アトモスの里その後と精霊石の使い道
「え、今なんて言ったの、アイ?」
アトモスの里に向かい、目的を達成した俺はすぐに新バルカ街へと戻ってきた。
俺とともに精霊石の回収作戦に同行していた者たちは全員ヴァルキリーに騎乗しての行動だったので、バリアント経由でもそれなりに短い期間で新バルカ街へと戻ってこられた。
だが、そのわずかな期間で大きな動きがあったようだ。
帰宅した俺にアイが告げた言葉が信じられなくて、思わず聞き直してしまった。
「アトモスの里におけるブリリア魔導国の駐留軍が壊滅しています」
「どういうこと? 壊滅ってなんでだ? どっかの国が攻撃を仕掛けたのかな?」
「いえ。魔物によるものであると思います。こちらが確認できた四枚羽による観測情報では、土喰という魔物に荒らされている映像が記録されました」
「うん? 土喰に? あれって俺も遭遇したけどさ。確かに大きくて厄介そうな相手だけど、あのブリリア魔導国の貴族がいる状態で軍が壊滅するのかな? 俺が会った相手はかなりの魔力を持っていたけど」
「記録された情報だけでは分かりませんが、異常に体の大きな個体が出現したようです。アトモスの里の大渓谷にみられるほかの個体とは別格の大きさの土喰には勝てなかったのかもしれません」
「ふーん。ってことは、運がよかったんだろうな、俺は。もし俺がそんなのと遭遇していたら、さすがにやばかっただろうし」
どうやら、とんでもない化け物が現れたようだ。
アイから聞いた話で推測すると、俺が遭遇したものよりも数倍は大きい土喰が出てきたらしい。
それに対して駐留軍が戦い、そして負けてしまったようで、今は駐留軍が建てたりしていた兵舎なども破壊されているようだ。
アイがこうして天空から見た情報を教えてくれることは実は珍しい。
空を飛ぶ四枚羽の動きは、別に俺のためには動いてくれていないからだ。
あれはあくまでも天気予報や、未知の地形の捜査などを空からやるためで、基本的にはアルス兄さんの趣味でもある。
今回、アトモスの里の上空を回って、地上の情報を得たのは偶然だったのだろう。
だが、まさか自分が行って帰った直後にそんなことになっているとは思いもしなかったな。
アトモスの里はどうなるんだろうか?
どうも、その超巨大な土喰は人間に敵対心を持っているのか、人も襲えば、人工物の建物も攻撃しているらしい。
そのくせ、アトモスの里からは出てきてはいないみたいだ。
あくまでも、あの土地が住処であるというのは変わらないのだろう。
それに対するブリリア魔導国の対応は確認しておくほうがいいだろうな。
アトモスの里を占領している軍が壊滅したとなれば、おそらくは代わりの軍を出すはずだ。
だが、それがその超巨大な土喰を排除できるのかが問題になるだろう。
もしも、速やかに排除できるのであれば、新たな軍が配置されることになると思う。
が、それができなかったときに、どうするかが分からない。
すでに精霊石が採れなくなったと思われる土地に、戦力と人と金と食料を僻地に送り込み続けるのかどうか。
もしかすると、あの地を放棄することにはならないだろうか?
もしも放棄されたとしたら、俺があそこを抑えることはできるかな?
難しいな。
多分、ブリリア魔導国が放棄を決めるほどならば、そうとうな強さをその土喰は持っていることになる。
倒せるかどうかが分からないし、もしも倒せたとしても、それを確認次第、すぐにブリリア魔導国が新たな軍を送り込むだろう。
そうなったら、俺は土喰を倒しただけで土地を奪い取られてしまうことにもなりかねない。
漁夫の利は無理っぽいかな。
まあ、万が一もあるし、バナージにはそれとなく伝えておこう。
アトモスの里での異常がどのくらいの速さでブリリア魔導国の本国に伝わるかは分からないが、うまく向こうの情報を集めて活用してくれるように祈ろう。
できれば、俺としては土喰被害で土地を放棄でもしてくれたときに、その土地の所有権を手に入れられればいいんだけど。
結婚祝いに土地をもらったりできないだろうか?
「ま、それはいいや。それより、精霊石を手に入れてきたからアイの数を増やしたいんだけど」
「それは無理でしょう」
「え? なんで? アイって精霊石に魔法陣を描いて体を作るんでしょ? しかも、その魔法陣ってアイも知っているはずじゃ?」
「はい。天空王国では私自身が作成もしているので、もちろん知っています。ですが、ここで私の同型を作ることは不可能です」
「だからなんで?」
「皮膚や髪を再現できません。石の体を作ることはできても、人の皮膚と似た見た目や質感を出すスキンは材料がありませんので作れません。動く彫刻のような形にしかならないということです」
まじか。
っていうか、そう言われたらそうだった。
アイは人の目を引き付ける存在だ。
だけど、多分髪の毛や皮膚がなければ印象は大きく変わると思う。
少なくとも、オリエント国で議長はできないはずだ。
あれはあくまでもアイが人間として市民権を得られたからこそ、選挙にも出られたんだし。
だが、そうなるとどうしようか。
別に当初の目的どおり、皮膚なしで作ってもいいとは思う。
あくまでも、学校で教えるという目的であれば、動けさえすればいいのだから。
だけど、人に見えるかそうではないかで、教わる側の気持ちは違ってくるかもしれない。
実際にやれば案外慣れたりするものなんだろうか?
アイを作るために手に入れた精霊石だけど、思わぬ落とし穴があった。
そのことを指摘され、今になってどうするか悩むことになってしまったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。





