報酬支払方法
「救援感謝いたします。本当に助かりましたよ、アルフォンス殿」
「いいえ。バイデン殿がご無事でなによりです。町の被害は大きいのですか?」
「そうですな。少ないとは言えませんな。ただでさえ冬は食料すら厳しいのに、町を守るために消費した分が大きいのですよ。それでも、こうして多くの者が無事でいられたのは何よりの幸運ですな。ありがたいことです」
「それは結構。では、手順前後となりましたが、報酬の件についてお話しましょうか。こっちも傭兵として仕事をした以上、もらうものをもらっておかないといけませんからね」
「もちろん承知しています。が、魔道具の腕輪とやらを使ってお金をやり取りするという話を聞いたのですが、ご覧の通り私のようにな老骨ではなじみのないことは今一つ理解できんのです。そこで、報酬についてなどの委細はこやつに任せたいと思います」
壁で囲んで攻防していたバイデンの町で門が開いた。
向こうも戦闘が終了したということが分かったのだろう。
開いた門を越えると、それまで戦っていたのだろう町の人々が大きく手をあげて喝采を上げる。
大歓迎といったところだろう。
そんな中、見知った顔と再会した。
バイデンという老人だ。
騎乗していたワルキューレから飛び降りて、魔剣ノルンで作った血の鎧を解除する。
俺の鎧は自分の血で作り上げたものであり、その鎧の大きさは成人男性くらいある。
ようするに、鮮血兵ノルンと同じ鎧を身に纏っていて、ほかの傭兵たちの赤の鎧ともそっくりというわけだ。
子どもの俺が大人用の鎧を使っても問題なく動けるのは、ノルンの補助があるおかげでもあった。
そんな大人の体格の鎧が一瞬で消えて、中から鎧よりも小さい俺が出てきたのを見て、町の連中は驚いていた。
が、バイデンはそれを一瞬驚いたものの、すぐに冷静さを取り戻して俺に礼を言ってくる。
こういうときに狼狽せずに対応できるというのは、なかなかすごいんじゃないだろうか。
だが、さすがに俺が送った矢文の内容にはちょっとついていけなかったのかもしれない。
教会の設置はすぐに許可を出してきたのだが、腕輪については分からないと言う。
そうして、バイデンのかわりに前に出てきたのは若い男性だった。
ほかの連中はもうちょっと牧歌的というか、のんびりしていそうだが、しっかりしていそうな印象を受けるその青年はラムダという名前らしい。
そのラムダと話をする。
「このバルカ教への改宗とあるのは、絶対に必要なのでしょうか?」
「そうだね。もしかして、この町はほかになにか特定の教会が信仰の中心となっていたりするのかな?」
「いえ。教会というほどのものはありませんが、たいていの連中は山の神に感謝と畏怖の心を持っていますね」
「山の神?」
「はい。霊峰には魔物のほかに人を守る神がいると信じているのです。で、その神のおかげでこの町は昔から無事にすごせているということから、毎日山への感謝の心を持ち続けているのですよ」
「なるほど。山岳信仰とかいうやつかな? 九頭竜平野ともまた違う信仰なんだね。まあ、それを今すぐ捨てろというわけではないけれど、町の連中にはバルカ教会を受け入れてほしいね。少なくとも魔法を使う者はバルカ教の教えを知っておいてもらいたい。そうじゃないと、魔法を悪用しているとして、裁きを受けてもらうことになる」
「……致し方ないですね。こうして魔法を使う連中が攻めてきた以上、それに対処する必要があるのはこちらも分かっています。聞き及んだところでは、町中では魔法を使えないようにする制限がかけられるようになるそうですが?」
「そのとおり。バルカ教会での儀式を行い、誓いを立ててもらうことになる。それによって、魔法の制限も為されることになるね」
もしかして、次の町長候補とかなのだろうか?
バルカ教会での儀式のことについても多少は知っているようだ。
そのためか、結構話がすぐに進んでいく。
最初は、よく知らない宗教へ町の連中を改宗させることなどできはしない、とかなんとか言われるかなと思っていたのだが、治安維持の観点からも割と受け入れてくれそうな感じだった。
その後も、細々したことを話して、報酬についても決めていく。
「町の人間が全員お金を負担する、とありましたが現実的ではないのでは? 支払えない者がたくさん出てきますよ」
「大丈夫。分割払いもできるようになっているから」
「分割払い、ですか?」
「そうだ。救援要請に対して発生した金額を町人の数で等分し、一人ひとりに支払ってもらう。が、ラムダさんのいうようにお金がない人もいると思う。そこで、一月ごとに定額で、決まった金額を設定しておくことにしようか。上限を少額に設定することで無理のない支払いができるはずだよ」
「……へえ。毎月この金額を払えばいいということですか。なるほど。これなら、なんとかなるか? 確か、商人たちに聞いたところではバルカ教会は仕事を回してくれたり、魔石を買い取ってくれたりして、町の人間も金を稼げるようにしてくれるのですよね?」
「もちろん。魔石は需要が多いから当分の間はいい値段で買い取れるよ。魔石を売ったお金で支払いに充ててくれても大丈夫」
「分かりました。それならみんな負担なく払えますね。では、その魔法の腕輪で分割払いをするようにお願いします」
ふむ。
利発そうな感じだったが、やっぱりこんな山に住んでいるからか、あっさり受け入れたな。
今回俺が提示した条件だが、本当ならばもうちょっと条件を確認しておくべきだろう。
分割する以上、利息が発生するからだ。
毎月少額の支払いをしてもいいが、その支払いの大半は利息を返すことになる。
つまり、バルカ傭兵団への支払いの元本はなかなか減らないのだが、そのことにラムダは気づいていない。
魔石の買い取りで支払いできるだけの稼ぎは得られるかもしれないが、一括払いよりもはるかに高額の払いになるのだが、話を聞いていたラムダ以外も嬉しそうに頷いていた。
これは、結構稼げそうだな。
この町以外でも、報酬の支払いを分割払いにして、利息をたんまりとってみようか。
そんなことを考えつつも、両者でしっかりと契約書を交わしたのだった。
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