狂戦士
「忙しいな。意外とやらないといけないことが多いぞ」
潰走するぺリア軍へ苛烈に攻撃を仕掛けながらも、頭の中でいろいろとしなければならないことを考える。
今の勢いを利用して、ぺリア軍へと徹底的に打撃を与える。
そのためには攻撃の手を緩めるわけにはいかない。
が、やっておかないといけないこともあった。
まず一つは、貴重品の回収だろうか。
俺の魔法鞄が壊れて、その中身がぶちまけられたままなのだ。
それらを拾い上げる暇などなかったが、回収しておく必要がある。
だが、それらは結構な数があった。
もともと、倉庫以上に詰め込める鞄だったからな。
回収するのも大変だけど、持って帰るのも大変だろうな。
「お前ら、気合入れて血を吸っていけよ。しっかり働いた奴には俺の武器をやるからな」
なので、ここは景気よくいこう。
俺とともにぺリア軍本隊に寡兵で突っ込むという仕事をさせた傭兵たちに、そんなことを大声で言った。
持って帰るのが大変ならば、俺のために戦ってくれている者に渡してしまおう。
魔法武器は貴重ではあるが、俺一人が死蔵していても意味ないしな。
どうせならば、そばで戦ってくれる者に使ってもらったほうが武器にとってもいいことだろう。
というわけで、臨時報酬を提示したわけだが、それで傭兵たちの気合がさらに急激に上がったのは言うまでもないことだろう。
目の前の相手はすでに恐慌状態に陥って逃げ惑い、それをひたすら攻撃するだけなのだ。
その簡単な仕事をこなせば、このあたりではほとんどいなくなった魔物の素材で作った魔法剣などが手に入ることになったのだ。
そこらの貴族ですら持っていないかもしれない超高級品である。
それが一介の傭兵の自分たちが手にすることができるかもしれないとあって、おおいに張り切ることとなった。
その様子を見届けて、この分ならもういいだろうかと俺は別方面を見る。
ちなみに、散乱した物品の確保には鮮血兵ノルンを見張りに立たせることにしたので、とりあえず盗まれることだけは防いである。
そんなふうに対処を行いつつも、俺は後方で戦っているエルビスのほうに注目した。
俺のそばに戻ってきたワルキューレに飛び乗り、視線の高さを確保して戦況を確認する。
「すっげ。あいつもある意味狂戦士だよな」
そこにはグルーガリア弓騎兵百騎と戦うエルビスという男の姿があった。
アルス兄さんのことを崇拝するかのように信頼しており、そのためにアルス兄さんと瓜二つである俺にも絶対の信頼を寄せてくれてるエルビス。
その俺が作ったアルス兄さんを神の一柱として利用するバルカ教会を攻撃したぺリア国には怒りの頂点に達していた。
さながら、魔法鞄を壊された俺と同じかそれ以上にはブチ切れていただろうか。
そんなぺリア国と共謀していた可能性の高いヘイル・ミディアム率いるグルーガリア弓騎兵。
俺をだまし討ちすべく攻撃したそいつらにも同様に怒りをあらわにして戦うエルビスの体には無数の矢が突き立てられていた。
体中のあちこちに矢が刺さっている。
にもかかわらず、それを全く気にせずに戦闘継続しているのだ。
その迫力たるやすさまじいもので、ざっと見ただけでもすでに三十騎以上は倒してしまっている。
「あいつ、バケモンかよ」
なんで体に何十本も矢が刺さっているのに死にもしないで暴れまわっているんだ。
今もまた一人、馬に騎乗しながら矢を射ようとした弓兵を倒したエルビスを見て、思わずそう言ってしまった。
が、援護のためにワルキューレとともに近づいていって、その理由が分かった。
どうやら、あいつも【回復】をうまく使っているらしい。
オリエント国には俺以外にも【回復】を使える者がいる。
アトモスの戦士としてもともと高い魔力量を持つイアンだったり、小国家群に魔法を伝えたバナージだったりだ。
そして、エルビスもまた【回復】が使える者の一人だった。
あいつは、バリアント地方での魔力の流れの起点となっているし、バルカ傭兵団でも俺に次ぐ位置にいるからな。
配下の者から魔力を受け取ることで位階が高まっていて【回復】が使えるようになっているのだ。
だが、その【回復】は俺のように欠損治療はできない。
普通に呪文を唱えて傷を治すだけだ。
が、それでもエルビスにとっては十分らしい。
グルーガリア弓騎兵により周囲から矢を射られても、致命傷だけを防ぎつつ、攻撃に比重を置いての戦いをしていたようだ。
矢が刺さっても動けるのであれば問題ない。
そんな感じで動き回り、いよいよ危ないという限界に達しそうな直前で、【回復】を発動させる。
そうすると、傷は治るわけだ。
治ればまた戦える。
戦闘が続行できる。
そんな無茶苦茶な戦いで多くのグルーガリア兵を倒してしまっていたらしい。
同じようなことをした俺が言うのもなんだけど、相手からするとこれほど怖いものもいないんじゃないだろうか。
普通ならば数回命中させれば倒すことができるのだ。
ましてや、あの弓の名手ばかりのグルーガリア兵だ。
柔魔木の弓を用いて、正確無比な攻撃で矢を突き立てているのに死なずに立ち向かってくる相手。
その異常な狂戦士に困惑し、しかも適切な対処ができずにいたのはまとめ役がすでに倒れているからだろうか。
どうやら、エルビスはすでにあのヘイル・ミディアムを倒してしまっているらしかった。
【流星】の発動直後の疲労を狙ったのだろうか。
あれは本当に疲れるからな。
というか、ヘイルの疲労が抜ける前に倒す必要があると判断しての、あの無茶な行動なのかもしれない。
ま、どちらにせよ手助けしようか。
まだ残っているグルーガリア弓騎兵を攻撃するために、俺はワルキューレとともに突撃を仕掛けたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。





