動力機構型魔道具
「というわけで、船を作ることにしたよ」
「船でござるか。なるほど、それはいいかもしれないでござるな。大きな船を作れば輸送量は大きくなるのでござる。手に入れた精霊石とやらを兵器に使うよりも、いい考えかもしれないでござる」
アイとの検討会議を終えた俺は、精霊石を使う方針をある程度固めた。
一応、集めた精霊石を全部使うようなことはなく、予備として残しておく分は分けておく。
が、半数以上を動力機構に活用することにした。
すでに、その試作機はできている。
アトモスの里でラッセンが作った縦穴からノルンが回収してきた精霊石。
それに、アイが魔法陣を描いた。
あまり大きな精霊石ではないが、その魔法陣が描かれた精霊石に魔力を通すと、硬化レンガ製の部品が出現するのだ。
もちろん、それは部品が出てくるだけではない。
その部品は魔力に反応して回転する。
下手な金属よりもはるかに硬い硬化レンガでできた歯車のような部品はただ回転し続ける。
この動力機構型魔道具のいいところは、効率がいいという点にあるだろう。
ある程度小さな精霊石からでも作ることができるので、結構な数の魔道具として作り上げることができた。
そして、小さくともそれなりに力があり、しかも固く破損しにくい。
というか、魔装兵器同様に修復機能もついているので、壊れても硬化レンガがあれば直る。
そして、その歯車と連結させる部品を魔道具以外でつくることで、より大きな力に変換して利用できるのだ。
バルカラインにある魔導列車も小さな動力機構が、大きな列車を動かす原動力になっている。
また、大きさが小さいことは消費魔力量も少なくて済むということを意味していた。
大型の魔装兵器などであれば、普通の人は扱いにくい。
ある程度魔力がないと、起動させて使い続ける間中ずっと魔力が奪われていくこといなるからだ。
だが、この動力機構型魔道具であればそれほど多くの魔力を必要とはしないので、普通の人であれ、魔力が蓄積された魔石があれば運用できる。
そして、この魔道具を見たガリウスがいうように、船との相性もいい。
小さい歯車でしかないこの魔道具でも、水の上に浮かべる船に活用することで、より効率がよくなるだろう。
船ならば大きさを大きくすれば積載量も増やせるので、列車よりも効率がよくなると思う。
「しかし、船でござるか。別に船を作れる者はほかにもいるであるのに、それをわざわざ拙者に言いに来たということは、理由があるのでござるな?」
「もちろんだよ、ガリウス。この動力機構型魔道具をつけた動力船の製作はガリウスに任せたい。このバルカ製鉄所にいるガリウスにね」
「それはありがたい申し出でござるな。けれど、船ならば製鉄所のここよりも、もう少し木々を手に入れやすい場所で作るほうがよいのではござらんか?」
「いいや。ここだからこそだよ。この動力船は鉄で作ってみたいんだ。だから、このバルカ製鉄所はちょうどいいんだよ。ラッセンの獄炎釜で作られる上質な鋼であるバルカ鋼が生産できるからね」
「……船をバルカ鋼で作るのでござるか? 鉄を水につけていたら錆そうでござるが、それ以前にきちんと浮くのでござろうか?」
「実はその辺は研究できていないみたいなんだ。天空王国やバルカ領って別に水が豊富な場所じゃないし。だからこそ、面白いと思うんだよね。やってみないか、ガリウス?」
「ふむ、面白そうでござるな。それはつまり、あの知識の豊富なアイ殿でも知らないことということでござろう? それを拙者が作り出す。なかなかに面白そうな開発ではないでござるか」
「よし。そうと決まればさっそく取り掛かってくれ。っていっても、最初から大型化する必要ってないんだけどね。まずは、きちんと船に動力機構型魔道具を取り付けて動かせるように動作確認が必要なんじゃないかな? で、いろいろと問題点を洗い出して、改良していくって形でよろしく」
「承知。拙者に任せておくでござるよ、アルフォンス殿。面白い船に仕上げて見せるのでござるよ」
ラッセンの獄炎釜を中心にして作ったバルカ製鉄所。
そこの管理をしているガリウスにわざわざこの話を持ってきたのは、鉄を活用するためだ。
バルカ鋼の一番の目的は錬銀術に使うためだけれど、それ以外にも鉄としての活用方法が欲しかったというのがある。
ちなみにこのバルカ製鉄所は鉄が産出しているわけではないので、別の場所から輸入してくる必要がある。
地形を変える工事で川の流れをこのバルカ製鉄所に持ってくる計画だったが、その上流か下流でちょうどいい鉄鉱山とかないだろうか?
あれば、動力船で鉄鉱石を運んでくるのもありだろう。
まあ、ない場合には魔導列車を作ってしまうのもありといえばありだ。
川の流れに関係なく地上を移動できて積載量もそれなりに確保できる列車も、動力としてこの魔道具を使えるからだ。
そうだな。
船でも列車でもどちらでも魔道具をきちんと使えるように、規格の統一だけはガリウスにお願いしておくのもありかもしれない。
こうして、バルカ製鉄所ではここで製作したバルカ鋼の最初の活用法として鉄の船を作ることとなったのだった。
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