煉獄の炎の使い手
「ここか……。報告で聞いてはいたが、思ったよりも離れていたな」
天空王たちが帰還したという報告を受けて、こちらも動き出した。
一度見張りをすべて消されていたことからも、なにかがあるのは間違いない。
しっかりと準備を整えての調査だ。
万が一のことも考えて、この地にいる俺や俺に次ぐ実力のある者たちにも同行させている。
これならばなにかがあっても対処できる。
そんな準備万端の状態で、先導されて移動してきた先は、我らの拠点からはかなりの距離があった。
今、我々が主にいる場所は、かつてこのアトモス領が蛮族の巨人たちに占領されていた時代の中心地でもあった場所だ。
自分の目では見ていないが、そこにはかつて、超巨大な精霊石が存在したのだという。
見上げるのも、周囲を回るのも規格外なほどに大きな精霊石。
蛮族の巨人どもはそれを大地の精霊が宿りし偉大なる石などと呼んでいたそうだ。
その巨大精霊石には間違いなくとてつもない力が備わっていた。
というのも、蛮族の巨人たちの言い伝えではその巨大精霊石にたいして特定の手順を踏んだ儀式を行うことで巨人化できる力を得ていたというものがあるからだ。
そして、実際にその力でさまざまな土地で傭兵などとして活動していたことは知られている。
その巨大精霊石はそれほどの尋常ではない力を秘めていたのだ。
だが、それはある日突然なくなったのだという。
あまりに巨大すぎて、我が国でも持ち帰るのは不可能とされていたのにだ。
こちらはそのかけらをとりだして本国に送り、改めて専門家でも連れてきて実物を調べようと計画を建てていた段階でのことだったという。
そして、今もその巨大精霊石は行方知れずだ。
しかし、それが確実に存在したのは間違いないのだという。
なぜならば、多くの者たちがその目でしかと見ているのだから。
だからこそ、だ。
精霊石が手に入らなくなったと言っても、この地を放棄したりはできないのは。
ここで再び巨大精霊石が発見されることを期待している者が相当数いるのだから。
けれど、ないものはない。
どこを探しても見つからない。
が、もし探すとすればもともとその巨大精霊石があった場所だろうということで、そこに拠点をかまえて兵舎までたてたのだが、違ったのだろうか?
その地からこれほど距離が離れた場所に天空王たちが迷いなく一直線に来たのは、意外としか言いようがなかった。
やはり、すでになんらかの方法で精霊石の位置を特定する術があるのだろうか。
もし、そうなら、それを知りたいところだが。
そう思いながら、渓谷にできた谷間をいくつか越えていき、報告の場所へとたどり着いた。
「なるほど。確かに土喰が現れた形跡があるな。壁に穴が開いている」
「はい。それと地面にも穴があります。積雪によって気づかずに転落する可能性があるのでお気を付けください」
「分かっている。で、土喰の作った穴とは別になにか見つかっているのか? 精霊石を探るための道具なども落ちていなかったか調べてるだろうな?」
「はい。それがどうもおかしいのです。ここに残されたものといえば、食事の跡や薪の燃えカスくらいでして。どうも、地質調査をしたような形跡がありませんでした」
「確かか? 本当にないか、もう一度しっかりと調べてみる必要があるな。たとえば、どこかの岩に杭を差し込んだ跡があるかもしれない。どんな手掛かりでもいいから、すべての可能性を探って洗い出してみるんだ」
俺の言葉を受けて、一瞬周囲の者たちの顔が歪んだ。
まあ、気持ちはわからんでもない。
杭の跡など、雪の下で埋まってしまっていて見えるものではないからな。
足元の雪をすべて雪かきしてから痕跡を探すとなると、あまりに大変すぎる。
ふむ。
ならば、ここで我が力をもって士気向上といこうか。
「安心しろ。雪ならば我が力で溶かしてみせよう」
手のひらに神経を集中させる。
体の奥底から力を引き出し、それを手のひらから湧き出させ、現出するは煉獄の炎。
この俺の手から高熱の炎が吹き出し、周囲を熱波が襲う。
もちろん、制御はしているから、自身が率いる兵たちに影響はない。
その炎は正しくこの地の雪のみを溶かしてしまった。
「お見事です、統括」
「なに。さほどのことでもないさ。さ、これで作業がしやすくなっただろう。あとは詳しい再調査だ。すぐに開始してくれ」
「了解しました」
周囲一帯を煉獄の炎にて燃やし尽くすことができる我が力。
この力と高い魔力量があるからこそ、俺はかつて王族自らが来ていたこの地を任されるに至ったのだ。
この力を見たことがある者は、改めてそのすごさを、初めて見た者は畏怖の念を持つことだろう。
天空王がなにほどのものかは知らんが、歴史あるブリリア魔導国でも俺ほどに炎の魔術に精通した者はいない。
やつがここでしたなにかを調べつくして、そのすべてを俺がもらい受ける。
そう思ったときだった。
地面から強い揺れを感じた。
そして、次の瞬間、そいつは現れた。
地面から現れた大きな体。
大きくて長く、そして力強さを持つ体。
しかも、その口には幾本もの鋭い牙が並んでいる。
土喰だ。
だが、あきらかに普通の土喰ではない。
体には無数の傷がある歴戦のつわものという印象すら受けるその土喰は、明らかに今まで俺が目にしたほかの個体とは大きさが違いすぎた。
どういうことだ?
ここまででかい土喰など見たことがない。
それはまるで、かつてあった巨大精霊石すらも丸のみにできそうなほどの超巨大な肉体を持つ異常種だった。
それが、地面から唐突に現れ、そして俺のほうへと向かってきたのだった。
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