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執事の驚き

「自動調整の魔法陣が模倣された? それは本当なのですか、セバス?」


「はい。確かなようです、お嬢様。いかがいたしましょう」


「……情報が漏洩した、あるいは何者かによってされたというわけではないのですよね?」


「もちろんです。というよりも、ここにいるヴァンデンブルグ伯爵家の関係者も魔法陣の情報を持ち得る者などおりません。魔法陣技術は厳重に管理されており、その知識を持つ者は伯爵領を自由に出ることなどできないのですから」


 エリザベスお嬢様に此度の件を説明申し上げた。

 オリエント国国防長官兼護民官たるアルフォンス・バルカ様。

 お嬢様の婚約相手が見事、お嬢様の不治の病、いえ、呪いを解いたことでご当主様から預かっていた婚約指輪をお渡しすることとなった。

 その指輪にはヴァンデンブルグ伯爵家が持つ秘匿された魔法陣の自動調整機能がついていた。


 アルフォンス・バルカ様は言った。

 この指輪を渡したら、魔法陣を解読されてしまうのではないかと。

 私はそれに答えた。

 絶対にそれは不可能だ、と。


 そのはずだった。

 が、そうはならなかった。

 あっという間だ。

 一月と経たずに、オリエント国は自動調整の魔道具を解読してしまったという。

 にわかには信じられないことだ。

 だが、私はその魔法陣が用いられて作られた超巨大魔道具をこの目で見ているのだ。

 信じないわけにはいかないだろう。


「アルフォンス君は自動調整の魔法陣を使って何を作ったのかしら? 何度かお茶を一緒にしたときには、もっと戦いたいと好戦的な意見が多かったのだけれど、それだと金属鎧なんてのが候補に上がったりするのかしら?」


「……いえ、違います。確かに、自動調整機能の付いた魔導鎧はヴァンデンブルグ家にもありますが、そうではありません。もしかしたら、今後作るのかもしれませんが、私が見たものは違いました」


「セバスはその目で見たのね? まあ、そうでなければ魔法陣が解読されたと私に言ってこないわよね。何かしら?」


「船、でございます。アルフォンス・バルカ様は自動調整の魔道具を船に用いたのでございます」


「船? ごめんなさい。船ってもちろん水の上に浮かぶ船のことよね? あれに自動調整を使うの?」


「はい。私では今まで考えもしなかった構想です。もともと、オリエント国では船を鉄板で覆って防御力を高める船を建造していたようです。その鉄板に自動調整の魔法陣を使用したのです」


 私がこの目で見たもの。

 それは、間違いなく船だった。

 鉄で覆われた船。

 それにヴァンデンブルグ家の魔法陣が用いられていた。


 魔道具の船。

 それがこのオリエント国にあるというのは、すでに話には聞いていた。

 動力鉄板船。

 魔力を用いて推進力を得る船がオリエント国には存在し、近頃は川で運用されている。

 それがあったからこそ、海に面する領地を持つヴァンデンブルグ家もエリザベスお嬢様との婚約を検討することとなったのだ。


 そして、それはすでに確認済みだった。

 オリエント国まで馬車で急行した際に、グルー川のほとりでそれを目にしていたのだ。

 その時は、確かに川の流れに逆らって船が動いていた。

 が、その船の表面は鉄板でつぎはぎにされたものだった。


 どうやら、水上での防御力を高めるためにという意味らしい。

 川の流れに逆上して走行する力があるゆえに、鉄板で船を覆っても移動できるのだろう。

 その動力鉄板船を改良したのだそうだ。

 自動調整の魔法陣を鉄に描くことによって。


「大きな鉄の板をお椀型に曲げたうえで、その表面に魔法陣を描いたようです。そして、その大きな鉄の板を木組みの船に当てて魔力を通します。すると、その船は鉄で完全に覆われることとなるようです」


「船の表面を大きな金属の板で、ということね? ということは、もしかして船の中に水が入ってくることも減るのかもしれませんね。普通の木の船や鉄板を張り合わせたものよりも、穴が開きにくいようでしょうし」


「その可能性が高いかと思われます。当然、外部からの攻撃にも強いでしょう。しかも、それに動力となる羽をつけて走行するので、足が速いという特徴もあります。非常に凶悪な船と言えるでしょう」


「でも、セバス。鉄を水に浮かべるなんて、すぐに錆びてしまうのではないかしら? 海とは違うといっても、水に浸かっている以上、腐食はしていくのではないかと思うのだけれど」


「もちろんです。ですが、どうやらそれも解決済みのようです。オリエント国の魔法陣には金属の錆を防止する魔法陣なるものがあるようですので。それも同時に使用すれば、長期間にわたって使用できる鉄船の完成です」


 恐ろしい。

 この魔導船の凄さが分かるのは、私がヴァンデンブルグ家に仕える執事だからに違いない。

 分厚い鉄で覆われた水の流れに逆らって動く船。

 そんなものがあれば、海戦では非常に大きな戦力になる。

 それこそ、帝国や教国の船と戦っても勝てるほどに。

 そんな驚異の船を内陸に位置するオリエント国が作ってしまうとは思いもしなかった。

 魔法陣を用いることで造船を容易にするという効果もあるだろうから、あの魔導鉄船作りはさらに加速するかもしれない。


 すぐに、ご当主様に報告しよう。

 お嬢様とアルフォンス・バルカ様の婚約はけっして形だけのものとならないように意見を申し上げる必要がある。

 アルフォンス・バルカ様になにかあれば、ヴァンデンブルグ家はすぐに助けを出すようにしなければならない。

 そして、それをすることによって、逆にヴァンデンブルグ家になにかあれば助けを求めることができる。

 オリエント国は小国にあらず。

 必ずや、ヴァンデンブルグ家の力になってくれることを理解していただかなければならない。


 私はこの国に来て、見て、感じたことを、書き漏らさぬように詳細を書き連ねた手紙を送ることにしたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 船を好きな大きさに変える方向に行くものとばかり そうすりゃ荷物少ない時小さめで 多い時には大きくとか妙ちくりんな事出来るし(棒
[一言] 金属成形が何でも出来るようになるなら産業革命の幕開けが近そうですね
[気になる点] うん? 質量やら分子間構造やらはどうなるんだろう? 延びても質量が変わるわけないし。分子が粗くなるなら性質が変わるんじゃない? 魔法とは摩訶不思議
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