宣戦布告
ぺリア国にたいしての事後処理は終わった。
あとは、そこに残されたカレンたちの手腕にかかっている。
形式上ではぺリア国はオリエント国に併呑されたわけではないので、独立して自主自立の国のままだ。
まあ、万が一ふたたび俺や教会を攻撃しようとした場合にはアイがいることだしすぐに分かるだろう。
うまくやってくれることを期待しながら、その裏でグルーガリア国に対しての攻撃準備も着々と進められていた。
カレンたちがぺリア国に到着する前から証拠を集めていたのだ。
ぺリア国が教会を攻撃する動きを見せて俺をおびき出し、救援に来たら背後から本隊を使って挟撃する。
この作戦にグルーガリア国のヘイル・ミディアムの関与があったかどうかだ。
占拠した建物で押収したものを調べたり、関係者に話を聴取したりして、裏付けを取る。
そうして、ヘイルの動きには事前にぺリア国と連携を取っていたものであるという証拠を掴んだ。
その証拠をもって、グルーガリア国に宣戦布告を突きつけた。
国の重鎮たるヘイルが卑怯にも他国と共謀しての攻撃を行おうとしたことは十分な開戦事由となりえるからだ。
一応、戦を回避するための方策も示しておく。
賠償金などとともに、グルー川の中州にある柔魔木の伐採権を俺に渡すことだ。
実は、魔道具相場の暴落後の不況で俺は各地の土地を購入したりもしていた。
その中に、グルー川の中州の土地の一部もあったのだ。
なので、俺は中州に土地を持ってはいるのだが、実は土地だけでは勝手に木を切ってはならないとして伐採権が得られていなかった。
そこで、今回のことを期にその権利を得ようというわけだ。
だが、もちろんのこと、それをグルーガリア国は認めなかった。
向こうも分かっているのだろう。
それは絶対にできない、と。
そもそも、柔魔木はただの木ではない。
グルーガリアだけが作れる強力な弓の材料というだけではなく、精神的な支柱でもあり、象徴でもあるのだ。
それを隣国の軍の頂点に立つ者に自由に得られるような権利など渡してはならないのは当たり前のことだしな。
さらにいえば、保全ができないということもあるのだろう。
グルー川はかなり大きな川であり、中州もそれなりに広い。
だが、どれだけ広かろうと限りはあるのだ。
そこで採れる柔魔木はきちんと考えて切らなければ、好き勝手すれば十年ともたずに無くなってしまうかもしれない。
これまで中州を管理してきたグルーガリアだからこそ、柔魔木は今もこの世界に残り続けているのだ。
それを伐採権など与えて破壊してしまうことなどできはしない。
というわけで、グルーガリア国はこちらの宣戦布告にたいして戦うことを決意したようだ。
だが、それは決していい選択とは言えないだろう。
命を狙われた代償を木の伐採の権利だけで許してやろうという俺のやさしさが分からなかったようだ。
どうせ、柔魔木が欲しければ今後も川を下って奪いにいくこともあるだろうし、それらな多少の木を切る権利くらいで手を打っておいたほうが安上りだと思うんだけどな。
ま、いいか。
どんな選択をするのも相手の自由だしな。
「今度は俺も行くぞ、アルフォンス」
「イアンか。分かった。ぺリア国にはエルビスと行ったから留守を守ってもらっていたけど、今度はイアンが一緒に行くか。じゃ、エルビスはお休みね」
「そんな。アルフォンス様を狙った不届き者を征伐しに、このエルビスは行けないというのですか?」
「しょうがないだろ。俺たち三人の誰かは一応ここに残るようにってアイにも言われているんだから。もし、他から強い奴が来た場合に対抗できる力のあるのが残っていないとまずいんだってさ」
「っぐ、分かりました。アイ殿のいうことであれば私も従わざるをえませんね。では、くれぐれも気を付けていってきてください、アルフォンス様。イアン殿もアルフォンス様を守ってやってくれ」
「わかった。任せておけ」
ぺリア国から一度オリエント国に帰還した俺は、そこでグルーガリア攻めの軍と合流した。
ぺリア国には傭兵団として出向いたが、今回は国として宣戦布告を出したのでオリエント軍として行くことになる。
そこにはイアンが同行することとなった。
圧倒的な人数差の前には少数では太刀打ちできない。
が、それでも当主級などのような超強力な人物が一人いただけでも、その少数は圧倒的な脅威となりえる。
俺が少数でぺリア軍本隊に勝ったことからも、それは間違いない。
なので、それに備えておく必要がある。
ということで、俺たち三人の誰か一人はオリエント国に残るように言われていたので、次はエルビスが留守番となった。
「アルフォンス殿。今回は私も行きます。軍の準備はすでに整っています」
「ん? オリバか。分かった。魔導鉄船も動かせるな?」
「もちろんです。すでに用意してあり、魔石の確保も完璧です。水上から一気に接近してグルーガリア国へと到達できるでしょう」
「よし。じゃ、弓兵国家と決着をつけにいこうか」
かつてはバナージの助手として、いずれは議員になろうと考えていたようなオリバだが、今ではすっかりと軍人らしくなっていた。
もともと頭もよかったが、最近は特に鍛えているからか背中も大きくなり、一回りも二回りも体格がよくなっているように思える。
そんなオリバがオリエント軍を指揮して、次々に魔導鉄船に乗り込んでいった。
水上を水の流れに逆らってでも進むことのできる鉄の船。
それが川の流れに逆らうことなく、転覆する危険もない最大の速度でグルーガリアを目指して進んでいったのだった。
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