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拠点作成と焼き討ち

 氾濫が多く起こる九頭竜平野。

 その中でも比較的マシな部類に入る大河であるグルー川。

 川を渡るのには船を使用しなくてはならなく、水量・水深ともに豊富であり、ゆったりとした川の流れが続いている。

 が、そんな川でも川岸に拠点を作るとなれば簡単ではない。

 しっかりと増水にたいして対策を取る必要があるのだがのんびりと工事なんてしていれば、さすがにグルーガリア側からも攻撃される可能性があるか。

 いつ攻撃されるかわからない状況で、落ち着いてことを進めなければならない。


 それもこれも、急転換した戦略として、俺たちオリエント軍は持久戦を指向することとなったからだ。

 だが、当初の予定と違ってもオリエント兵は文句を言わずにこちらの指示に従って動いてくれる。

 グルー川に拠点を作って守りを固め、そこには船を使って補給を行い続ける。

 そして、その拠点を使ってグルーガリア国内を荒らしまわることとする。

 そのために、守りの壁と船着き場を大急ぎで作っていった。


「経験が生きたな。多分、どこの国よりも拠点作成の時間が短い自信があるぜ」


「たしかに。オリエント兵もバルカ傭兵も、ともにいくつもの工事に携わってきていましたからね。全員の動きが速いので、この分だと問題なく拠点が完成するでしょう」


「じゃ、俺たちはその間に出陣するか。悪いけど、イアンはここで待っていてくれ。グルーガリア軍が出てきたら頼んだぞ」


「わかった」


 グルーガリアの首都と違って、この拠点は【壁建築】で作った。

 どうしても、魔力の消費量的にそのほうが速いからだ。

 そして、陣地内には仮設の建物を作っていき、桟橋をくみ上げる。

 普通ならばもっと工事期間がかかるのだが、この時の陣地内施設の建築を俺たちはあっという間に終えていた。

 それは、川に隣接する場所に陣地を作ったことが関係している。


 本来であれば家を一軒建てるだけでも相当な時間がかかるものだ。

 木を伐り、丸太を作り、乾燥させ、そこから木材を切り出して、木目を読みながら適切な長さに切り、くみ上げて、くぎを打つ。

 零から建物を作るとなると工程が多いからだ。

 だが、それを省略するために、オリエント国では建築資材の規格化が進んでいた。


 これは近年の工事がいくつも同時並行的に行われていたことから、アイが導入したやり方だった。

 オリエント国内で作る建物に使用する材料を最初から一定に規定しておく。

 そうすれば、現地でその都度長さを測って切るなどという作業もなく、まるで組み立てるだけで建築ができるようになるのだ。

 それにより、かなりの手間と時間が省略できた。

 オリエント国内の職人たちには個性が出にくいものづくりのやり方だと批判されることもあったが、工事現場ではさっさと雨風を凌げる建物を作るほうが先決だったので受け入れられているといった経緯があるのだ。


 そんな規格化された資材をグルー川という物流の動脈を使ってグルーガリア国内の拠点に送り込み、高速で建物を多数くみ上げることに成功した。

 さらには、剣や弓、矢や食料、日用品なども次々と運び込まれていく。

 ときおり、グルー川の中州にある材木所などからこちらの様子を偵察しようと動く船も見受けられたが、そのたびに魔導鉄船で迎撃していたら出てこなくなった。

 これならば、ひとまず拠点の守りは大丈夫だろう。


 そう判断した俺たちはふたたび外に動き出すこととなった。

 拠点から外へと出て、攻撃を開始する。

 といっても、グルーガリア国の首都ではない。

 そのほかの町や村だ。


 持久戦をするにあたって、食糧問題は生死に直結する。

 いくら都市は壁に囲まれていて安全であり、食料を備蓄しているといっても、限度がある。

 兵糧攻めがこの持久戦でこちらのとるべき戦術だった。

 徹底的に食料を奪い取る必要がある。

 それこそ、籠城している都市の中が餓死者で全滅するくらいの規模でやらなければならない。


 それには速さが必要だ。

 あちこちの米がありそうな場所にすべて出向いて焼き払う。

 そのために、俺とオリバは騎兵隊で出撃した。

 最近はようやくヴァルキリーの数がそろいだしてきたからな。

 三百騎ほどでグルーガリア国内を駆け回る。


「炎雷矢」


 そして、その焼き討ちで一番力を発揮したのがオリバだった。

 オリバが騎乗した状態で弓を使う。

 その弓から放たれた矢は通常の矢であるにもかかわらず、特殊な効果が発揮されていた。

 燃えているのだ。

 なんの変哲もない矢であるのに、矢は炎となって燃えながら空を飛び、そして命中した相手や物を燃やしていく。


「前よりも延焼力が上がっているのか?」


「はい。この【炎雷矢】はここ数年でかなり威力が上がってきたんですよ。着弾した時に相手を燃やす力が増しているんです」


「魔術の改良、か。それはいいんだけど、早く呪文化してくれよ。一発の延焼力を高めるよりも、みんなで炎の矢が撃てたほうが効果が上がるんだけど」


「いやー、申し訳ないです。思った以上に【炎雷矢】の改善が楽しくてなかなか呪文にならないのですよね」


 かつて、グルーガリア国でヘイル・ミディアムとともにオリエント軍と戦った弓兵がいた。

 そのなかに炎の矢を放つ魔術の使い手がいたが、俺が倒して血を奪った。

 その血が今はオリバの体にある。

 オリバが命の危険を顧みずに、血の入れ替えに挑戦したからだ。


 その結果、オリバは赤の他人が使っていた炎の矢という魔術を手にするに至った。

 そして、その魔術を魔法に昇華させるように頼んだのだが、それはいまだに達成されていない。

 どうやら、ずっと魔術の効果を高めるために試行錯誤し続けているらしい。

 日々、炎の矢を放つオリバの姿は見ていたし、その努力の甲斐あってオリバの背中は一回りも二回りも大きくなっている。


 なので、文句を言うつもりはなかったが、魔術を魔法にするには一定の効果を再現しながら呪文をつぶやくという作業が必要なのだ。

 日々成長し続ける魔術では魔法にはなりにくいのだろう。

 この分ではまだしばらくオリバの【炎雷矢】は魔法にはならないかなと思いつつ、それでも各地の穀倉庫を燃やす矢の威力は賞賛せざるを得ないという、微妙な感じで俺たちはグルーガリアから食べ物を焼き払っていったのだった。

 

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