傭兵兼聖戦士
「なんていうか、意外だったわ。てっきりアルフォンス君って略奪とかはしない、そういうのが嫌いな人なのかと思っていたから」
「そんなこと思っていたんだ、クリスティナ? 別にそういうわけではないんだけどね」
「でも、今まで戦いに出た先でバルカ傭兵団って略奪させていなかったと思うけど? まあ、おかげでギース君たちの中隊が集めた物資のやり取りでうちも稼がせてもらっているから止めようだなんて思っていないんだけどね」
「一番稼げるからね。一時的にはだけど」
グルーガリア国のヘイル・ミディアムとの契約で動いているギースたちの中隊。
それは、ヘイルの求めに応じてあちこちで戦って戦果をあげている。
全員が魔法を使いこなし、日々の鍛錬としっかりした食事を食べ、しかも【見稽古】を使って武術も習熟している。
中隊の中でも指揮系統がはっきりと決められて組織的に動けるということで、五百人程度の部隊ではあるが十分な活躍をしているようだ。
そのギース中隊が戦地で得た物をいち早く買い集め、売りさばいているのがクリスティナの息のかかった商人たちだ。
グルー川経由で颯爽と戦地に現れて、押収した品々を買い取り、食料や武器を売りつけて稼いでいる。
まるで、昨今の不況を打破しようとするかのように我先にと頑張って儲けをあげていた。
それを見て、ホクホクの笑顔になりながらもクリスティナは疑問を口にした。
今までしていなかった略奪行為をどうしてするようになったのか、と。
が、これはちょっと正確ではない。
今までと基本的には同じ方針でバルカ傭兵団は動いていたからだ。
これまで、バルカ傭兵団はオリエント国の求めに応じて何度も戦場に出てきた。
けれど、そこまで大きく略奪をするようなことはなかった。
それは略奪を禁止していたというよりは、許可制だったからだ。
俺が許可すれば攻略した町や村から物を巻き上げてもいいけれど、許可しないのに物を持っていけばそれは処罰対象として厳しく罰せられた。
なので、規律が保たれていたのだ。
そして、それは今回も同じだ。
ギースたちはあちこちで戦って、そこで財貨を得ているがけっして無秩序にそれをしているわけではなかった。
つまり、相手を見て略奪をしているということになる。
それをグルーガリア側も許容しているからこそ、問題なく稼げているのだ。
なぜ、そんなことができるのかといえば、ここ数年の地政学的問題が原因だ。
小国家群で魔法が広がった際に起きた出来事として、それまであった国や都市国家の統制から離れた独自勢力の台頭があった。
たとえば、とある場所ではそれまで一つの都市国家が複数の村や町を支配していたが、魔法の影響でいくつかの町がその支配から脱却し、独自にその地を統治し始めたということになる。
ギースたちが物資回収を行っているのは、まさにそういった独自勢力からだった。
グルーガリア国やそこと争っている国にとって、自分たちの支配から脱却した独自勢力やその他の勢力というのは基本的に邪魔でしかない。
ただ、【壁建築】や【アトモスの壁】で守りを固めた町や村は一種の要塞のようになっていて、損害なしに手を出しにくいことも多い。
なので、目の上のたんこぶのように思いつつも、しばらくの間は放置をしていた独自勢力というのがそれなりにいたのだ。
そういうところへと攻撃をしていくのは、グルーガリア側としても損ではなかった。
どうせ、自分の懐が痛むわけでもないしな。
むしろ、片付けてくれて助かるという立場だ。
略奪し終えたギース中隊がそこを支配するわけでもないので、そこを支配したいのであればあとから入って土地を押さえればいいだけなのだから。
「けど、それじゃギース君たちが、もしくはバルカ傭兵団が恨まれちゃったりしないかしら? バルカ教会を布教したいって言っていたのに、そのへんは大丈夫なの?」
「問題ないよ。大義名分はちゃんと持たせたからね。ギースたちのしている戦いは信者解放の聖戦でもあるのさ」
襲って傷つけ奪い取る。
そんなことをすれば、誰だってそれをした存在を怖いと思うだろう。
次は自分がそれをされるかもしれない。
もしも、バルカ傭兵団がそんな悪逆非道な存在であると思われたら、今後やりにくい面があるのではないか。
クリスティナがそう指摘したが、もちろんそのことは最初から考えている。
だから、理由付けは用意した。
ギースたちが派遣された先で活動しやすくするように、襲いやすくなるように用意した理由。
それは聖戦だ。
バルカ教会の信者は魔法を使える者である。
魔法が使えればそれすなわち信者であると認定してしまえる。
そして、独自勢力というのも基本的には魔法を使える連中の集まりだった。
なぜなら、魔法を手に入れたことでそれまでの支配を脱したのだから。
が、そこには秩序がない。
力で支配から逃れて、暴力で町を統治している。
そんな状況を許してよいのか。
いいわけがない。
東方に広がった魔法はバルカ教会のものであり、それは正しく使われるべきだからだ。
どこの馬の骨か分からない連中が勝手に信者たちから搾取するために魔法の力を使うのは許されない行為である。
というわけで、そんなことをしている連中を正す為にギースたちは一役買っているというわけだ。
不届き者に押さえつけられている信者たちを解放するために戦うバルカ傭兵団の面々。
彼らはグルーガリア国と契約した傭兵であると同時に、信者たちを解放する聖戦士でもあるというわけだ。
こうして、ギース中隊は今日も戦う。
ヘイルの求めに応じて転戦しながら、壁を使って要塞化した町や村から信者を解放しつつ、独自勢力として力を持っていた連中からさまざまな物資をありがたく回収し続けていくのだった。
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