鎧の使い方
「イアンは巨人化して暴れておいてくれ。俺は騎兵を率いて、イアンの反対側に回るよ」
「了解だ、アルフォンス。全力で行くぞ」
俺がイアンにそう告げると、即座に返事をしたイアンが大声をあげる。
そばにいた俺たちの耳がびりびりと震えるくらいの大声で、若干ヴァルキリーたちがうるさそうにしていた。
そんな大声とともにイアンの体が巨大化する。
このくそ寒い気候の中にもかかわらずに全身を覆う金属鎧を着た巨人の姿がそこにはあった。
【自動調整】の魔法陣が組み込まれた鎧。
バルカ製鉄所にて鍛え上げたバルカ鋼をもとにして作り上げたイアン用の金属鎧は、しっかりとその巨大化に対応して大きく変化していた。
けれど、そのイアンの顔には多少の不満が見て取れる。
多分、鎧の性能には満足していなさそうだ。
着用者の大きさにあわせて変化するヴァンデンブルグ家秘蔵の魔法陣は、もともとが指にはめる指輪に使われていたのだ。
そんな指輪と比べると身長五メートルを越える巨人の体は途方もなく大きい。
巨人化していないときに着ていた通常の大きさの鎧からその巨体にあわせて調整が入ったとはいえ、変化してしまった部分もあるようだ。
ようするに、厚みが薄くなってしまっているんだろう。
大きな体に合うように巨大になったけれど、鎧の厚みが減ってしまっている。
これは、ようするに防御力の低下を意味していることにもなる。
ぶっちゃけ、鬼鎧のほうが性能は段違いでいい。
あっちは、厚みが薄くなるなんてこともなかったし、鬼鎧着用時には力が向上する効果もあったからだ。
まあ、このことは事前に分かってはいた。
魔導鉄船を作ったときにも見られた現象だったからだ。
大きな木製の船を覆うように用意した鉄板に【自動調整】の魔法陣を描いて取り付けると、勝手に最適化される。
これにより金属加工の手間は減ってはいたが、この時にも、厚みの減少というのは起きていた。
が、例え数ミリメートルの厚みであっても鋼で船を覆うことができるのは、見た目でも防御力でも向上ができたからそれでよかったのだ。
どっちかというと大きさが三倍くらいになるイアンたち、アトモスの戦士がおかしいと思う。
「とはいえ、こっちの【自動調整】付きの鎧は大成功だな。損害を気にせずに突っ込めるようになる」
アトモスの戦士であるイアンにとって、この金属鎧はいまいちな出来だったかもしれない。
が、それ以外では成功だった。
といっても、それは人ではない。
というのも、騎兵として今回の戦いに連れてきた者たちはそろいの赤い金属鎧を身に纏っているのだが、それ以外にも鎧をつけている存在がここにはいるのだ。
それは、ヴァルキリーたちだった。
こちらは、【自動調整】の魔法陣が描きこまれたヴァルキリー用の白い鎧を身に着けていた。
今までもちょっとどうにかしたいと思っていたのだ。
俺にとって貴重な戦力であるヴァルキリーたちが無防備な素のままの姿で戦場に出ているというのは。
どうも、アルス兄さんはヴァルキリーたちに装備をさせるというのはあまりしていなかったらしい。
せいぜいが、走りやすいようにと足を保護する蹄鉄を作る【蹄鉄作成】という魔法を作ったくらいだ。
硬化レンガ製の蹄鉄を取り付けることでヴァルキリーたちはより速く長距離を走ることができるようになった。
が、鎧の類はほとんど見られない。
これは、アルス兄さんのヴァルキリーの運用方法が関係している。
基本的にアルス兄さんはヴァルキリーの機動力と攻撃魔法をいかしての高機動遠距離攻撃主体で騎兵を運用していたのだ。
あるいは一撃離脱を主体とした攻撃といえるだろうか。
だが、俺は違う。
東方では【散弾】などの遠距離を攻撃できる魔法がないし、俺も治安のためにも攻撃魔法を作ったりはしていない。
そのため、今のバルカ傭兵団やオリエント軍で同じ戦法をするなら、ヴァルキリーの上にまたがって弓矢を使ったり、数は少ないが魔弓オリエントを使うくらいだろう。
が、俺はどっちかというとヴァルキリーやワルキューレに乗って敵陣に突っ込んで戦いたいという思いがあった。
そして、それに続いて突撃してくれる騎兵が欲しかった。
だが、それにはまだヴァルキリーの数が少ないというのもあって、なるべく損害を少なく、それでいて活躍できる場所で使うしかないという思いがあったのだ。
それをようやく克服できる。
そのための鎧だ。
ヴァルキリーの体にあわせて作るだけではなく、ガリウスなどの職人たちに頼んで、【自動調整】などもうまく使いながら関節部分などもきちんと保護しつつ、走りを妨げない金属鎧を作っていてもらったのだ。
そのヴァルキリー用の鎧を着たヴァルキリーたちは、イアンと違って不満そうにはしていない。
体にかかる鎧の重量を適度に分散するようにうまく作られ、動きを妨げない鎧を着こなして颯爽と走っている。
その鎧ヴァルキリーが兵を乗せた騎兵となって、バイデンの町を攻撃していた残党どもに襲い掛かる。
重騎兵とでもいうのだろうか。
圧倒的な重量を持った騎兵が体ごとぶつかるように、一団となって相手を蹴散らしていく。
もちろん、俺はその先頭でワルキューレに騎乗して、馬上槍の形へと変えた魔剣を振り回していたのだった。
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