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発明保障制度

「解読完了いたしました。こちらが自動調整の魔法陣です」


 ヴァンデンブルグ伯爵家秘蔵の魔法陣。

 ブリリア魔導国では婚約や結婚などでよく用いられるという魔法の指輪に刻まれた暗号化された魔法陣は、これまでどの貴族からも解読されたことはないとセバスは言っていた。

 が、それももう過去の話だ。

 あっさりとアイが解読してしまったのだから。


「セバスは無理だって言ってたし、俺も自分でやれって言われたら解読できないけど、アイなら簡単にできるんだな」


「暗号化された魔法陣の解読は不可能ではありません。ただし、実際にやろうとすると膨大な時間がかかるという点で、きわめて解読が困難であるというのは事実です」


「時間? アイはそんなに時間がかかっていなかったように思うけど?」


「私はカイル・リード様により情報集積と検証のために生まれた仮想人格です。リード家の持つ魔法の【並列処理】と同様の思考法も行えるため、解読の際には時間を短縮できるのです」


「ああ、そういえばカイル兄さんのリード家は【並列思考】なんていうよくわからない魔法があったんだっけ。なるほど、それを使えば解読が早く済むのか」


「いえ、普通の方では無理でしょう。並列に情報を処理してもしきれないほどの計算量が暗号解読には求められるので。それができるのは、カイル・リード様をおいて他にはいないのではないかと思われます」


 よくわからないけれど、暗号化された魔法陣の解読というのはとんでもない時間がかかるものということだけは分かった。

 アイの説明を聞く限りでは、情報を総当たりして、しらみつぶしに調べるみたいな感じらしい。

 今まで勘違いしていたけれど、暗号の鍵となる魔法文字にあたりをつけてバチッと解読なんて都合のいい方法はないみたいだ。

 むしろ、そこにあるごく限られた情報から汲み取った基点を使って、あとはすべての魔法文字を総当たりで調べることになるのだとか。


 なので、やろうと思えば誰でもできるとアイは言う。

 言ってみれば、万を超える数字列のなかから特定の数字を探し当てるだけという感じなのだから。

 運が良ければ早めに見つかるかもしれない。

 が、天文学的な数の可能性の中から特定の効果を持つ魔法陣という魔法文字の組み合わせを見つけるまでにたいていの場合は途中であきらめることになる。

 そういう意味では、魔法陣の解読はきわめて困難なのだろう。


 それをわずかな時間でできてしまうのは、カイザーヴァルキリーの頭に本体があり、仮想人格でもあるアイだからなのだろう。

 そもそもの計算速度が尋常じゃないし、疲れ知らずだ。

 まともな人間ならば、そんな総当たりのしらみつぶしなんて頭の中が破裂してしまうに違いない。

 もっとも、最初にそれをしたカイル兄さんがどれだけ異常なのかというのが、いまさらになってよくわかったが。


「……でも、そう考えるとオリエント国の職人たちってすごくないか? アイが魔法陣や魔法文字の基礎を教えたら、すぐに自分たちで魔法陣を使って魔道具作りを始めちゃっただろ? 解読も大変だけど、新しい魔法陣作りも相当大変なんじゃないのか?」


 魔法文字というのは一文字一文字に意味があるらしい。

 が、それを適切に組み合わせ、さらに複雑に配置することで特殊な効果を現すのが魔法陣だ。

 それを基礎を教わっただけで、魔道具相場の暴騰を引き起こしたオリエント国の職人たちはすごいと思う。

 あのとき、なんの役にも立たない魔道具が量産されたけれど、それでもなんらかの効果を発揮したからこそ魔道具として売り出されたのだ。

 当時、金に糸目がくらんだばかな連中が魔道具を買い集めたから値段のつり上げが始まったのだと思っていたが、実際には違ったのかもしれないな。

 魔道具として役に立たなかろうが、効果を発揮する魔法陣が出来上がったこと自体に意味があり、値段がついたんだろう。

 相場の過熱後に魔法陣を模しただけの偽魔道具が出回り、それ以降は職人たちが魔道具を買うことは減ったが、間違いなく初期の暴騰には技術・情報としての価値が認められていたからこその高値だったのだ。


「オリエント魔導組合で魔道具の品質管理をしていたよな、アイ?」


「はい。現在は多くの職人が組合員となり、魔道具の販売などはオリエント魔導組合を通して品質の管理も行われています」


「それって、新規に魔法陣を発明した人に報酬とかってあるのかな? ものすごく今更だけど、今まで知られていなかった魔法陣を作れる奴は最低でも金銭的に保障されないとまずくない? それこそ、魔導組合を抜けて、ほかのところで魔道具開発する奴も出てくるかもしれないしさ」


「その可能性は以前より組合員からの指摘がありました。現在、対策を検討中ですが新規の魔法陣を見つけ出した者には報奨金を支払いますか?」


「うん、そうしてあげて。もしくは、その魔法陣を組み込んだ魔道具が売れたら、その分の値段の一部を渡すとかさ」


「承知しました。売り上げの一部を使用するという形であれば、現在の組合運営費からでも捻出可能で持続性が期待できる可能性があります。議題にあげて検討を進めることにいたします」


 アイはその後、すぐにそのことを議題にあげたようだ。

 その結果、魔道具販売による利益の一部が魔法陣開発者の手元に来るようになった。

 これによって、金属の錆防止の魔法陣など、オリエント国で開発された魔法陣開発者は莫大な利益が継続的に転がり込むようになってきたようだ。

 そして、それとは別に自分から魔法陣の詳細を魔導組合に申告する者も増えた。

 どうやら、魔法陣として完成していない状態でも、特定の魔法文字の組み合わせにはこんな意味があるとわかった、などと申し出ることもあるらしい。


 魔法陣の組み合わせの材料となる情報。

 それ自体にも魔道具職人たちには喉から手が出るほどに重要なものだという。

 というわけで、そのような知られざる新規の魔法文字の組み合わせにも売り上げの一部が支払われることになったようだ。

 これにより、新たに作られた発明保障制度によって未発見の発明をした者は報われる仕組みが出来上がり、オリエント国では更に精力的に魔法陣開発に取り組む者が続出し始めたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 特許審査にもアイが大活躍、そしてカイル君の知識に…
[一言] 製品になってない部分的なロジックにも著作権が認められるのは凄い。
[良い点] ソフトウェアの特許とか、凄いな。
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