出陣と合流
「出陣する。ゼン、あとのことは任せたぞ」
「分かりました。ご武運を、団長」
ぺリア国にてバルカ教会が攻撃を受けた。
そのことで、バルカ傭兵団を率いて出陣することとなった。
今回はバルカ教会の話であってオリエント国が直接かかわっている話ではない、ということで傭兵団から千五百人規模で行くことになった。
オリエント国を守るオリエント軍はゼンに任せて出発する。
「全員、【瞑想】を使いながら走れ。遅れた者はこのエルビスが斬る」
バルカ傭兵団に所属する傭兵たちがエルビスの言葉を聞いて一斉に動き出す。
本来ならば就寝前に使うことで疲労を取り除く効果がある【瞑想】を移動の効率化に使おうという恐ろしい発想だ。
アイの寝ずの館がかわいいものと思える光景ではないだろうか。
なにせ、傭兵たちはそろいの赤鎧を着ている状態で走っているのだから。
傭兵用の制服として使っていた赤の法被も金属鎧の上に身に纏っているので、外から見るだけならばかっこいいんだけどな。
重い鎧を着て走らされているほうとしては地獄だろう。
が、さすがに普段からエルビスが鍛えているだけある。
エルビスはもともとアルス兄さんのもとでバルカ軍に所属して鍛えられていたこともあって、ものすごく規律に厳しい。
そのエルビスがこれまで鍛えてきたバルカ傭兵団も当然もととなったバルカ軍と同じく、かなりの厳しさで訓練されており、こういうのも日常的なことなのか、誰一人脱落せずについてきていた。
きちんと列をなして並びながらも、全員が駆け足で走り続ける。
【道路敷設】で固められた足場を靴音を合わせて走る様は圧巻だ。
「このままぺリア国に向かうぞ、エルビス。途中でパージ軍が合流するはずだ。そこで食料なんかの供給を受ける」
「分かりました。パージ軍はこちらとともに戦うのですね?」
「ああ、向こうはそう言ってきている。けど、多分このバルカ傭兵団ほどには鍛えられていないだろうからな。あんまり期待しすぎないほうがいいと思うよ」
「それはもちろん。ぺリア国から逃げようとするものを抑えるだけでもしてくれればかまわないでしょう。バルカ教会への不届き者はこのエルビスが処断します」
エルビスが燃えている。
が、ちょっと怖いな。
もともと農民出身のエルビスは訓練の時には厳しいけれど、なにもないときには部下思いのいい奴なんだけど。
だけど、今はバルカ教会が攻撃されたことで怒り狂っている。
こいつは、俺についてきてくれているけど根本的にアルス兄さんの信奉者みたいなものだしな。
暴走しないかだけは心配だ。
バルカ教会は魔法を使う者は全て信者であると規定し、信者を守る立場をとっている。
もしも、エルビスが怒りのあまりに苛烈な攻撃をして、ぺリア国の住民に被害が出すぎるのはよくない。
できれば教会を襲った連中だけをきっちりと仕留められればいいんだけど。
だけど、そううまくはいかないだろう。
ぺリア国も都市の周りを壁で囲んでいる城塞都市だからな。
ある程度、被害が出るのは避けられないか。
そんなふうにあれこれを考えながらも、俺はワルキューレに乗って移動を続ける。
しばらく移動を続け、影の長さが変わるほどの時間が経過した時だった。
道路が無くなった土の道を移動している俺たちとは別の方向から土煙が上がっているのが見えた。
そして、それがこちらへと近づいてくる。
「アルフォンス様。あちらから騎兵らしき部隊が接近してきています。迎撃しますか?」
「いや、ちょっと待て、エルビス。……なんか先頭の騎兵が旗を振っているけど、あれ、前に見たことがあるな。たしか、グルーガリア国のヘイル・ミディアム殿のところの旗じゃないか?」
「ヘイル・ミディアム殿? ああ、確か【流星】の使い手でしたね。それがなぜ、こんなところにいるのでしょうか?」
「さあな。とりあえず、いきなり攻撃は無しだ。全軍停止せよ。警戒しつつ待機」
ワルキューレやヴァルキリーとは違う、この小国で見かける茶色の馬に乗った騎兵たち。
その数はそんなに多くはない。
パッと見たところ百に満たないくらいだろうか。
だが、あれがグルーガリア兵だとすれば全員が弓の達人だ。
けっして侮ることはできない。
進軍していたバルカ傭兵団が緊急停止して様子をうかがう。
すると、向こうもこちらを確認したのか、それまでの速さを緩めだした。
そして、一騎だけが前に出るようにしてこちらに向かってくる。
遠めだが、目に魔力を集めることで視力をあげて確認すると、それはやはりヘイル・ミディアムその人だった。
どうしてここにいるのか。
ここはグルーガリア国の土地ではないはずで、騎兵集団は完全に戦闘を目的としたもののはずだ。
エルビスと顔を合わせてから、ひとりで近づいてくるヘイルを迎えるために、こちらも少し前に出る。
「いやー、さすがに動きが速い。追い付けるかどうか不安で、すぐに出られる者だけできたのは正解でしたな」
「なぜここにいるのですか、ヘイル殿? みたところ、武装しておられるようですが」
「決まっているでしょう。援軍ですよ、アルフォンス殿。聞きましたぞ。ぺリア国でバルカ教会が攻撃されたようではないですか。それを聞いて、すぐにアルフォンス殿がぺリア国に向かうだろうと思って、私も急いで駆けつけたのですよ」
「援軍? グルーガリア国に援軍要請を出したりはしていませんが?」
「何をおっしゃる。あなたが私にバルカ教へ改宗せよと言ったのではありませんか。今は私も立派なバルカ教の信者ですからな。ほかの信徒を助けるために力を尽くすのは当然でしょう。教会襲撃の件を聞いて、いてもたってもいられずに動いただけのこと。どうでしょう? こうしてここであったのですから一緒にぺリア国へと向かおうではありませんか」
「……なるほど。素晴らしい行いですね。教会を助け、悪を挫く立派な聖戦士というわけですか。失礼しました。それではともにいきましょう」
ヘイル・ミディアムと話していてすぐに合点がいった。
こいつ、案外頭が柔らかい奴なのかもしれない。
グルーガリア国にもバルカ教会を建て、そして傭兵を五百人ほど派遣している。
そして、その傭兵たちをまとめる指揮官級の者には魔導通信器を渡していた。
今回のぺリア国での事件はその魔導通信器を使って、各地の傭兵たちに伝えている。
ほかの土地でも教会襲撃が起こるかもしれないので注意を促すためだ。
多分、その傭兵から話を聞いたのだろう。
そして、話を聞いてすぐに動き出した。
教会を助けるために。
きっとこいつの狙いはバルカ教会の互助会の評価だろうな。
各地に点在していた独立勢力は魔法を利用して悪をなす者どもとして、それを倒していくバルカ傭兵団の傭兵たちは聖戦士であるとしている。
実は、バルカ教会での評価を高めるのに互助会の依頼をこなすだけではなく、聖戦士としての活動も含まれているのだ。
普段はそんな依頼をこなしていないであろうヘイルが評価を高めて最高位のSを目指すには、確かに教会襲撃事件に駆けつけて戦う聖戦士にでもなるのがいいかもしれない。
自分から兵を動かして駆けつけたのだから、いい評価を期待しているぞ、と直接は言ってこないが、援軍を頼んでもいないのにわざわざ来たのはそういうことだろうと思った。
まあ、いいか。
このおっさんが強いのは確かだしな。
パージ軍がついてくるよりは、【流星】が使えるヘイル一人いたほうが頼もしいというものだ。
こうして、思わぬ味方と出会いながらも、俺はぺリア国へ進軍していったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。





