新たな命
「さすがに、ヴァンデンブルグ伯爵家の令嬢であるエリザベスとの婚姻効果は凄いな。忙しすぎてしんどいよ」
「まだ面会希望者はたくさんおられます。この後も数件、面会予定がありますのでよろしくお願いいたします」
「わかっているよ、アイ」
ガロード暦十三年の冬、俺はオリエント国議会場にてエリザベスとの婚約が正式に決まったことを発表した。
相手はブリリア魔導国という大国のなかでも高位貴族に位置するヴァンデンブルグ家であり、小国の人間ではなかなか縁を結ぶことが困難な相手でもある。
が、エリザベスという美しい金糸のような髪を持ち、一目で周囲を引き付ける気品ある女性と俺が婚約指輪を交換してお互いの指にはめ合う場面を見て、それが本当のことであると誰の目にも明らかになった。
この情報は思った以上に周囲に影響を与えたようだ。
一番はなんと言っても外交方面だろう。
かつては小国のなかでも技術力はあれども武力的にはそうたいしたことがないとされていたオリエント国。
そのオリエント国が近年では周囲からの攻撃をすべてはねのける力をつけて、その力を実戦で証明し、そして大国の貴族と縁を結んだ。
そして、今後はオリエント国に手を出した場合にはヴァンデンブルグ伯爵家からも援軍が来る可能性があるとなったのだ。
海に面する領地を持つヴァンデンブルグ家は遠い。
実際には、そう簡単に援軍を送ってくることも難しいだろう。
が、最近はオリエント国が魔力で動く、鉄で覆われた動力船を使って、水上を水の流れを逆行して渡航しまくっているのだ。
もしかすると、川をのぼって援軍が来るかもしれない。
実際には川と海と領地は直接的にはつながってはいないのだが、俺の婚姻とその相手のことを知った者たちはそう考えたようだ。
つまりは、オリエント国は力のある後ろ盾を得たとみなされるようになったというわけだ。
その結果、何が起こったかというと、俺に会いたいと言ってくる者が激増した。
今までは、俺の名前はそれなりに小国家群内では広まりつつあったけれど、基本的には変わった新参者くらいなものだったのだろう。
霊峰という死を連想する山々の向こう側からやってきたと言い、傭兵団を所有し、アトモスの戦士の力を使って小国の中に食い込んできた異物というのが、おおよそのもつ認識だったに違いない。
それが、ここしばらくの活躍でオリエント国に攻め込んできた相手と戦って負けなしということで【鉄壁のアルフォンス】と言われたり、治療をしまくっていたおかげで【奇跡の子】などという通り名もついてきた。
しかし、それらはあくまでも風評程度のものだ。
やはり、そのような実績を歴史と力のあるヴァンデンブルグ家が自分の娘を嫁に出すほどに認めたというのがなによりも重要だったようだ。
いろいろな国や都市から名のある人物と言われる連中がわざわざ顔をつなぎにやってきていた。
結局は、誰が評価しているかで人々は俺のことを評価しているのだろう。
ヴァンデンブルグ家が認めた男だから、それなりの者なのだろうということで、今まではオリエント国にまでは来なかった者もやってきて、挨拶をしたいと言ってきたのだ。
ぶっちゃけ面倒くさいとも思ったが、アイがそれは受けておけというので、こうして毎日人と会っている。
一日に何度も何度も挨拶をされて、笑顔を交わし、談笑する。
肉体的には平気なはずだが、とにかく疲れを感じてしまう。
精神的に疲れるってやつだろうか。
その点、エリザベスはさすがだった。
俺とともに挨拶を受けているエリザベスは誰とも笑顔で語り合い、すぐに打ち解けて、盛り上がっているように見えた。
が、後で聞くと、別に楽しく話し込んでいたわけではなく、そういうふうに感じるように会話をするのだと教えてくれた。
どうやら、ブリリア魔導国の貴族として一般的な教養みたいだな。
わずかな時間でも楽しく話し合ったという関係を持つ相手ならば、人というのは親近感を持ち、信頼関係を築くことができるのだそうだ。
今まで、そういうのとは違う傭兵の理論を中心に来ていたからな。
あまり慣れていないので、日々エリザベスに対応の仕方などを教わりながら過ごすこととなった。
そんな冬のある日だった。
子どもが生まれたのだ。
もちろん、俺の子だとかそういうのではない。
が、俺にとっても、まるで自分の家族のような者たちの間で生まれた子どもだった。
俺がエリザベスと婚約したことで、将来結婚相手となったミーティア。
そのミーティアの姉であるハンナが子どもを出産したのだ。
相手はもちろん、ハンナの結婚相手であるイアンだ。
イアン・スフィアという東方に残るアトモスの戦士の生き残りとの間に男の子が生まれたのだ。
つまりは、俺の親戚に当たると言っていいだろう。
「おめでとう、ハンナ。それに、イアン。元気そうな子どもだな」
「ああ。ありがとう、アルフォンス。この子は俺の宝だ。しっかりと戦士として育てていく」
「ありがとうございます、アルフォンス様。無事に生まれてくれてほっとしました」
「いいのか? アトモスの戦士の子育ては過酷みたいだけど、イアンはそのつもりらしいぞ、ハンナ?」
「ふふ。しかたないですよ。もともと、男の子が生まれたらそういう約束をしていたんです。女の子だったら、私の方針で勉強を頑張ってもらおうって言っていたんですけどね」
「ま、ハンナはまだ若いし、いくらでも子どもが産めるでしょ。女の子もいずれできるさ」
「いくらでもは無理ですよ。それに、出産って大変なんですからね、アルフォンス様。ミーちゃんやエリザベス様がたがご懐妊されたときにそんなこと言ってたら駄目ですからね」
忙しい合間でも、二人の子どもを見にいった。
男の子だが、魔力が高いのが分かる。
アトモスの戦士的にはどうなのか知らないが、明らかに普通の人たちの間で生まれた子どもよりも魔力量があるだろう。
イアンはもともとアトモスの戦士として高い魔力を持っているし、ハンナはバルカ教会の中で最上位の名付け親だからな。
魔力が高い者同士の男女で子どもを産んだら、高い魔力量の子ができるというのはどうやら本当らしい。
二人を祝福しながら、そんなことを思ったのだった。
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