ものづくり
「こんなにレンガがあっても困るわね。せめてこれがお皿とかだったら良かったのに」
俺が魔法の実験と称して大量のレンガを作ってしまい、その処分に困っていたときのことである。
山積みにされたレンガを見ながら、母親が「あらあら」と頬に手を添えながらそういった。
なるほど。
建物を作るためにレンガを作り出した俺はレンガを作るためだけの魔法を開発したために思いつかなかった。
だが、土からレンガを作り出せるのであれば皿なんかも作ることは十分可能だろう。
俺は母のこの言葉を聞いて、さっそく作業に取り掛かったのだった。
土を材料に練り上げた魔力をその土へと満たして頭の中にイメージを作り上げる。
そうしてできたものが、前世で毎日使用していたご飯茶碗だったのは仕方のないことだろう。
もっとも、今の生活では米はなく、豆のスープが主食である。
茶碗を見た母の第一声は「ちょっと変わった形をしているのね?」だった。
確かに言われてみればスープには使いづらい形ではある。
そこで現実に即したものを作るように変更した。
それほど大きなものは必要ないので、レンガを大量生産していた俺の魔力ならばいくつでも作ることができる。
いろんな形の皿やコップ、水瓶なんかも作り、母に使用してもらって使い心地も確認していった。
だが、数日もすると十分な量の食器類が揃ってしまい、更にそれ以上は必要ないこととなる。
ならば、量より質へと目が行くのはごく自然なことだったのかもしれない。
一番最初は土をそのまま焼いてできたような器ばかりを作っていたのだ。
さながら土を捏ね上げてろくろで回して作ったものを高熱で焼いてできた、いわば本物の土器のようなものを作ったりしていた。
しかし、それだと基本的に色が茶色系統のものしかイメージできず、すぐに他のものを作るようにしていった。
次に考えたのが紅茶に合うような白のティーカップのような食器類だ。
これは前世の歴史的にも高貴で貴重なものとして高値でやり取りされていたはずである。
単に土を混ぜ合わせるだけではなく、骨粉を混ぜたりするという方法で作られていたはずだ。
それまでにはないきれいな白色が特徴ではあるが、それまでのものよりも薄く、しかし薄さのわりに割れにくいというメリットもあったらしい。
優雅な紅茶を口にするイメージどおりのカップと皿を頭の中で描き出し、それを魔法にて再現することにも成功した。
そのへんの土から作ったにもかかわらずいい色をしている。
思ったよりも原材料としての制限が魔法の場合は低いのだなと感じた。
この白の食器類は非常に母に喜ばれた。
今まで木の器や茶色い土の器を使って生活していたのだ。
その喜びようは俺の予想以上であり、ここまで喜んでくれるのかと驚いたくらいだ。
だからだろうか。
俺はさらに母に喜んでもらおうと思って、この食器に手を加えることにしたのだ。
そして、それによって重大な問題が存在することを知ってしまった。
それは「センスの無さ」だ。
白磁器というものは白色がきれいだと言うこともあるが、その白の器自体をキャンバスのように使って絵を描くことができるという点も大きな特徴としてあげられる。
考えてみれば当たり前でもある。
いくらきれいだとは言っても、同じような白い食器が数多くあっても有り難みがないだろう。
逆に、花や草などの絵や模様があるだけでも同じ皿でも使用者に与える印象は大きく変わってくる。
そこで俺はイラスト付きの食器を作ろうとしたのだ。
だが、いくら作っても、完成した品を見るといかにも素人が思いつきで描きましたというようなセンスのないものしかできなかったのである。
それでも喜んでくれたものの俺の中の満足度は決して満たされなかった。
母を喜ばせたい。
俺はこのとき、いつになくムキになっていたのかもしれない。
しかし、美的センスが今ひとつであるために先程の方法では俺が納得できない。
ならば、他に方法はないだろうかと考えたのだった。
白磁器に模様をつけて変化を出すことができないというのであれば、ほかの方法によって変化をもたらすしかないだろう。
もともと最初は土器みたいなものを作っていて、次に白磁器を作り上げたのだ。
ならば、白磁器以外の食器を作ろうということになった。
そこで俺の中に浮かんできたのが、ガラスの食器だった。
透明なガラスの食器は同じ皿でも全然印象が違うだろう。
成功すれば必ず喜んでくれるに違いない。
ガラスなんか作れるのかという疑問もあるが、以前どこかで海辺の砂からガラスを作るといった話を聞いたような気がする。
もちろん原材料はそれだけでは足りないのは明白だが、白磁器も土から作ることができたのだ。
やってみてもいいだろう。
ガラスの器として、俺の中ではコップが思い浮かべやすかった。
細長い円柱状で透明なグラスだ。
前世では毎日冷蔵庫から取り出した冷えたお茶をそのグラスに注いで飲んでいた。
その使い慣れた透明のグラスをしっかりと思い出しながら魔法を発動する。
そのへんの土へと混ざり込んだ俺の魔力が理解不能な原理で、しかし、いつもと同じように土に変化をもたらした。
こうして俺は、ガラス作りに成功したのだった。
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