試作動力船
「できたでござるよ、アルフォンス殿。試作第一号の動力船でござる」
「おお。もうできたのか。早いな、ガリウス」
バルカ製鉄所にいる職人ガリウス。
そのガリウスに精霊石を用いて作った動力機構型魔道具を手渡してまだ数日だ。
だというのに、さっそく試作機である動力船ができたという。
すぐにそれを見せてもらった。
「……ちっさ。船ってか、小舟じゃん」
「そのとおりでござるよ。言ったでござろう。試作第一号であると。これは既存の船に動力機構を用いて、回転羽を船の底面後方に取り付けるようにしたものでござる。これで一応、川の流れに逆らっても進むでござるよ」
「ふうん。まあ、最初だとこんなもんか」
「こんなものとは心外でござるな。このように新しい開発の際には実際に作って、それを現実のもとで使ってこそわかることがあるのでござるよ。これも貴重な第一歩でござる」
「そんなもんかな? で、これでなにが分かったの?」
「いろいろ分かったでござるよ。実際にこの動力機構に取り付ける別の歯車の歯数でどのくらいの力が得られるのかや、回転羽の形はどのような形状がよいのか。あるいは、速度が出た時に曲がることが可能な旋回角度のほかにも、船に鉄材を用いた際の問題点などなどでござるな」
「その口ぶりからすると、結構解決しないといけない課題が多そうだね?」
「もちろんでござる。やるべきことは多いでござるよ。これからなににどう手を付けていくかを考えただけでも、拙者、わくわくするのでござるよ」
「……楽しそうでなにより。しかし、まあそうなってくると、さっさとこのバルカ製鉄所の地域に新しい川を作って水を流さないと研究も出来なさそうだね。しょうがない。魔石とラッセン殿も動員して、作業を進めさせようか」
ものすごくいい笑顔でガリウスがあれこれと動力船について説明してくれた。
どうやら、この仕事はかなり面白いみたいだ。
自分の手で新しい物を作り出していくというのが、心底楽しいんだろう。
初めて俺と会ったときは貧困街のボロ家の地下で仕事をしていたことを考えると、気持ちは分からなくもない。
そんなガリウスの仕事を助けるためにも、このバルカ製鉄所の周辺整備を急がせたほうがよさそうだ。
というか、船を作る研究をしようというのに、近くに川がないというのも問題だろう。
計画を先に進めるためにも穴掘り師とも呼ばれたラッセンを使って工期短縮といこう。
なんだかんだで、ラッセンの力は便利だなと思ってしまう。
ついつい、ラッセンを使ってしまうので魔法創造の仕事は完成まで時間がかかってしまうかもしれない。
「ちなみに、試作の船ってほかにも作っているの?」
「もちろんでござるよ。動力機構は基本的には変化させずに統一規格で、というアルフォンス殿の要望があったでござるからな。それならば、さまざまな形の船で試さざるを得ないでござる。拙者が作る船のほかにも、方々で用いられている既存の船を運ばせて、動力をつけてみる研究もする予定でござる」
「ってことは、この一号機って俺が持っていってもいい? 乗ってみたいんだけど」
「アルフォンス殿が乗るのでござるか? 問題はないでござるが、泳げるのでござるかな? 万が一に備えて拙者の用意した救命具を渡しておくのでござるよ。ああ、それと水面に落ちた際には動力機構と連動した回転羽には気を付けるでござるよ。鋭い刃のようになっているものが動いている性質上、それに体が巻き込まれると危険でござるからな」
「了解。気を付けるよ」
「本当に気を付けてほしいでござる。拙者が試したかぎりでは大丈夫でござったが、無茶な運転をすれば転覆する可能性は十分にあるでござる。なにかあっても拙者には責任を追及しないでくれるというのであれば、この場で渡してもいいでござるよ」
「もちろん。この船で俺が怪我したり溺れても文句は言わないさ。死ななきゃ治せるしね。それじゃ、借りていくよ」
「分かったでござる。ならば、使用した感想を後で聞かせてくれると嬉しいでござるよ」
ガリウスに許可をもらったので、試作一号機の動力船を持って帰ることにした。
最初は小さい船だったことに多少の不満はあったが、小さいからこそ運びやすいという面もあるようだ。
人が数人乗って川下りをする程度の大きさなので、荷車にも載るので、それでグルー川まで運んでいった。
「えっと、この部分に魔力を注いでやればいいのか。進行方向はこの舵で調整するっと。ずいぶん簡単だな」
グルー川に浮かべた動力船に乗った俺は、ガリウスから聞いていた操縦方法を思い出しながら操作する。
魔力を注ぐと動力が動き出したようで、それにより船の後方についていた回転羽が回りだした。
今は氾濫の兆しもない落ち着いた水面を保つグルー川の水の上で、動力船が進み出す。
おお〜、とそれだけで声をあげてしまった。
なかなかに楽しい。
ゆったりとした水の上で進む船というのがこれほど面白いのは予想外だった。
そして、そのまま魔力を流し続けると船の速度はどんどんと上がっていった。
だが、どうやら上げすぎたようだ。
回転力を増し続けた羽の力で、船体がガタガタと揺れ出して、ついには船首が浮き上がり、俺の乗っていた動力船はあえなく転覆してしまったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。





