金は金を持っている人のところに集まる
「ふーむ。こうなるのか……」
バイデンの町の救援に行ってから、それなりに時間が流れた。
その間にも、ほかにもいくつかの町に顔を出し、傭兵働きをした後で、貸し借り機能付きの腕輪を渡している。
どれも小国家群よりもド田舎の規模の小さな町だ。
それでも、人がいることで、物の売り買いが成立し、分かってきたことがあった。
「これって、金持ちはさらに金が増えるようになるんじゃね?」
「そうね。この腕輪の機能だけだとちょっと問題があるかもしれないわね。これじゃあ、高利貸の規制にはつながらないかもしれないわ」
「俺も同感だよ、クリスティナ。腕輪を持つ者同士が金を貸し借りできるってことは、金がある奴がない奴に貸せるってことだからな。残高がない連中は貸すこともできないから、絶対に這い上がれないようになるよ、これは」
冬場の閉じた社会である僻地の町で観測された現象。
それは、金は金を持っているやつのところに集まるということだった。
わずかな期間だからまだまだ分からないが、そういう傾向が見て取れる。
多分、時間が経つほどにもっと顕著に表れるようになっていくんじゃないだろうか。
バイデンの町での話だ。
俺が町の住人に腕輪を配り、傭兵派遣代を全員に求めた。
そして、バルカ教会では魔石の購入などを通して住民たちがエンを手にする機会も用意した。
そうするとどうなるか。
バルカ傭兵団に対しての返済は毎月少額ずつと決まっている。
そのため、売った魔石代のエンが残高として積みあがっていったのだ。
そして、町の中でも頭に柔軟性があって好奇心旺盛な若者を中心に、そのエンを実際に使い始めた。
逆に老人たちはあまり積極的ではなく、エンでの買い物をしないようだ。
が、それでも町の中での売り買いで少しずつエンが使われだしたのだ。
一度使ってみて、使いやすさが理解できたのだろう。
食べ物を買ったり、酒を買ったりするのにエンを使っていく。
だが、雪に囲まれた小さな町だ。
いくらでも好きなだけものを売っているということはない。
しばらくすると、物の値段が上がり始めたらしい。
とくに、お酒なんかはちょっとの量でも高い金額になっていったのだとか。
自分が買えないほどに高い金額ならば、買わなければいい。
普通ならばそう思うし、今までならば金がないのだから買いようがなかった。
が、今回は違った。
金がないならば借りればいい。
腕輪を使い込んで、慣れてきた若者の中にそう考える者が出てきたのだ。
最初に値段が上がったのがお酒だったのが悪かったのだろうか。
お酒は好きな人は毎日飲みたがるからな。
それにいくらでも入るし、なんなら吐いても飲みたいというばかな奴もいる。
というわけで、そういう酒が好きすぎるやつがエンを借りて酒を飲み始めた。
少ない量で高い金額だというのに、金を借りれば飲める。
しかも、月々の支払いは一定額で返すだけでいいし、魔石を売ることで金も稼げる。
というわけで、そいつらは知り合いから借りたようだ。
バルカ教会ではなく知り合いから、というのが特徴だろうか。
いきなり現れたよくわからない宗教組織よりも、身近な人からちょっと借りようという気持ちだったのかもしれない。
が、金を貸すには残高がなければできない設定になっていた。
もっというと、残高から借金を引いた金額が零以下に突入しておらず、資金力がある分だけを貸せるようになっていた。
知り合いから金を借りるといっても、隣の家の者も自分と同じ田舎者だ。
そんな奴は借りられるほどの金を持っていない。
だったら、だれから借りるか。
町の中で金を持っている奴ということになる。
バイデンの町で言えば、それはラムダだった。
どうやら、ラムダは町長のバイデンの親戚筋に当たる人間で、あの町の中では商人相手用の硬貨を持っていた。
それをエンに換えた分を人に貸したらしい。
もともとの財産があった分だけ、ほかの町人とは比較にならないほどにエンを持つ金持ちだったというわけだ。
というわけで、ラムダは町の若い衆相手に結構金を貸したらしい。
そうして、毎月そいつらから返済が入る。
取り立てに行く必要はない。
腕輪の機能で自動的に振り込まれるのだから。
そんなこんなで、バイデンの町ではラムダが一番金を貸している人間となっている。
そして、そのことによりここ数月はなにもせずにラムダのもとにエンが集まるようになっていた。
もしかして、ラムダの奴はこうなることが分かっていたんだろうか?
それとも後で腕輪を使っているうちに気が付いたのか。
なんにせよ、ラムダは貸したエンの利子だけで今後かなりの儲けが長期的に、かつ定期的に入ってくることになったわけだ。
これって高利貸と同じじゃないだろうか?
というか、まだ短い期間だからいいが、これがオリエント国などの都市や、あるいはブリリア魔導国のヴァンデンブルグ伯爵領とかだと、もっと大きな影響を与えそうな気がする。
金を持っている奴が金貸しまくれば、とんでもない大金持ちが誕生する可能性もありそうだ。
「機能の制限が必要かな? 少なくとも、エンを貸せるのが誰でもできるってのは問題かもしれないね」
「そうね。貸し手のほうは許可制にでもしないといけないかしら? そうじゃないとアイさんのいうような治安維持からはかけ離れたことになりそうよね」
「許可制か。それもいいかもね。物の値上がりなんかも問題になるかもしれないし、いろいろと考えないといけないことが多そうだね」
今はまだいい。
ラムダが金を稼げるようになったといっても、元手の資金には限りがあるからだ。
それに酒や嗜好品の数にも限りがあるからな。
今のうちにどうすべきか検討して対処しておけば、まだ間に合うだろう。
というか、そのための辺境の町での実験でもあるからな。
金貸しの影響についての社会実験から得られた情報をもとに、俺やクリスティナ、アイなどが腕輪の機能について、さらに話し合いを続けていったのだった。
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