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扇動された愚か者たち

「ぺリア国では都市の外に教会があるのですか?」


 グルーガリア国からやってきたヘイル・ミディアムと騎兵たち。

 彼らと合流した後、ふたたびバルカ傭兵団も動きを再開して進み出した。

 こちらのワルキューレと並走する形で騎馬に乗るヘイルと情報交換を行っていると、そんなふうに質問をされた。


「ええ。ぺリア国にある都市ですが、そこには教会を建てるための適当な土地がないということで、都市の外に建てることにしたのですよ。都市外ではありましたが、なかなか立地的には悪くない場所ですね」


「なるほど。どおりでぺリア国の連中が教会を攻撃できたわけですね」


「ん? ああ、まあそうですね。バルカ教に入信した信徒は、儀式によって街中で攻撃できませんからね。街の外である、ということで制約に引っかからずに行動出来ているのでしょう」


「ふむ。恐ろしいですな」


 俺の言葉を聞いて、ヘイルが頷く。

 グルーガリア国との違いを感じ取っているのだろう。


 ぺリア国はバルカ教会を建てて、そこに傭兵を派遣しているという点ではグルーガリアと同じである。

 であれば、どうして教会襲撃などということになったのかという疑問があったのだろう。

 一番最初にバルカ教会を受け入れたグルーガリア国では、都市内に教会の建物があるからだ。

 もしも、そこを襲おうとしてもバルカ教会での儀式によって行動が制限される。

 なにせ、大原則としての制約として、「殺すな、盗むな、傷つけるな」というものがあるからだ。


 街中ではそれらの制約により、かなり治安が良くなるはずだ。

 勝手に暴力を振るうことができないのだから、当然だろう。

 が、それはあくまでも街中での制約にすぎない。

 一歩、壁を越えて街の外へと出れば、それらの制約から解放されて暴力的な行為も可能となるのだ。


 なぜそんな条件にしているかと言えば、自衛できるようにということがあった。

 小国家群ではかなり魔法を使える人が増えてきているが、だからといって全員がバルカ教会に入信して儀式を受けているわけではない。

 街の中であれば多くの人が儀式を行い、治安が保たれ、逆に悪さをする者は異端視されるようになってきている。

 そして、治安維持ができるように街中での力の行使が認められた兵士などがいるので、安心だ。


 が、街を出て外に行くと、そこは広大な土地が広がっている。

 それらを各国の兵が常に見張り、治安を保つことなど到底無理だ。

 信者ではない者に外で襲われたときに、抵抗できるようにその大原則が適用されないようになっていた。


 そんな条件付けになっていたからこそ、街の外に教会を建てることとなったぺリア国では襲撃という事件が起きたのだ。

 もしも、都市の中に教会を建てていた場合には、あるいは起きなかったかもしれない。

 もっとも、こちらとしても外に教会を建てればそういう危険性があることなど、最初から分かっていたことだ。

 あえて、攻撃できるようにしていた、ともいえるだろう。

 それをヘイルは理解したようだ。


「どれほどの数が教会を攻撃しているか、分かっているのですかな?」


「おおよそ、三千ほどのようです」


「三千? それはまた、多いですな」


「ええ。どうも、兵ではない者を扇動した奴がいるみたいです。ぺリア国が貧乏なのはバルカ教会のせいであり、教会には自分たちから持ち去った銀が大量にあるから取り戻そう、という具合らしいですね」


「なるほど。民衆をたぶらかしているからこその数ですか。しかし、そうなると今頃教会は大変なことになっているのでは?」


「大丈夫です。ぺリア国にも数は少ないですが、傭兵を派遣していましたから。教会は土地の周囲を壁で囲っているので、数が多い民衆程度ではすぐに突破できません。ですので、今頃教会の壁を囲むようにして人がいるのでしょうね。それを蹴散らします」


「承知。っと、そろそろ見えてきましたな。なるほど、アルフォンス殿のおっしゃるように、あの丘をぐるっと囲んでいるようだ」


 ぺリア国の領内に入っても駆け続け、そうしてようやく見えてきた。

 ぺリア国の都市の外に、さらに別の壁に囲まれた場所がある。

 この国に作られた教会だ。

 ちょっとだけ高さのある丘の上に壁を作り、その中にあるのが特徴だ。


 そんな小さな丘の教会を二から三千ほどの人が押し寄せていた。

 多くの者が手に武器を持っているが、それぞれが違っていて統一されていない。

 が、中央にドンと構える一団だけは武器がそろっていた。

 やはり、事前に得ていた情報通り、ぺリア国の軍の一部が教会襲撃を主導して、それに愚かな民衆を巻き込んだようだ。


「これは聖戦である。あの者どもを打ち倒すぞ」


 その光景を見て、エルビスが吼えた。

 声に魔力が乗っているのでよく通る大きな声だった。

 それを聞き、こちらの傭兵団が一斉に返事をしたことで、ドッと空気が震えた。

 その空気の波が、まだ距離の離れていた教会とその周辺に集る悪漢どもにも届いたようだ。

 一斉に振り向く、有象無象。

 そこへ、ヴァルキリーに騎乗したエルビスと、それに付き従う傭兵たちが速度を上げて接近していったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒャッハー!
[良い点] エルビスさんの 旋風一撃で、本体を直撃 頑張れ、エルビスさん 確かに、襲ってくれって言う立地 でも、ほぼ要塞に成ってた。 見れば解るよね、敢えて攻撃するんだ 壁を突破する算段は、有ったの…
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