護衛依頼の報酬
「へえ。そんな話をしたんだ」
「はい。エリザベス様からのご依頼により、トラキア一族はアルフォンス様の周辺警備を請け負うことになりました。といっても、これまでもそうしていたのですけれど」
「まあ、けどありがたく受けておいてよ。さすがに、ブリリア魔導国にいる刺客の情報とかってのはあまりなかったんでしょ? ヴァンデンブルグ家経由でそういう情報が入るだけでも助かるしね」
「そうですね。貴重なお話をうかがうことができましたので、今後さらに厳重な警護をできることと思います」
最近、エリザベスとシオンが屋敷内で話をしているところが見られたので、シオンに聞いてみたところ、そんな話がまとまっていたようだ。
俺の身を護るために依頼を出す。
エリザベスから見るとかなり俺は無防備に見えているのかもしれない。
もちろん、俺も以前から警戒自体はずっとしている。
影の者たちを使ってもともとこの国を動かしていたオリエント国議員たちが何人も命を狙ったのだ。
自分がそうならないなんて思ってはいない。
だから、常に警護はつけてはいるのだけれど、ありがたい申し出だったというのは本当だ。
小国ではなく大国であるブリリア魔導国の刺客はいろんな奴がいる。
それこそ、貴族や騎士と同等の魔力量を持つ者が、刺客としてのみの修練を行って動いているなんてことはざらにあるらしい。
たった一回でもそういう手合いからグサッと刺されるだけでおしまい、なんてこともあるんだから警戒はしすぎて損ということもないだろう。
が、それでも俺はだいぶ守りは硬いほうじゃないかとは思う。
というのも、毒殺される可能性は最初から除外できるからな。
【毒無効化】という呪文を唱えなくとも自分の魔力だけで自動で解毒できるというのは、基本的にはほかに知られていない。
名付けによって【毒無効化】という魔法があると知っている者でも、それは呪文を唱えなければ効果がないと思っているのであの手この手で毒を仕込んでくることもあるようだが、万が一のすり抜けがあっても死にはしないというのは大きいだろう。
それに、少なくともオリエント国やその周辺では急に襲われる心配というのも減っている。
それはバルカ教会の布教が進んでいるからでもあった。
バルカ教会は信者として認めた者にたいしてエンを使って取引が可能な腕輪を渡している。
これは、個人の魔力の微妙な違いで人を識別していて、その人の現在位置や財産、家族関係までもが登録されているのだ。
つまり、なにが言いたいのかというと、オリエント国周辺ではそこらを歩いているのが誰であるのかをアイは常時把握できているということでもあった。
腕輪をつけている者はバルカ教会で儀式を行っているので、人を傷つけたりすることができないので、暗殺者となるのは難しい。
が、逆に腕輪をつけずに俺に近づいてくる者というのはそれだけで怪しい奴となるわけだ。
というわけで、俺の周りには常にそういう怪しげな奴が近づいてこないか警備兵を置いている。
そいつは人間ではない。
鎧姿の警備兵だ。
新しく手に入れた精霊石を核として魔法陣を刻みこみ、それに魔力を通すことで硬化レンガ製の人型となる天空王国でも作っている小型魔装兵器を数体だけ用意したのだ。
こいつは、アイのような女性姿ではないけれど、アイと同じ人格が備わっていて行動できる。
つまりは、その小型魔装兵器を警備としてそばにおいておけば、腕輪なしの不審者の接近にいち早く気が付いて対処できるということになる。
ちなみに、この自立型の警備兵だが外見的には全身金属鎧を着ている。
その金属鎧はバルカ鋼から作ったものだ。
ぶっちゃけ、硬化レンガでできた体ならばバルカ鋼で作った鎧を着せる意味は防御力的にはないのではあるが、きちんと意味があった。
それは、誤認させるところにある。
警備兵に着させる鎧は、ヴァンデンブルグ家の自動調整の魔法陣を用いて、着用者の体に自動的に合うように変化するものにしたのだ。
そして、オリエント国の警備をする人間の兵にも同じ鎧を身につけさせている。
どんな人であっても、自動で最適な大きさになる鎧を身に着けることで、俺の周りにいるアイ搭載の警備兵の存在を目立たなくさせる意味があった。
そして、この鎧だが真っ赤に塗られているというのも特徴だ。
もちろん、この色にも狙いがある。
というのは、この赤は鮮血兵ノルンと同じ色なのだ。
魔導迷宮で手に入れた赤黒い魔石に俺の血を使って作り出す鮮血兵ノルン。
それは、鮮血というだけあって鮮やかな赤の鎧の姿をしたノルンが自由意志を持って動き回る。
これまでも、戦場で活躍している姿を多くの兵が見ていたので、実は赤の鎧というのはオリエント国内でそれなりに人気になっていたのだ。
一目でわかる異質な存在である鮮血兵ノルン。
それも隠すことにしたのだ。
多くの赤い鎧姿の兵を作り出すことによって。
というわけで、警備兵に配られた鎧の形は鮮血兵と同じになった。
個人の体形によって違いというのは出るけれども、一目でどれがノルンでどれがアイかは分からないだろう。
という感じで、最近の俺は疲れを知らないアイとノルンという赤鎧の警備兵が常にそばにいて、さらにはオリエント国内には同じような赤鎧の兵が取り締まりをしている。
なかなか、この状況で暗殺を成功させるのは難しいだろう。
もちろん、それでも他国の刺客の情報というのはありがたいのだが……。
「ってわけで、あんまり心配いらないのは分かっているのに、シオンはあえてエリザベスからの依頼を受けたんだな。報酬がよっぽどよかったんだろうね?」
「はい。エリザベス様がアルフォンス様と正式にご結婚なされた後には、私も妻として迎え入れていただけるとのことです。その条件であればとお受けいたしました」
「……俺の結婚相手が二人いるってことになるの?」
「そうなりますね。ブリリア魔導国では貴族が複数の妻をめとることはよくあるのでしょう。もっとも、男児を産んでもバルカ家を継ぐ嫡男とはなれないとのことですが」
「シオンって俺と結婚したいとか、そんなことを思っていたのか?」
「というよりも、占いで出ていましたから。そうでなければ、この家で生活をともにする必要はありませんよ」
占いで出ていたから結婚するのか。
でも、シオンの占いは回避しようと思えばできなくもないって感じのはずだから、結局はシオンの意志のような気がするけどどうなんだろう。
まあ、嫌がっているというわけではないんだろう。
よくわからないけど、どうやら俺には結婚予定の相手が増えたようだ。
いいのかな?
ローラやクリスティナあたりにもちょっと話を聞いておいたほうがいいかもしれない。
ほほ笑んでいるシオンの顔を見ながら、そう思ったのだった。
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