製粉
「しかし、脱穀機まで作ってほかがないっていうのも片手落ちって感じだな」
「お、なにか他にもいい道具を考えついたのか、大将。どんなやつなんだ?」
「えらく食いつきがいいな、バルガス」
「そりゃそうだろうよ。大将が作った脱穀機ってやつを試させてもらったが、あれはいいものだ。それで今度はあれと同じようないいものを思いついたってことだろ? 気にならねえほうがおかしいってもんさ」
「そうか。ただ今回のは本当に思いつきだよ。実際に作れるかどうかはわかんないからあまり期待しすぎるなよ」
「はっはっは。大将のことだからな。きっといつもみたいに変なことをしでかすだろ。楽しみにしてるぜ」
いや、ちょっと待ってよ。
俺ってそんなふうに思われてたのか。
結構ショックなんだが……。
まあ、いいか。
それよりも早速脱穀機の次の道具について思い出してみよう。
そう考えて、俺はテーブルの上に紙を広げて適当な絵を描き始めたのだった。
※ ※ ※
「うーむ、わからん」
「どうしたの、アルス兄さん?」
「カイルか。いや、ちょっと建物の設計をしようと思ってたんだけどな。予想以上に難しくてさ」
「へー、また何か建てるんだね。ちょっと見てもいい?」
「ああ、いいよ。ほら、これなんだけどな。風車っていう建物に大きな羽がついてる建物なんだよ」
「……また変なものつくろうとしてるんだね。なんでこんな羽が建物に付いてるの? もしかしてこの風車ってやつで空でも飛ぶ気なのかな、アルス兄さん?」
「そうじゃねぇよ。こいつは収穫して脱穀した麦を製粉するための建物だよ。風の力で羽を回して、製粉するための石臼を回すんだよ」
「へー、そんなことできるものなんだね。すごいな」
今回俺がつくろうとしているのはカイルに説明したとおり、風車と呼ばれる建物だった。
回転式脱穀機という道具を作って収穫した麦の処理能力を高めたものの、脱穀しただけでは食べることはできない。
あくまでも脱穀した麦を製粉してやらなければパンにすることもできないのだ。
では製粉作業はどうやるのかというと、これまた人力である。
石臼についた取っ手のような棒を手にしてグルグルと回して製粉していく。
これがまた実に地味ながら重労働なのだ。
せっかく脱穀作業を効率化して短期間で終わらせることができるようになったのだ。
それなら製粉作業も短縮したい。
そう思った俺が目をつけたのが風車だというわけだ。
ちなみにだが製粉作業は水車でもできるはずだ。
川北の城はすぐ近くに川が流れているのでそちらに水車をつくろうかとも思った。
だが、バルカニアからは少々距離がある。
せっかくならばここバルカニアでも製粉できるものがほしい。
そう思って今回は水車ではなく風車を作ってみたいと考えたのだ。
高い建物に大きな羽を取り付けて、その羽が風で回る動きを歯車を使って石臼へと伝え、石臼を回す原動力とする。
構造そのものは多少複雑になるがグランと一緒に脱穀機の歯車も作ったのだ。
やれないことはないと思う。
「じゃあ、アルス兄さんは何に悩んでいるの?」
「いや、それが聞いてくれよ、カイル。風車の羽が回るかどうかは風が当たる向きによって変わってくるんだよ」
「そうなんだ。で、それがどうかしたの?」
「だからさ、風車っていう建物は羽の向く方向に建物の向きを臨機応変に変えるようにしないと駄目なんだよ。そのやり方がさっぱり分からなくてな」
確か何かのTV番組で見たときにそんなことを言っていたはずだ。
風車は風向きを追いかけるようにして羽の向く方向を変えることができると。
だが、そのための構造がどうだったのかはまったく覚えていない。
どうやっていたのだろうか。
俺の記憶にある風車の形は2つだ。
ひとつは風力発電にも使われている細い棒のようなてっぺんにプロペラのような3枚羽がついたタイプ。
もうひとつがオランダとかにある印象の普通の建物や塔のような建物に板のような羽がついたタイプだ。
多分、製粉所として歴史的に使われてきていたのは後者のほうだと思う。
つまり、ドン・キホーテの物語に出てくるような風車の建物でも羽の向く方向を変える仕組みがあったはずなのだが……。
「別にそんな仕組みいらないんじゃないのかな?」
「なんでだよ。話を聞いていたのか、カイル。風向き次第では風車の羽が回らないから製粉できないことになるんだぞ」
「別にいいと思うけど。1年中いつでも製粉しなきゃいけないってわけでもないんだし。もしそうなら、それぞれの方角を向いた風車を4つ作ったらいいんじゃないの?」
「え……、4方向それぞれの風車を作る?」
「そうそう。どこか1つの風車が動けば製粉できるし、それでいいと思うけどな」
……そう言われるとそうかもしれない。
なんというか、俺の中では時間がもったいないから常に動いていないといけないという強迫観念じみたものがあった。
だが、別にそういうわけでもないのか。
今よりも製粉作業が早くなるなら、失敗ではないのだ。
無理に思い出せない風車の仕組みをこの世界で再現しなくともいいのだ。
なんなら、とりあえず今作れる形の風車を作って、改善案をグランに渡してあとは丸投げにしてもいいしな。
カイルのアドバイスを受けた俺は風向きを変えることはできない単純な風車を作ることにした。
バルカニアの東西南北4つの区に1つずつ風車を作る。
無風ではない限り、どこかの風車は動かすことができるだろう。
少々、効率面では悪いがそれでも今まで人力で製粉していたことを考えれば、大幅な時間短縮が可能となった。
こうして、バルカニアは俺の魔法で増えた収穫量でも問題なく脱穀・製粉することができるようになったのだった。
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