防衛本能
「援軍? グルーガリア国に?」
「はい。オリエント国が発したグルーガリア国に対しての宣戦布告を受け、グルーガリア国が周辺国家に救援を求めました。その結果、他の小国からグルーガリア国にたいして援軍が差し向けられています」
「開戦事由は俺が背後から強襲されたことによるもので、こっちに正当性があるだろう? 卑怯なことをした相手を懲らしめるための戦いで、卑怯な側につくってのはその国にとってもあんまりよくないように思うけどな。評判とか下がるだろ」
「そうかもしれません。ですが、それでもなお、グルーガリア国を助けてオリエント国の伸張を防ぎたいのではないかと考えられます」
魔導鉄船に乗り、グルーガリア国を目指している途中のことだ。
同乗しているオリバから情報を教えてもらった。
どうやら、グルーガリア国との戦いには邪魔者が登場する可能性があるらしい。
かつて、五か国からの攻撃を受けた際に、一番最初に攻撃してきたのはグルーガリアだった。
そこで、グルーガリア軍を叩くことには成功したものの、その後、ほかの国からも攻撃を受けてしまった。
そのため、軍を撃破したことは間違いないのだが、相手の国に対しての損害というのはあまりなかったのだ。
あれから少し時が経っているので、今回の戦では当時と同じ程度の兵数までグルーガリア軍は回復しているだろうと考えている。
つまり、今回戦う相手の兵数としての想定は五千から一万程度といったところだ。
が、それでは足りないとグルーガリアは考えたのだろう。
戦費を負担してでも援軍を要請し、こちらに対抗しようとしている。
そして、その求めを受けてほかの国は動いているのだそうだ。
「つっても、そんなに大げさなものではないんじゃないの?」
「いえ。それがそうではないようですね。実はバナージ議員からの連絡があったのです。小国の多くが援軍を派遣する用意を進めているとのことです」
「へ? 多くの国ってどのくらいだ?」
「おそらくは十を越えるのではないか、と。現在確認中です」
「は? 十? なんだよそれ、多すぎだろ。正当防衛の報復戦になんでそんな数の国が首を突っ込んでくるんだよ」
割と気楽に構えて報告を聞いていたが、思ったよりも参戦数が多くて声を荒げてしまった。
めちゃくちゃ多いじゃねえか。
一か国五千くらいを動員してきたら、五万を越えることになるのか?
さすがにそんな数相手では厳しいんだけど。
「これは私の推測ですが、小国家群としての防衛本能が機能したのではないでしょうか?」
「防衛機能? どういうことだ、オリバ?」
「小国家群は九頭竜平野という場所にいろんな国が乱立しています。それらの国は常にはお互いで争い合っていますが、外敵からは身を護るために結束する傾向があるのですよ」
「ああ、聞いているよ。大国と言われる国が小国家群に手を出そうとしてきたら、小国同士が連携し合って抵抗するんだよな?」
「そのとおりです。そして、今回の場合はそれがオリエント国にたいして機能しているのかもしれません。オリエント国がグルーガリア国に対しての攻撃を行うと宣戦布告したことで、一致団結して守ろうという動きが発生したと考えられます」
「……なんでだ? オリエント国なんて伝統的に弱小国だろ?」
「全て、アルフォンス殿の影響でしょうね。霊峰を越えた先にあるという国からやってきて、オリエント国に魔法陣技術やそのほか、これまでに小国家群にはなかった未知のものを多数持ち込んでいます。さらには、弱小と呼ばれた国をここ数年、常勝無敗の国に変え、さらには大国ブリリア魔導国の上位貴族とも婚姻関係を結ぶに至った。つまり、ほかの小国にとっては、現在のオリエント国は小国には属さない大国と同義の存在とみなされているのでしょう。そのために、グルーガリア国からの援軍要請を多数の国が受けるに至ったというわけです」
なるほど。
ま、言われたらそりゃそうかもな、って感じか。
これまでのそこらの小国とは今のオリエント国って明らかに違う異質なものだろうしな。
それでも、これまではそこまでの拒否反応は見られなかった。
それはなぜかと言えば、オリエント国が外には向かなかったからだ。
自国内に閉じこもり、技術発展を優先させ、内政に力を入れていた。
だから、変な国になってきたといっても放置されていたのだろう。
が、ここにきて状況が変わった。
バルカ教会なるものをほかの国に布教をはじめ、しかも、それがきっかけで一つの国が敗北し、表面上は自立してはいるが、実質的にはオリエント国の傀儡国家に変えられたのだ。
もし、ここでグルーガリア国が負ければどうなるだろうか。
旧来のオリエント国とは違い、弓兵として高い質を評価され、独自の高威力の弓を作るグルーガリア国がオリエント国に取り込まれるかもしれない。
というか、ぺリア国とは違い、正式にオリエント国が国として宣戦布告しているので、傀儡国家以上にグルーガリア国が変わってしまうだろう。
もしそうなったら、さらにオリエント国が力をつけるかもしれない。
いくつかの国がそう考えた結果、小国家群に防衛本能のようなものが発動し、集団として異質な国を排除しようという流れになったのだろう。
ヘイル・ミディアムがぺリア国と共謀していた証拠探しに時間をかけすぎたかもしれないな。
証拠を探してから宣戦布告し、カレンたちにぺリア国を引継ぎしていた時間で、他国が動く余裕を与えてしまったようだ。
が、今更軍を引くわけにもいかない。
なんせ、もうグルー川の上を進んでいるのだから。
援軍が来る前に、圧倒的な速度でグルーガリア国を叩き潰そう。
それしかない。
というわけで、オリバの話を聞いて俺たちの乗る魔導鉄船は限界以上の速さでグルーガリア国を目指すことになったのだった。
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