魔力の成長性
「面白い実験でしたね、アルフォンス様。繁殖期間の短い種の動物で実験を行う手法というのは単純ながらも効率的な検証ができると考えます」
「そうなの? エルちゃんたちと犬や狼の交配で時間がかかったことがあったからね。もっと手早く確認できたらいいのにって、前から思っていたんだよ。でも、こういうことでアイに褒めてもらえるのはうれしいな」
「白犬人は一年で数日だけしか発情期がありませんでしたからね。ネズミはその点、比べ物にならないくらいの繁殖力を有していたのがよかったといえるでしょう。しかし、これをそのまま人に当てはめて考えるのは早計かと思います」
「だよねえ。犬や狼と似ているエルちゃんたちですら、結構生態が違うからな。ネズミと人だとまた違うかも。まあ、その辺は今後ゆっくりと確認していくしかないか」
子どもの魔力量についての実験。
どうやら、アイからしても高評価だったようだ。
うれしい。
今まで、アイには教えてもらうばかりで、あとは仕事を頼んだりすることが多かった。
ずっと気になっていたのだ。
アイにはしてもらってばかりで、こっちがなにもできていないということを。
だけど、一つだけ恩を返せたんじゃないだろうか。
どうやら、動物を使った実験というのはアイの知識にはあったみたいだけれど、繁殖しやすい動物での交配という手法はなかったようだ。
新しい検証手法として情報を手に入れることができたと言ってくれたことにたいして、俺のほうが喜びを感じてしまった。
ただ、アイの言うとおりネズミでの実験結果がそのまま人間に当てはまるのかどうかは分からない。
同じ傾向を示すこともあれば、全然違うこともあるだろう。
結局、人が対象になるかぎりでは人を使って確認するしかないということだろう。
それでも、今回得られた情報は貴重だと思う。
「動物実験の結果、分かったこと。それは、個体の年齢によって魔力の成長速度が変わるってことだな。多分、母体にいる胎児の状態が一番魔力量が延びるんだと思う。けど、生まれてからも成長性には年齢がかかわっている。いわゆる、成人するまでは魔力って結構増えやすいんじゃないかな?」
「はい。その傾向はあるかと思います。生まれた段階では魔力量が同じでも、食べる食物に含まれる魔力の量で成人した際の魔力量に変化があり、しかし、成人後はその変化は見受けられるけれど成人前よりは少ない、という結果でしたね」
「そうだ。ま、なんだ。結局、アトモスの戦士の子どもの育て方ってのもある意味で正しかったんだろうね。子どものときから集中的に鍛え上げるって意味ではさ」
同一個体であっても、環境によって魔力量は変わる。
だが、その変化は年齢によって依存するらしいことが分かった。
一番変化しやすいのは、胎児のときだ。
母体からいかに魔力を取り込むことができるかで、生まれた時点で大きな違いになる。
魔力の量っていうのは、ぶっちゃけ俺が目で見て判断しているからおおよそでしかないけれど、この時だけは明確に違いが出た。
が、その後の成人まででもどういうふうに成長していくかで後々違いが出てくる。
当然ながら、魔力のたくさん含まれた食べ物をしっかり食べているほうが魔力量は増えるのだ。
ただ、食物から得られる魔力というのは定着率が低いのではないかと思う。
食べたものに含まれた魔力がそのまま全部自分の魔力になるわけではないからだ。
食べた分の一部の魔力が自分の体に取り込まれ、そして、そのさらに一部がその個体の総魔力量を押し上げる効果があるんだと思う。
【いただきます】なんかは効率的に食物から魔力を取り込めるけれど、その取り込んだ分のどれだけが自分の総魔力量となるかはあまり変化ないんじゃないだろうか?
けれど、母体内にいる胎児のときはもっと定着率がいいんじゃないだろうか。
母親から吸収した魔力量がそのまま自分の器を大きくする効果があるのか、総魔力量が大きくなりやすい。
だからこそ、一年にも満たない胎児の時期が一番重要なんだろう。
そのことに気が付いた俺は、さらに細かく実験をした。
その結果、年齢が低いほど魔力の総量を上げやすいのではないかと思われる実験結果が得られた。
ネズミは繁殖の頻度が人と比べて早いし、成長速度も速い。
なので、いつが大人でいつが子どもかは分かりにくいが、それでも生まれた直後のほうが魔力の定着率はいいのではないかということだ。
つまり、人とネズミが同じ傾向を示すなら、胎児期がもっとも総魔力量を上げやすく、さらに赤ちゃんのときがそれに次いで、幼児期、少年期というふうに成長するごとにだんだんと定着率が減っていくのだと思う。
間違っても、ある日突然大人になって魔力の成長が止まるというわけではなく、だんだんと減っていくということだ。
「俺ってまだ子どもかな、アイ?」
「子どもという定義は国や地域、風土によって考え方が異なります。が、十二歳という年齢は一般的に子どもであると言えるのではないでしょうか」
「じゃ、まだ定着率は残っているのかな。でも、子どもの期間が重要、か……」
「どうかなさいましたか、アルフォンス様?」
「いや、子ども用っていうか、赤ちゃんでも使える魔法でも作ってみようかなって思ってさ。ほら、【いただきます】ってあるけど、あれって子どもは言いにくいでしょ?」
「幼児用の魔法、ですか。今まで記録にない魔法ですね」
「まあ、聖光教会は六歳の洗礼式まで魔法を授けないしね。よし、イアンとハンナの子どもの泣き声を聞きにいこう。で、その泣き声で魔法を作ろうか」
母体内にいる胎児はさすがに呪文を唱えられないからな。
ただ、生まれた瞬間からは声を発せるはずだ。
というわけで、俺は魔力量の多い人を増やすために、子ども用の魔法を作ってみることにしたのだった。
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