精霊石の活用方針
「ぶっちゃけ、一番欲しいのって飛行技術なんだけどな。あれって、アルス兄さんが禁止しているんだっけ?」
「そのとおりです。天空王国の鎖国を維持するためにも、最低限の防衛力は必要であるとされて、航空戦力を保持されています。また、その戦闘能力と技術が他国に漏れないように、天空王国以外が航空戦力を持つ場合、それの排除も辞さないと宣言されておられます」
精霊石を手に入れてなにをつくるか。
そう考える以前から思っていたことがある。
それは、空を飛ぶ道具がほしいというものだ。
これは、精霊石ではなく炎鉱石を手に入れたというのも大きい。
炎鉱石は魔力に反応して炎を出すことができる。
それを利用すれば、気球や飛行船が作れるのだ。
だが、俺はそれを作っていない。
なぜなら、もしも空を飛ぶ道具を作ったら、それを壊しにくるものがいるからだ。
フォンターナ連合王国ではすでに何件もそういうことがあったらしい。
炎が空気を膨張させて、それによって空に浮くというのは、なにも炎鉱石がなければできないというわけではない。
大量の油を用意すれば、効率は悪いけれど、空に浮かぶことはできた。
だが、それはアルス兄さんが許さなかったのだ。
空を飛ぶ存在を感知すると、すかさず天空王国から航空戦力がやってくるのだという。
というか、それは四枚羽だ。
普段は気象情報や地形情報などを観測するために、飛んでいる四枚羽。
これは、独立する四つのプロペラという羽がそれぞれに回転することで空を飛ぶ。
が、この四枚羽はただ飛ぶだけじゃなくて魔銃も装備されている。
気球や飛行船を作ろうとして、実際にそれが空に浮いたのを観測された瞬間に、颯爽と現れた四枚羽がハチの巣のように穴を開けて撃墜してしまう。
アルス兄さんはバルカニアなどを空に浮かべて天空王国を作り出し、そして鎖国した。
それ以降はフォンターナ連合王国の役職にもつかず、独自の王として自由に生きている。
が、その自由はなんだかんだで圧倒的な力で守っているのだ。
それが、バルカニアの誇る航空戦力だというわけだ。
ちなみに、四枚羽で対処できない場合には魔導飛行船に魔装兵器や小型魔装兵器が搭載されて派遣されることにもなっているらしい。
絶対に空に上にある自国に到達する者を生み出さないという強い意志を感じる。
そして、それは俺に対しても同じだ。
距離的にバルカニアとはものすごい離れているから、東方で空を飛ぶ道具を作ってもいいんじゃないかと思ったが、どうも撃墜対象の地域に含まれているらしい。
というわけで、俺は飛行船の類を作ることはしていない。
もし、作るのならその迎撃に対応できる用意なしには損害ばかりが出るからしょうがない。
この世の制空権は全てアルス兄さんに握られているといっても過言ではないだろう。
「空が使えないということになると、ほかの活用法としてはやっぱり魔装兵器かな?」
ただなあ。
あんまり面白い選択ではないと思う。
魔装兵器は作れるが、きっとブリリア魔導国の保有量を越えることはできないだろう。
あっちはすでに大量に精霊石を確保しているはずだしな。
対抗するために持っておくという意味では効果はありそうだけど、ブリリア魔導国がもっていない物のほうがいいような気もする。
「やっぱ、移動手段が充実していたほうがいいよね?」
「そうですね。戦いが発生した場合、戦力の大小とともに、補給能力の有無も重要になります。輸送力のある移動手段を用意しておくのは悪くない選択だと思います」
「なら、精霊石で作るのは動力機構だな。【線路敷設】の魔法があっても、今まで活用できていなかったけど、いよいよ列車でも作ろうか?」
「動力機構を作るのでしたら、水上の移動を検討にいれてもいいかもしれません。とくに小国家群は川が多いですから、水の上を速い速度で移動できるというのは、ほかの国にはない優位性を生み出すことにつながるでしょう」
「水上移動? そんなのできるの?」
「可能です。そもそも、魔導飛行船も四枚羽も、プロペラという羽を回して推進力を得ています。それを水中で用いるだけですので、多少の修正で実用化できるでしょう」
「なるほど。面白そうだね。前にグルー川を下ってグルーガリアに攻め込んで、帰りは地上で移動したってことがあったからな。あれはめんどくさかったけど、そういうのが無くなるってことか」
いいかもしれない。
というか、魔導列車よりもそっちを優先して作ってしまおうか。
列車は線路上しか走れないから、線路をつぶされたら立往生してしまう危険性があるし。
川の上を走る船が作れるなら、そういう心配はなさそうだし、動力機構は結局回転を利用しているから、いざとなればあとから列車用にも転用できるだろうしね。
よし、そうと決まれば話は早い。
船用に精霊石と魔法陣を用いた動力を作っていくことにしよう。
こうして、精霊石の活用法についての方向を固めた俺は、さっそくそれにとりかかることにしたのだった。
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