アルフォンス式強化術
「ん〜、子ども用の魔法っていい考えかと思ったんだけどな。ちょっと難しいかもしれない」
「聖光教会が洗礼式を六歳になってからに規定している理由がわかりましたね。魔力欠乏症は成長期の人体にとって負担が大きすぎるようです」
子どもが生まれ持った魔力の量は母体から取り込む魔力量によって異なる。
さらには、成長段階の体では魔力を鍛えやすい可能性があるということが動物実験で考えられた。
そのために、子ども用になにか成長を効率化する魔法でも作ろうかと考えた。
だが、それはちょっと考えものだということが分かってきた。
それは、ものの分別がつく年齢になる前に魔法を使えるようになった子どもたちに気になる問題が見られたからだ。
フォンターナ連合王国では聖光教会が住民にたいして名付けを行うが、それは六歳を過ぎた子どもにたいして洗礼式にて行っている。
が、オリエント国では子どもに対しても【命名】が行われていた。
聖光教会が低年齢の子どもにたいして魔法を授けないのには理由があると聞かされていた。
それは、【着火】などの魔法があるからだ。
大人ならばそんなことはしないだろうと思うことでも、子どもはする。
たとえば、自分の家の中で【着火】という魔法を使って火事を起こす、なんてことがあるだろうか。
魔法を子どもに与えると危険だ。
だからこそ、年齢で区切って魔法を授けるようになっているのだという話だった。
だけど、これは物事の一面でしかなかったのかもしれない。
ほかにも、魔法を子どもに授けるのには危険性があったのだ。
それは、その子の命に関わることだった。
魔力欠乏症という症状が起きることがある。
これは、自分の持つ魔力をすべて使い切ってしまうと起こる症状だ。
魔力がすっからかんになると、その瞬間、意識を失ってしまう。
下手をすると数日目を覚まさない、なんてこともあるのだ。
一度や二度、魔力欠乏症が起きた程度ではさほど心配はいらないのかもしれない。
が、東方では子どもにまでも見境なく【命名】を行って魔法が使える子がそこらにいる。
そして、そういう子たちの中には何度も繰り返し意識を失う経験をした者もいるようだ。
そのなかには意識を失ったまま、二度と目覚めない子もいたようだ。
あるいは、体に変調をきたすこともあるという。
俺が思っていた以上に、子どもが魔法を使えるというのは危険みたいだ。
特に六歳未満、あるいは、赤ちゃんや幼児でも使える魔法を作ろうかと思っていたが、それはやめたほうがいいかもしれない。
だって、赤ちゃんが使える魔法として「オギャー」と泣いたら発動する呪文なんて作った日には、魔力がすっからかんになるまで泣き続け、意識を失う子が量産されることになってしまう。
泣き止まない赤ちゃんに泣くなと言ったところで、止めようがないのは病院で小さい子を見ていてよく分かった。
聖光教会もそういう経緯があって、洗礼式の年齢設定をしたのかもしれない。
「では、バルカ教でも【命名】を行う対象は六歳以降であること、などという戒律を設けますか?」
「うん、そういう決まりがあったほうがいいかもね。ってなわけで、あんまり小さい子に魔法を使わせるのはなしだな。でも、その代わりに魔力の成長を助ける方法があればいいんだけど……。あれって使えるかな?」
「あれ、とはなんでしょうか?」
「魔石だよ。ブリリア魔導国の魔導迷宮で手に入る、あの赤黒い魔石。あれを人体に入れてみるってのはどうだろうか」
「人の体に魔石をですか。アルス・バルカ様が行う雫型魔石のようにということですね?」
「そうそう、それだよ。アルス兄さんは兵たちの体に魔石を埋め込むことで、疑似的に当主級を増やしたりしたんでしょ? それと同じことができないかなって思ってさ」
「どうでしょうか。ちなみに不死骨竜から手に入れた魔石を【魔石生成】という呪文で作ることができますが、そちらの魔石は人体に適合されなかったという報告があります」
「ああ、そうらしいね。たしか、魔力を込めた魔石を埋め込んでも、いつのまにか魔石が消えちゃってたんだったよね?」
「はい。雫型魔石と違い、消滅することが確認されています。また、それによって総魔力量が増加するなどといった効果も見られなかったようです」
「でも、あの赤黒い魔石ならどうなるかわからないだろ? それに、ノルンなら血を吸うことで魔力を奪うことができる。なら、赤黒い魔石とノルンの含まれた血を使うことで、雫型魔石みたいに魔力を貯蔵できないかと思うんだけど」
「……現状では分かりません。やってみての判断が必要であると考えます」
「よし。なら、希望者を募ろう。これなら大人でもいいだろうし、誰か手を挙げた人の体に魔石を埋め込んじゃおうか」
アルス兄さんは確かバルカ式強化術とかいう名前を付けて、雫型の魔石を埋め込んだんだったっけ。
なら、こっちはアルフォンス式強化術ってことにしようか。
小さめの赤黒い魔石とノルンが入った俺の血を使って、小さな珠のようなものを作り、それを体に入れる。
そこに魔力をため込むことはできないだろうか。
バルカ教会で使っている儀式用の法具も、いくら血を吸い込んでも大きさに変化が見られないし、いけないかな?
体が吸収してしまうかどうかも確認しよう。
そう考えて、バルカ傭兵団にいる傭兵たちにこの話を持ち掛けた。
魔力量が増えるかもしれないということで手を挙げた者たちにアルフォンス式強化術を施すことにしたのだった。
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