商人の格付け
「おっさん、マドックさん、商人たちの格付けはこれで全部かな?」
「ああ、これで全部のはずだ。ようやく終わったぜ」
「本当に大変だったのう。お主もよくこんな面倒くさいことに引き込んでくれたものじゃ」
「マドックさんも付き合ってくれて助かったよ。おかげで変な商人たちは除外できたし」
「ふふ、そういうのであればうまいもんでも食わせてくれるとありがたいのう」
クラリスとグランの言い争いから始まったバルカ城の調度品の再選定だが、俺はそれをひとつのイベントにしてしまった。
城に合う調度品を商人たちに集めさせるために、持ち寄った商品から商人たちの審美眼、及び実力を格付けするというものだった。
これが思いもよらぬ反響をよんだのだ。
原因は俺が作ったバルカ城のミニチュア模型だったりする。
俺にしてみればミニチュアといえば玩具にカテゴリーしてしまうものだが、現実はそうではなかったらしい。
カイルやクラリスも驚いていたが、やはり実物の城を縮小したような精巧な模型というのは非常に珍しかったのだ。
しかも、そこには見たことのない様式のステンドグラスというガラスがはめ込まれている。
そのミニチュア模型を見た人はこう思ったのだろう。
こんな城を造った騎士というのはさぞかし金払いがいいだろう、と。
そうして、フォンターナ領以外の土地からも続々と商品が集まってきたのだ。
我こそはという自慢の逸品を持った商人たちの手によって。
おかげでバルカ城に用いる調度品はいいものが揃ったとクラリスも満足顔だったが、実際に大変だったのはその後のことだった。
クラリスとグランのお眼鏡に適う品を持ってきた商人はその実力を認めて格付けするという作業が必要だったのだ。
俺はこの格付けを行商人として各地の商人のことをいろいろと知っているおっさんと木こりであるマドックさんとも一緒に行うことにした。
なぜマドックさんがいるのかというと、格付けにもう一つチェック項目を追加したからだった。
それはマドックさんの今の主な仕事、裁判官という立場を通して商人をチェックするというものだった。
バルカ以外の土地では各土地や各物品ごとにいろんなギルドという商人の集まりが管理している。
俺はこのギルドを既得権益のかたまりだと判断し、その影響力をなくして自由にものの売買が行われるようにと考え、ここバルカでは自由市を開くことに決めた。
これはバルカの領民が物々交換という取引方法を脱却して、お金による経済感覚を身に着けてほしいと思ってのことだ。
だが、実際のところ、ギルドは悪ではない。
俺にとってデメリットが大きく映る存在ではあったが、メリットもあった。
それは商人たちに一定の基準が作られたという点にある。
ものを売り買いするというのは単純ではあるが、それゆえに騙しやすい。
お金を儲けるということだけを考えると、人を騙して金を巻き上げるほうが手っ取り早く儲かるのだ。
本来は安いものをさも高級品であるかのように高額な金額で売り払う。
あるいは、貴重なものであるにもかかわらず価値の無いものだと言って安く買い取ってしまう。
もしくは、本来の性能を満たさない不良品を不良品とわかって売ってしまう。
その他、いろいろな不正行為が存在する。
自由市にするとそういう不正行為をする人間は一定程度出てきてしまうのだ。
さらに言えば、自由市といえど売ってはいけないものもある。
人や土地に悪影響を与えるものなどを扱ってはいけないと決めているのだ。
もし、そのような規制が一切なしで完全な自由市を開けば、バルカ騎士領はあっという間に暗黒街と化してしまっていただろう。
要するに商人の格付けチェックには審美眼の有無と、商品の質そのものと、これまでの不正行為などの有無を項目としたのだった。
裁判官として働いてもらっているマドックさんはこの不正の情報についてを集めてもらい、今回の格付けチェックを手伝ってもらったということになる。
「じゃあ、3つの項目すべてを満たした商人を3つ星、2つなら2つ星、1つなら1つ星として貼り出そう。あと、今回の購買イベントで不正したやつらは全員留置所送りでよろしく」
「なるほど。星の数で格付けを出すのか。それならひと目で分かるな。どうせなら店先でもその星の数がわかるようなものを坊主から進呈するっていうのはどうだ?」
「ああ、そうしようか。ついでに格付けの順位で自由市での出店場所も変えるようにしてみようか。優良店は一箇所に集めておいたほうがいいだろ」
「それだと3つ星商人の影響力が大きくなりすぎるのではないかのう。お主はそういうのを嫌がるのではないのか?」
「あー、そうだな。ギルドがないのに3つ星商人がでかい顔してたら意味ないかもな。なら格付けは定期的にチェックするようにしたほうがいいかもな」
こうして、これまで玉石混交といった様相を呈していたバルカ騎士領の自由市はある程度の質が保たれた商品が集まる場所へと変わっていったのだった。
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