出稼ぎ中隊
「ギース。君の中隊がグルーガリア国のヘイル・ミディアム殿のもとへと行くことになった。よろしく頼んだよ」
「はい。敵は全員ぶっ殺してきますよ」
「その意気だ。けど、傭兵たちを消耗させすぎないようにな。今回傭兵を出すのは一個中隊規模だけど、それを二年間預けるってことはその間の人的補給はないってことになる。数を減らしすぎたらお前も死に近づくことになるから気をつけろよ」
グルーガリア国のヘイルへと傭兵団の仕事を受けると返事を出した。
本来ならば、それは俺が自分で行きたいところだ。
が、できない。
さすがに、二年間も拘束される契約でほかの国に仕事へ行くわけにはいかないからだ。
というわけで、バルカ傭兵団からグルーガリアへと向かう中隊規模の傭兵団をギースという男に預けることになった。
こいつはオリエント国の貧民街出身だ。
キクと同じようにアイの講義を受けながらも、学問よりも戦闘にばかり力が入っていたような人間だ。
槍の腕が人一倍上達し、最低限の知識もあるので中隊を任せられるくらいには力があると思う。
そんなギースに訓示をしていく。
「了解です。けど、自分で人を集めるのはいいんですよね?」
「問題ない。ヘイル殿から支払われる報酬の一部はバルカ傭兵団本部がもらうことになるけど、それ以外は派遣した傭兵たちのために使うことになるからな。人を集めて装備や食料を確保できるんなら、その範囲内で好きなだけ集めてもいいよ」
「お金の管理が大切ってことですよね。大丈夫です。兵站についてもちゃんとアイ先生に習ってますから」
「頑張ってくれよ。まあ、どうにでもなるとは思うけどね。ちゃんと補助はするからさ」
グルーガリア国に向かうことになる傭兵たちをギースがうまく管理できるかどうか。
ぶっちゃけ、こいつがどこまでできるかは未知数だ。
アイに教わっていることが頭には入っているだろうけれど、それを実践できるかどうかはまた別の話だからだ。
というわけで、うまくいくように助力するようには用意をしている。
「補助というのはなんでしょう? アルフォンス様が手伝いに来ることはないんですよね?」
「まあね。グルーガリア国からオリエント軍に救援要請でも出ない限りないと思う。だけど、商人は別だから。各国に通行手形をもって移動しながら商いをする商人たちを通して便宜を図ってもらえるようにしておくよ」
「商人ですか? アルフォンス様がそういうってことは普通の行商人ではないんですよね?」
「もちろん。グルーガリアがどこと戦うことになるかは知らないけど、グルー川に近いところだろうしね。あの川から船を使った商人が向かうことになるから、いろいろ取引してみるといいよ」
派遣された傭兵団は特定の拠点を守るのでなければ、どこかを転戦することになるだろう。
もしも、ほかの国へと向かうことがあれば、割と自由に動けるはずだ。
金をもらって働くとはいえ、正規軍じゃないしな。
別動隊みたいな感じで本隊とは別の地へ行くこともあるだろう。
そして、そこで金目の物を手に入れる。
傭兵団の主な収入は雇い主からの報酬以外にも、戦地で手に入れられる物資が大きな比重を占めている。
だが、それはグルーガリア国の商人相手では買いたたかれるかもしれない。
だから、こっちの手がかかった商人になるべく買い取らせようということになった。
ギース率いる傭兵たちが各地を転戦して荒稼ぎし、それを動力鉄板船を使って移動する商人たちが引き取る。
その取引で得たお金でギースは傭兵団の運営をやりくりし、こちらはさらに動力鉄板船を使って別の地にもっていく。
それはオリエント国かもしれないし、別の土地かもしれない。
そうしてそこで利益を得るわけだ。
当たり前だけど、その商人が稼いだお金はこちらの収入増加にも繋がる。
動力鉄板船を使う以上、稼いだ分だけこちらも回収させてもらうつもりだからだ。
ようするに、バルカ傭兵団の派遣ではいかにギースが中隊を指揮して物資回収できるかにかかっている。
「どこまでグルーガリア軍から離れて好き勝手に行動できるかが重要ってことですよね?」
「そうだな。勝手に動いても文句を言われないくらいには戦果を出しつつ、いかに自由に動くかって感じだと思う。というわけで、ギースにはこれもやろう。これは絶対に無くしたり、誰かにあげたりするなよ?」
「これって、氷精槍じゃないですか! もらえるんですか?」
「ああ。魔力を込めると氷の槍が出る魔法武器だ。貴重だから盗まれたりにも気を付けてくれよ」
「もちろんですよ。肌身離さず持っているようにします。ありがとうございます、アルフォンス様。俺、グルーガリアで大稼ぎしてきますよ」
そう言って、派兵部隊の隊長であるギースは張り切って中隊を引き連れてヘイル・ミディアムのもとへと向かった。
それからしばらくして、グルー川を経由して、あちこちの村や町で手に入れた物品がオリエント国へと流れてくることとなったのだった。
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