ぺリア国への対応
「お疲れ、エルビス。ひどいことになっているけど、大丈夫なのか?」
「ありがとうございます、アルフォンス様。このくらいなんともありません。平気です」
「いや、一応俺が【回復】を使っておくよ。エルビス自身でも【回復】を使っていたみたいだけど、多分ちゃんと治ってないだろうしな」
グルーガリア弓騎兵と戦っていたエルビスのもとにやってきて、ともに戦い多くの騎兵を討つことができた。
ひとまずはこれでいいだろうと判断したところで、改めてエルビスへと話しかける。
今もエルビスの体には多くの矢が刺さっている。
何度も矢が刺さり、それを抜き、あるいはそのままで【回復】を使って戦闘続行していたエルビスの体はボロボロだった。
狂戦士というべき戦いぶりは周囲の味方を鼓舞する働きもあったかもしれないが、そのまま放置するのも駄目だろう。
変な後遺症が残らないように、俺がエルビスの体に手を触れて【回復】を発動させる。
俺が魔法を使ったことで、エルビスの体からは細かな傷一つ無くなった。
ちょっとだけおかしくなっていた体の動きも見た感じ、万全の状態に戻ったような気がする。
それでも、穴だらけになった鎧は激戦のあとをうかがわせるものだったが、当の本人は平然としていた。
「私のことよりもアルフォンス様のほうが重要です。大丈夫ですか? 弓兵どもに遮られて援護できないあの時、ものすごい音がして倒れている姿が見えたのですが……」
「大丈夫だよ。まあ、着ている服も鎧もぶっ飛んで、魔法鞄も無くなっちゃったんで、問題ないとは言えないけどね。大きな損害だよ」
「魔法鞄が? これは失礼しました。今まで気が付きませんでしたが、確かにいつも腰につけている鞄がありませんね。壊れたのですか」
「うん。ぺリア国にも強い奴がいたんだよ。俺との相性が最悪でね。ぶっ飛ばされて、その時に壊されちゃった」
「ならば、このエルビスの鞄をお使いください。私のものはすべてアルフォンス様のお役に立つためにあるのです。ぜひ使っていただきたい」
「いいの? 魔法鞄は貴重なんだよ? 天空王国に戻れない以上、二度と手に入らないかもしれないんだぞ?」
「かまいません。どうぞお使いください」
俺が失った魔法鞄。
それを補うためにとエルビスが自分の分を渡すと主張してきた。
いいのだろうか。
俺のは容量は大きいけれど、鞄の革の表面などには特に細工などはされていない非常に質実剛健といった感じの魔法鞄だった。
だが、エルビスのは違う。
表面には天空王国の職人たちが意匠をこらせて模様を描いており、さらにはバルカ家の紋章まで入っていた。
アルス兄さんから直々に下賜された一品というべきものなのだ。
それを俺に渡すと言ってくる。
どうしようかとちょっと考えたものの、俺はその申し出を受け取ることに決めた。
エルビスがここまで言ってくれているのだから、断るのもどうかと思ったからだ。
だけど、その魔法鞄は今後、戦にはもっていかないようにしよう。
さすがに壊れたらもったいなさすぎるしな。
「いいのですか? 食料や武器などの大量移送ができる魔法鞄は有用ですが」
「いいよ。むしろ、自分たちで用意できないものに頼った戦略を立てるほうがまずいだろうしね。だから、エルビスの魔法鞄は研究用にしようかと思う」
「研究用、ですか?」
「そう。魔法鞄の原料はヴァルキリーの革と転送石だ。それを【合成】して作る。けど、もしかしたら作り方ってほかにもあるかもしれないだろ? 転送石や【合成】がなくても、魔法陣で大容量の鞄が作れないかと思ってね。その研究に活用しようと思う」
「なるほど。いい考えだと思います」
魔法陣でそんなことができるかどうかは分からないが、魔法でいろんなことができるのだし、可能性がないわけではないだろう。
その研究がうまくいくかどうかは全く分からないが、ひとまず魔法鞄についてはそうすることに決めた。
「それで、だ。鞄の件はそれでいいとして、ぺリア国とグルーガリア国についてのことだ」
「はい。どちらも許しがたい罪を犯しました。彼らは正義の裁きを受けるべきです」
「うん。そうだな。だけど、ぺリア国についてはもうだいぶ痛めつけたからな。五千の兵をなぎ倒して血を吸っている状態だから、かなり国力が落ちるはずだ。だから、ぺリア国の後のことはカレンに任せようと思う。そうして、俺はグルーガリアに注力しようと思う」
「カレン? カレンというのは、あの?」
「ああ。【黒死蝶】を使っていたグイード・パージはかつてぺリア国の中でも重鎮だった。で、そのパージ家の縁戚にあたるカレンはこの国でもまだ一定程度の影響力を保持する家柄の人間に当たるってことになる。だから、ここはカレンとその夫であるキクにこの国を任せようかと思うんだ」
俺がかつてパージ街と戦闘し、【黒死蝶】の使い手を倒した時のことだ。
グイードはその時にはもう長老的な老人で実際の街の統治者はグイードの孫のグレアム・パージだった。
グイードとグレアム、そしてその他のパージ家の者を次々と倒した際に、一人だけパージ家の者として生き残ったのがカレンという少女だった。
俺はそのカレンをなにかの役に立つことがあるかもしれないと思って、新バルカ街に連れ帰っていたのだ。
そんなカレンはキクと結婚することとなったが、それまでも、それ以降も新バルカ街にてアイの授業を受けていた。
いろんな知識のほかに統治についても教わっているはずだ。
これは、いずれパージ街がこっちに反抗した際にカレンを送り込もうという狙いもあったのだが、今回のことでパージ街ではなくぺリア国にて起用することにした。
キクも勉強してきたし、一緒に勉学に励んだ者の中から希望者がいればぺリア国へと連れていこう。
ま、ようするに今のパージ街と同じように親バルカ派勢力による統治をさせようというわけだ。
そして、俺は後顧の憂いを断ってグルーガリア国に力を集中させようと思う。
これまでにも何度も戦ってきた弓兵国家と決着をつけるために、魔導通信器で新バルカ街にいるキクに連絡を取って、すぐにカレンとともにぺリア国へと来てもらうことにしたのだった。
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