入ったようです」


「なんだと? こちらの動きは察知されないのではなかったのか?」


「そのはずだったのですが……。しかし、問題ありますまい。その部隊も他の作業をしていた最中のようで、少数が慌てて飛び出てきただけのようです。このまま進んで押しつぶせばよいかと」


「わかった。では、このまま進軍だ。行くぞ」


 愚かな。

 少数で何ができるというのか。

 こちらは最強の騎竜部隊なのだ。

 倍の数を持ってきたとしても敵うものではない。

 いいだろう。

 このままそいつらを蹴散らして、その勢いを利用して敵本陣に殺到してやろうではないか。

 俺は全軍にそのまま進軍の指示を出して敵陣に向かって進んでいったのだった。




 ※ ※ ※




「キーマ様、敵影を確認。しかし、あれは……」


「な……、あちらも騎兵なのか……。いや、それにしても人の姿が見えないが」


 何だあれは?

 進軍を続けるこちらの軍に対して向かってくるものの姿が見えた。

 驚いたことにそれは人の姿ではなかった。

 使役獣なのだろうか?

 四足歩行する使役獣が多数、土煙をあげながらこちらへ向かって近づいてきている。

 だが、おかしなことにその使役獣の上には人がいない。

 あれでは騎兵とも言えないのではないのだろうか。


「白い四足歩行の獣。頭にはなにかあるようだが、あれは角か? もしかしてあれが噂になっていた魔獣型か?」


 去年隣の領地で唐突に起こった一大事件である「バルカの動乱」。

 いきなりフォンターナのトップに立っていたレイモンドが討ち取られた。

 その報告はこちらもしっかりと調べている。

 その中で信じがたい報告が混ざっていた。


 レイモンドを討ち取ったのはまだ年齢1桁の少年であるという。

 だが、それそのものは問題ではない。

 注目を浴びたのはその戦力だった。

 戦闘経験も人数差も有利にあったレイモンドを一撃のもとに討ち取った最大の要因は突如乱入してきた使役獣の群れだったという。

 白の姿に角が生えた獣が魔法を用いてレイモンドの率いる軍を蹴散らしたというのだ。


 魔獣型の使役獣。

 それは本来恐ろしく貴重で高価なものだ。

 そんな魔獣型を戦場に持っていくやつがいるはずがない。

 だと言うのにバルカではそれが多数実戦に投入されたというのだ。

 あり得るはずがない。

 一頭死ぬだけでどれだけの金銭的損害が出るのか想像もできないからだ。


 その話に聞いていたであろう魔獣型使役獣がこちらへと向かってくる。

 ということは間違いなくあれはバルカに現れた白い魔獣なのだろう。

 だが、正気か?

 そんな奇策が通じるのは最初の一度きりだ。

 すでに情報を掴んでいる我々に通じるはずがないだろう。


「爺や、全軍に伝えろ。あの白いのは魔法を使う。こちらも魔法が届く距離になれば魔法にて攻撃開始だ。盾の準備もぬかるなよ」


「はっ、かしこまりました」


「それにしても魔獣型だけか? できれば何頭か持って帰りたいものだが」


「キーマ様、作戦実行中にあまり不用意なことを考えないように。何が失敗につながるかはわかりませんぞ」


「心配するな、爺や。そんなことは分かっているよ。ん? 先頭の魔獣型には誰か乗っているのか?」


「はて、本当ですな。あれは子供のようですが……」


「……子供? まさかあいつがバルカに現れた大物喰らいというやつか!?」


 白の魔獣の群れがこちらに向かってくる中、先頭にだけ人影がある。

 もしかしてあれが噂になっていたレイモンド殺しの張本人か?

 そういえば、レイモンドとの戦いでも先頭にたって突撃してきたのだったか。

 愚かとしか言いようがないな。

 見たところ使役獣の数だけでもこちらが大幅に上回っている。

 いくら魔法が使える魔獣型だと言っても準備を整えて進軍してきたこちらに単身で挑みに来るのは無茶を通り越して無謀というものだろう。

 やはりまだ考えの足らぬ子供なのだ。

 前回の戦いで成功したことが今回も間違いなく成功するものだと思いこんでいるのだろう。


「いいだろう。ウルクの騎兵の強さを小生意気な子供に教えてやろうではないか。総員、槍の陣形をとれ。あの先頭の騎兵を中心に突撃するぞ」


「御意。全軍、槍の陣形だ。敵の魔獣隊を突破するぞ」


「「「「「おう」」」」」


 こうして、我がキーマ騎兵隊はバルカの白い魔獣と激突したのだった。

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