アイの進言
アトモスの里で手に入れた精霊石。
これは、基本的には魔石だ。
が、【魔石生成】という魔法で作れる魔石と違って、土の属性のようなものがある。
これを利用して、ブリリア魔導国は魔装兵器を作り上げた。
魔法陣を描くことで、魔力を通すとその魔力の持ち主の意思で動く岩の巨人を作り出す恐るべき技術だ。
そして、それを解析して新たなものを作り出したのが、アルス兄さんとカイル兄さんの二人だ。
二人で魔法陣技術を解析し、それをさらにアイという人格を作り出して、そのアイによって人型を操作させるというものだ。
こちらは魔装兵器ほどの単純な戦闘力はないが、アイは膨大な知識を記録して精査することができるのでいろんな仕事を任せられる。
しかも、見た目は完全に人間に見えるし、きれいだ。
そのアイを俺も作りたかったのだが、どうやら同じようにというわけにはいかないらしい。
精霊石だけでは、人型を人間にすることはできないのだ。
そのための材料も、バルカラインにある転移魔法陣を使って、どこにあるかもわからないような遠い距離にある海とジャングルの場所まで行かないと手に入らないということで、東方では難しいだろう。
となると、髪や皮膚なしでアイをつくるかどうかだ。
機能的には問題ないと思う。
別に髪や皮膚がなくても、アイはアイだからだ。
カイザーヴァルキリーの頭の中にいる本体であるアイが操作する以上、その知識は同じだし、声を発生するのは精霊石から生み出す石を振動させる機構で可能だからだ。
「アルフォンス様に進言いたします。もし、新たに端末を作るのであればあまり外見を人に似せるのはやめておくほうが良いかもしれません」
「それって、皮膚なしでアイの見た目とおなじ体は駄目ってこと?」
「駄目というわけではありませんが、推奨いたしません。人は他人を見て相手の印象を判断していると言われていますが、人にそっくりすぎる人型を見た場合、嫌悪感を抱くことがあるのです。アルス様は不気味の谷現象と呼んでおられました」
「不気味の谷か。どういう意味なんだろう?」
「人型の見た目が人間にある程度近づき、動きも似てくると、それを見た者は最初親近感が湧くのです。ですが、さらに人に近づくと嫌悪感を抱き、最終的に見分けがつかなくなるほどになれば、ふたたび親近感を得る、というものですね。それを曲線化すると、まるで谷のように浮き沈みがあるということで、不気味の谷現象と名付けられました」
「へー。もしかして、最初にアイを作ったときにそういうことがあったのかな?」
「はい。ですので、髪や皮膚が再現できない場合には見た目を変えることをお勧めいたします」
なるほど。
どうやら、思った以上にアルス兄さんは研究してアイを作ったみたいだ。
そうか。
だから、アイとは違う人型もあとから作るようになったんだな。
俺が最後に天空城に入ったときには、警備兵として鎧姿の小型魔装兵器がいたはずだ。
鎧姿だと、嫌悪感を抱きにくいというのもあるのかもしれない。
「ってことは、こっちも鎧姿のアイの端末を作るほうがいいのかな?」
アイのいう不気味の谷が発生した体は、多分教師役にはなれないだろう。
不気味な動く人形に教えを受けても、身につかないかもしれないからだ。
だったら、鎧姿にするべきかと思ったが、それもどうだろうか。
警備兵ならいいけど、教師役に適しているかというとそうとは言えなさそうだな。
「差し出がましいようですが、私の意見を言わせていただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろん。アイの考えを聞かせて」
「アルフォンス様は私の端末を増やして学校の教師を作るようですが、それは教師全員が私ではなくともよいかと思います。むしろ、ほかの人を採用するほうがよいでしょう」
「まあ、そうかもしれないけど、アイが教えてくれたほうが多分覚えは早いよ? 孤児連中をあそこまでに教育できたのって、アイのおかげだと思うし」
「ですが、問題もあります。私の知る知識は限られた一部でしかなく、まだまだ足りません。また、私の教え方だけでは多様性がなく、今後生徒たちが皆同じような考え方ばかりになる可能性があります」
「……それって駄目なの? 別にいいんじゃない? っていうか、アイの知識量はとんでもないと思うけど」
「いいえ。まだまだです。それに多様性は必要です。私の知識はあくまでも賢人の方々から持ち寄られた情報をもとにしており、今も情報は追加・更新されつづけています。新たな知識や視点での考え方というのは貴重であり、それを狭めるよりは広げるほうが良いかと思います」
「そんなもんかな? まあ、それならそれでもいいんだけどさ。信頼できる教師役を集めるのは大変そうだけど。でも、その場合、精霊石はなにに使おうか? なにかいい使い道はないかな?」
「いろいろと活用法はありますよ。ただし、作れないものもありますが」
とりあえず、アイの数を増やすのは保留かな?
教員のことはあとから考えよう。
でも、そうなると精霊石をどう活用するかだ。
問題は数に限りがあること。
倉庫いっぱい分の数は確保できたけど、いってみればそれだけだ。
ブリリア魔導国の駐留軍を全滅させた超巨大土喰のおかげで、次に精霊石を手に入れられる保証はない。
一番最初に考えたのは、魔装兵器をこちらも作ることだった。
だが、あれは確か精霊石の大きさもそれなりに必要だったはずだ。
ブリリア魔導国は大きめの精霊石は魔装兵器に、小さいものは岩弩杖にしたって話だったし、確保できた量の中でも魔装兵器が作れる精霊石があるかどうかはきちんと確認しないといけないだろう。
が、それ以外にも魔法陣と精霊石の活用法はいろいろあるらしい。
どういうものを作れるか、アイの話を聞いて検討していくことにしたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。





