年金制度
アイやクリスティナ、そしてそのほかの金の計算が強い奴らが集まって、志願者を恒常的に増やすための制度を検討していった。
どれほどのお金を後々に渡すことにするのかなども計算して制度を作っていく。
そして、その年金制度はとりあえずバルカ傭兵団で試してみることにした。
バルカ傭兵団に傭兵として所属した者が対象となる制度だ。
もともと傭兵として所属している限り、給金は毎月支払うことになっている。
そして、もし希望すればその給金の一部を積み立てておける仕組みになった。
その積立金は積み立てている間には引き出すことができない。
が、一定年数傭兵として働いて、その後現役引退を決めた場合には二通りの方法で支払われる。
ひとつは退役金というもので、一括で大きな金額が渡される。
そうしてもう一つは年金として、月々の生活費が定期的に支給される。
傭兵としての給金はそいつが一兵卒であるのか、指揮官級なのかなどの役職によって金額が違ってくる。
当然、実入りが大きいほど積み立てる金額は高くできる。
多く積み立てしておいたほうが、後々手にする金額は大きくなるように設定された。
さらに、この制度は傭兵として働いていても一定年数が経過できずに死亡する場合も想定されている。
ようするに戦死することも考えておいた。
戦場で勇敢に戦い、死を遂げた者に対しては遺族にたいしてお金が支払われることとする。
こうしておけば、傭兵たちが死を恐れずに戦ってくれるのではないかという期待が込められている。
そして、この制度の最大の特典をさらに用意してあった。
それは、一定期間年金を積み立てている者だけにある大きな利点。
なにかといえば、俺が直々に【回復】を行う、というものだった。
俺の【回復】は今ではかなり有名だ。
多くの人に欠損治療を行ってきたので、【奇跡の子】なんて通り名がついていたりもするからな。
死んでいなければ致命傷であっても生き延びられる。
それどころか、元の元気な体に戻れるのだ。
【回復】を人の体で試すときには結構気前よく魔法をかけまくっていたが、今はもうしていない。
現在は婚約相手のエリザベスら以外にはかなり高額の請求をしたうえで【回復】しているのだ。
なので、たとえバルカ傭兵団の一員であったとしても、末端の構成員程度では俺が【回復】をしないだろうし、そのための代価を払うこともできない。
が、年金制度に加入してさえいれば、例えどれほどの大怪我でも治すことができるのだ。
いくら死亡時に遺族への保証があるといっても、やっぱり死にたいと思う奴はいないだろうしな。
だから、これだけでも目的に加入する者もいるだろう。
なぜ、わざわざ俺が手をかける必要のある【回復】を特典にしたのかと言えば、この制度を強制ではなく希望者の加入にしたからだ。
いくらお金を積み立てておいて後々に大きな金額で返ってくるといっても、それは遠い未来の話だ。
人は目の前のことに飛びつくものだ。
あとで得をすると言われても、毎月の実入りが大きいほうがいいと考える者のほうが多いだろう。
強制して、今の給金が減ると傭兵たちから文句が出るかもしれないという心配の意見がでていた。
というわけで、年金制度は希望者のみを対象にして行うことになった。
その場合でも目の前の金につられて支払いを渋る者がいるかもしれないということで、エサを用意したのだ。
どんな傷でも治るという最高級の特典を。
さらに言えば、家庭を持っている傭兵たちには家族にこの制度のことを伝えて、傭兵たちが加入に渋っても後押しするように促すことにした。
「これでどうだ、ゼン? ここまで手厚くしておいたら志願者が増えてくると思うんだけど」
「いや、凄すぎですよ。なんですか、これ。手厚すぎますよ。こんなの絶対入りますって。俺も金を積み立てておきますよ」
「え? でも、ゼンは今の所属はオリエント軍になっているだろ。軍だとまだその制度はないから無理だよ」
「ええ、それはないでしょう。俺だってバルカ傭兵団の一員じゃないですか」
「まあ、あとできっと同じような法案が議会に提出されるから。それが採択されたら入りな」
「うう。なんか損した気分です。けど、だいぶ気前のいい条件ですけど、軍の予算を握っている国はこんな制度をやれるんですか? 俺は数字の計算って得意じゃないですけど、この期間に積み立てた総額よりもだいぶ多くもらえるみたいですが、大丈夫なんですよね?」
「問題ないよ。積み立てた金額は金貸し業で運用するから。利子で得られる儲け分で賄える計算になっている、ってかそれでも十分に余裕のある金額設定になってるよ。アイがそう言っていたから間違いないさ」
「へえ。お金を貸すってすごいんですね」
「まあね。ぼろ儲けできるよ」
どうやら、ゼンはこの制度について大歓迎のようだ。
というか、やりすぎと感じるくらいの厚遇だと俺も思う。
が、お金で戦力を集められるならそれでいいだろう。
こうして、バルカ傭兵団では他では見られないほどの恩恵のある制度が傭兵にもたらされることとなったのだった。
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