作戦変更
「とりあえず情報をまとめようか。まず、【アトモスの壁】で守りを固めたグルーガリア国首都を攻略するのは難しい。そうだな、イアン?」
「まあそうだろうな。あの壁は俺一人の力では無理だ。アルフォンスの【流星】ならどうなんだ?」
「無理だな。分厚すぎて意味ないと思う」
一度、首都の攻略を中断して話し合う。
まずは前提として、そのまま攻撃を繰り返すことは徒労に終わるだろうということで意見が一致した。
そして、それをもとにして今後どう動いていくかを検討する。
「まずは、方針を固めるか」
「方針ですか? 短期決戦でけりをつけなければ、この国に援軍がやってきますよ」
「まあな。オリバの言うとおりだと思う。だけど、短期決戦で勝負を決めるなら勝ち筋は一つしかない。ただ、ちょっとな……」
「勝つ方法があるのですか? それなら、すぐにそれを実行すべきではないでしょうか?」
「いやー、この場にいる俺たちだけでは無理なんだよね。オリエント国にいるラッセンの力が必要だから」
「ラッセン殿ですか。確か、穴掘り師でしたか。なるほど。壁の下に穴を掘ろうというわけですね」
「うん。多分、その方法でならグルーガリアの攻略はできると思う。魔力のこもった魔石を用意しさえすればね」
「しかし、アルフォンス殿のその雰囲気ではラッセン殿の投入には消極的なのでしょうか? 勝つための方法がはっきりしているというのであれば、すぐに行うべきかと思いますが……」
「そうなんだけどさ。けど、それってラッセンだよりになるってことだろ。これから、相手の拠点が壁で囲まれていたら、そのたびにラッセンに来てもらって攻略の手伝いをしてもらうってのもどうよ? 軍としてまともな状態とは言えないだろ、そんなのってさ」
戦いに勝利する。
そのためだけで言えば、ラッセンを呼び出すのが一番だとは思う。
が、それははたして正しいのだろうかという気持ちがあった。
あいつ一人におんぶにだっこの状態というのはよくないだろう。
それこそ、ラッセンがオリエント国を抜けて別の国に行けば、二度とその戦法は使えなくなってしまうのだ。
というか、それが一番怖いというのもある。
壁という守りを無力化する力を持っているラッセン。
あいつの力を使うなら、ここぞというときに温存しておくほうがいいだろう。
こんなところで気軽に使って、その力の有用性を知られたら、これからずっとラッセンには他国からの勧誘が来ることになると思う。
金だけじゃなくて、いろんなものでラッセンを釣ろうと引き抜きされても困る。
というわけで、できればラッセンの力は表には出したくなかった。
なので、ラッセン抜きで勝てる方法を探していこうと俺は主張していく。
「逆転の発想でいこうか。俺たちは短期決戦でさっさと勝負を決めたくて、グルーガリアは持久戦を目指している。だったら、その持久戦でも俺たちが勝てるような戦いにしてもいいんじゃないかな?」
「持久戦、ですか。まあ、戦場では常に状況が変わるのでいつでもこちらの思い描いたとおりにはならないでしょうが、真逆に方針転換することになりますね。持久戦するような準備はないですよ?」
「いや、その点は大丈夫だ。アイに聞いたからな」
「アイ議長にですか? アイ議長はなんと?」
「ここ数年、国力の増強と土地開発のおかげで食料は豊富にある。だから、持久戦をしても数年ならば戦い続けることはできる、ってさ。ってわけで、一応アイのお墨付きはもらってあるんだ」
「ふーむ。そうですか。アイ議長が言うのであれば、軍を維持できるというのは確かなのでしょう。けれど、グルーガリア国には十か国以上から援軍が来るのですよ。オリエント軍を養う糧食はあったとしても、兵力差などの戦力的に厳しいのではないでしょうか?」
「いや、それもアイが言っていた。オリエント国は数年でも軍を食べさせる食料がある。けど、グルーガリアにはそんな国力はないだろうってさ。つまり、十か国以上からの援軍が来ても、それを飢えさせずに食べさせることはグルーガリアにはできない。そんな余力はないってことだ」
「それは、本当ですか? なるほど。そうであれば、グルーガリア国は戦略を誤ったということになりますね。援軍を頼りに持久戦を指向して、その実、グルーガリア国には持久戦を行うだけの体力がないということになります」
「そういうこと。ってことで、俺からの作戦提案はこうだ。グルー川の川岸に拠点を作ろう。こっちも【アトモスの壁】で囲んだ船着き場を作るんだ。で、そこには魔導鉄船で食料を補給できるように手配しておく。船の装備的に、たとえ十か国以上の国が集まってもオリエント国の船には川の上では敵わないだろうしな。で、俺たちは拠点を作り終えたら騎兵を使ってグルーガリア国の村や町の食料を焼きに行こうぜ。他国の援軍が到着した時には食べるものが無くなっているように、徹底的にさ」
「俺はアルフォンスの作戦に賛成だ。食うものがないのは敗北を意味する。アトモスの戦士はそのことをよく知っている」
「イアンは賛成か。オリバはどうだ?」
「……分かりました。では、さっそく拠点となる船着き場を作る手はずを整えましょう。それを見て、グルーガリア国が飛び出してくれば、それはそれで戦えますしね。いい作戦だと思います」
「よし。それならさっそく作戦にとりかかろうか」
こうして、オリエント国対グルーガリア国の戦いは一転して持久戦へと変わることとなったのだった。
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