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魔力量の検証実験

 魔力とはなにか。

 これについてはいまだによくわかっていないらしい。

 最初に人の体を切り刻んで解剖とやらを始めたアルス兄さんとミームという医者がいたが、これが魔力を生み出している臓器だ、とはっきりわかるものはなかったのだという。

 だから、俺がアイから教わった人体についての知識の中にもそれについては不明だった。


 だが、魔力は確かにある。

 魔力を目に集中させればもやのようなものが人の体から出ているのが見えているし、魔法や魔術というものが使える。

 そして、その増やし方というのもいくつかの種類が確認されていた。


 ひとつは食事などからとる方法だ。

 食べ物を食べた時に、人の体はその食べ物に含まれている魔力を摂取することができる。

 多分、誰でも無意識にそれをしているからか、子どもよりもおとなのほうが魔力量は多い傾向にある。

 そして、アルス兄さんはそれをわずか三歳くらいのときに把握していて利用していたという。

 それは、体の中の消化吸収をつかさどる臓器に魔力を集めるというものだった。


 目に魔力を集めればそこがよくなるのであれば、腸などに魔力を集めれば食事の際により効率的に魔力量を増やすことができるのではないかという。

 そして、それは確かにそうだった。

 さらに魔力の量が多い農作物を交配して、より魔力量の多い食べものを作り上げ、それを自分で食べて強くなっていったという。

 それを聞いた人は本当にそんな幼児がいるのかと口をそろえて言うが、実際に畑を耕してハツカや麦を改良していたのだからそうなんだろう。


 というわけで、魔力量の多い食べものを効率よく摂取することで人は自分の持つ魔力量を上げることができる。

 それを魔法にしたのが俺の【いただきます】だ。

 これはアルス兄さんの効率化があくまでも自分の体のなかだけの魔術だったものにたいして、誰でも使える呪文として成立している。

 つまりは、【いただきます】が使えれば誰であれ、より魔力量を上げることができるというわけだ。


 ほかに、個人の魔力量を上げるには名付けによって他者から得るか、あるいは迷宮核の近くで過ごす時間を長くして大気から取り込む量を増やす方法があるだろうか。

 迷宮核についてはオリエント国にはないからどうしようもない。

 名付けによる魔力の移動は、東方では名付けをしたりされたりして複雑化しすぎていてぶっちゃけよくわからなくなっている。

 とりあえず、現状では主要な者はこれ以上不用意に他者から名付けされないように徹底させるくらいだろう。

 ひとまずは、そっちはおいておく。


 重要なのは個々人の魔力量が周囲の魔力を取り込むことで変化するという点だろう。

 これはつまり、胎児にも当てはまるのではないだろうか。

 母親となる女性の体の中で子どもは育つ。

 生まれ出てくるまでずっとお腹の中で生きているんだ。

 イアンの言うとおり、母体の影響を受けないはずがない。


 そして、東と西の違いとして女性の魔力量の違いというのがあった。

 フォンターナ連合王国は基本的に男性貴族の魔力量が多く、同じ貴族であっても女性は少ないことがほとんどだ。

 そして、貴族同士で結婚して子をなしても、東方よりも魔力の多い状態で子どもが生まれることは少ない。

 だが、例外がいた。

 それは教会関係者だ。


 かつて、聖光教会には神界に神の使徒と呼ばれる者たちがいたという。

 天空王国と同じく空に浮かぶ神界で、【回復】を極めた者たちが何百年も、あるいはもっと長くそこで生きてきた。

 そして、彼らもまた子どもを産んだのだそうだ。


 神の使徒が産んだ子どもは下界に下ろされ、聖都で養育される。

 その子どもたちが聖光教会の神父やシスターとして、各地の教会に派遣されたのだ。

 なので、聖光教会のシスターというのは実は女性でありつつも相当に魔力量が多い人たちだったりする。


 これまで、俺は「東方では男女とも魔力量の多い者同士で結婚することで、より魔力の多い子を残してきた。それが今の貴族たちだ」と聞かされてきた。

 東方では定説とも常識ともいうべき知識だ。

 だが、今更だがそれは本当なのだろうか?

 間違いではないかもしれないが、すべてが正しいかどうかは分からない。

 だって、もしそれが本当ならば兄弟で魔力量が違うことがあるのが、いまいち腑に落ちないからだ。


 もしかして、子どもの魔力量というのは母親の魔力量が重要なんじゃないだろうか。

 もっというと、生まれる前も胎児というのは母親から栄養を吸収しているのだというから、そのときに魔力も取り込んでいるんじゃないのか?

 つまりは、生まれる前にいかに母体から魔力が取り込めるかで生まれた時の魔力量というのは変わるのではないだろうか。


 ハンナの産んだ子どもがイアンが思った以上に魔力が多いというのも、常に【慈愛の炎】を使っていて、胎児の状態で身体強化と回復力強化、そして魔力の吸収もできていたからだと考えるは、おかしいだろうか。


 というわけで、実験することにした。

 人体実験、ではない。

 人は子どもを産むまでに時間がかかりすぎるからな。

 人のかわりに、ネズミを使うことにした。

 こいつらが害獣で、放っておいたら無尽蔵に増えるくらいに繁殖力が高いからな。

 普段は保管している米を食い荒らしたりする厄介者だけど、こういうことには使えそうだ。

 子どもを産ませる実験なら役立つだろう。


 というわけで、適当に捕まえたネズミからクローンを大量に作った。

 どうせならば、同じ個体で比較対象したほうが分かりやすいだろうからだ。

 全く同じ体を持つオスとメスのネズミを複数作り上げ、そいつらを交尾させて繁殖する。

 その際に、なにもしない組や魔力の豊富な食料を与える組、そして【慈愛の炎】を使う組などに分類しておく。


 その結果、生まれてくる子どもの魔力の量はやはり胎児の状態での母体からの魔力をどれだけ取り込めるかで変わってくるということが、分かってきたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大発見ですね~ 公表するのか秘匿するのか… 嫁候補達はアルフォンスとのこどもの為にも、若さと美貌を保つ為にも魔力を上げるのが日課になりそうかな。
[良い点] なるほど、いただきますと同じだったのか 西側の貴族は女性の魔力量を重視してないから、東側の貴族と違って魔力量が低い貴族の娘が問題なく結婚できて、その結果胎児が母体から魔力をあまり吸収できな…
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