エリザベスの決意
「ふふふ。セバスがすごく驚いていましたよ。まさか、自動調整の魔道具をこのオリエント国で簡単に作られてしまうとは思っていなかったのだから、当然ですよね」
「もしかして、ヴァンデンブルグ家は文句を言ってくるかな?」
「そうですね。言ってくる可能性がないとは言えないかしら? あるいは、私の側仕えや警備の兵の中に情報を漏らした者がいるかもしれないから、原因究明をする必要があると言ってくるかもしれないですね」
「そっか。文句を言われるのはちょっと困るかな。婚姻関係にあるヴァンデンブルグ家がそうするってことは、ほかの貴族もそうする可能性があるってことでしょ? どこかの貴族が秘匿する魔法陣を解読して使うごとに文句を言われるのは面倒そうだな」
オリエント国にあるアルフォンス君のお屋敷。
内壁の中でもそれなりに中心地に近く広い敷地にあるこのあたりの伝統的な造りの家。
そこで私は彼とお茶を楽しんでいます。
雪の降る外の景色を見ながら、温かいお茶を飲んでお話しする。
ゆっくりとした時間が過ぎていました。
先日、執事のセバスから話を聞いた魔法陣解読の件について。
そのことをアルフォンス君へと訊ねたのです。
もともと、ブリリア魔導国で作られていた魔道具が近年では小国家群でも広まりつつある。
そのことは耳にしていましたが、実際にここにきてみると驚きました。
日常のいたるところで魔道具が用いられているのです。
その使用頻度はブリリア魔導国に劣らないと言えばどれほどすごいことか分かるでしょう。
魔法陣を解読されたことにたいしてセバスは驚いていましたが、もはやそれ以前の話ではないでしょうか。
オリエント国では魔法陣研究がかなり進んでいるのは明らかです。
今後ヴァンデンブルグ家の持つ自動調整以外の魔法陣も模倣されたり、あるいはほかの貴族家の魔法陣が解読されることは時間の問題ではないかと思います。
ですが、それはここで実際に目にしなければ理解できないことでもあるかと思います。
魔法陣は暗号化すると解読ができなくなってしまう。
ブリリア魔導国にいる多くの者はそう思っているはずです。
貴族院でもそう習いましたし、実際にこれまでそうだったのですから。
なので、暗号化されていない製造段階の生の魔法陣は非常に重要で、どの貴族家もそこだけが独自に持つ魔法陣は厳重に管理されているのです。
それこそ、婚姻関係を結んで家に入ってきた者でもその魔法陣は見ることができないようにしている家が多いはずです。
造り手も限定し、情報漏洩しないように、報酬や地位はしっかりと保障しつつも、一定の土地からは生涯出さないということも珍しくありません。
なので、オリエント国が自動調整機能を持つ魔道具を作っても、解読されたというよりは情報を盗み出されたと解釈する者が多いのです。
しかし、実際には違います。
この場にいるヴァンデンブルグ家の縁者でそんな重要な情報を持つ者はいないのですから。
それは例え私であっても同じです。
当主であるお父様が認めた者、あるいは後継者の兄だけしか魔法陣を知らないのですから情報を流しようがないと言えるでしょう。
お父様はどう動くでしょうか。
セバスは鉄で完全に覆われた魔導鉄船を見て、それを我が家も利用すべきだと考えたようです。
そのために、アルフォンス君とは敵対することなくうまく付き合うようにと手紙をしたためて送っていることでしょう。
ただ、もしそれでお父様や兄がオリエント国と友好的な関係を築こうとしても、他家はそうはならないでしょう。
きっと、これからもオリエント国は魔道具作りをしていくはず。
そして、その時にほかの貴族が持つ魔法陣を利用した魔道具作りもすることになるのではないでしょうか。
その際に、魔法陣技術を奪われたと言って敵対的行動をとる貴族家がないとは言えません。
というか、必ずあるでしょう。
ブリリア魔導国の多くの貴族から目の敵にされる可能性がありますね。
どうしましょうか。
私の婚約者様はそれを聞いて困ったと言いながらもうれしそうな表情をしています。
どうやら、アルフォンス君は戦いになってもそれを苦にせず、むしろ嬉々として戦場に赴く方のようですね。
ただ、少し心配です。
アルフォンス君は【鉄壁のアルフォンス】という通り名があるように、数々の防衛戦で勝利を納めてきたようですが、ブリリア魔導国の貴族家の軍は小国よりも強いのは間違いありません。
それに正面から攻め込む以外にもなにかをやってくる可能性がありますからね。
彼が想像している以上にこの国は危険にさらされているでしょう。
どうやら、私はとんでもないお方のところに嫁ぐことになりそうです。
私のかわいい婚約者様が危険に晒されないように、私も頑張る必要があるでしょうか。
ひとまず、彼の力になってくれる方とお話することにいたしましょう。
私は私の体を治し、命を救ってくれたかわいい騎士様をお助けするために、この屋敷に上がり込んでいる人に接触したのでした。
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