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好物

「ただいま。今戻った」


「あ、お帰り、イアン。どこ行ってたんだ?」


「ちょっとな。それより、どうしたんだ? 土喰が出たのか?」


「まあね。あれ、すっごいでかいね。戦ったけど逃げられちゃったよ」


 俺と戦った土喰が地面の中に逃げてから、しばらく時間が経った。

 ふたたび出てこないだろうかとその後も警戒していたが、どうもそのまま逃げたようだ。

 ラッセンが掘った縦穴の近くで交代で見張りつつ、体を休めているとイアンが戻ってきた。


 ちょっと野暮用だといって、離れて行動していたイアン。

 故郷に帰ってきたということもあり、思うことがあるのだろう。

 しばらくは一人にさせていたので、どこに行っていたかは知らない。

 が、用事が済んだのかこちらに戻ってきたら、俺たちの周囲に穴が増えていたので事情を察したのだろう。

 すぐに土喰だと分かったようだ。


「逃げた? 傷を負った土喰が戻ってこないのか」


「え、うん。そうだけど、なにかおかしいのか?」


「……いや、それならいい。たまに傷を負った土喰は執念深さを見せるときがある。隙あらば地面の下から襲ってくることもあるから、戦うならば仕留めるのが鉄則だ」


「おいおい。そんなこと聞いてないぞ」


「そうだったか? 言ってなかったかもしれんな。まあ、また来た時はしっかりと仕留めればそれでいいさ」


 この地に魔物がいると聞いたときに軽く説明してもらっていたが、どうやら俺の知らない生態が土喰にはあったようだ。

 結構相手に焼き傷をつけたから、もしかしたら恨まれているかもしれないな。

 仕返しにやってくるのだろうか?

 見た目的にはそんなに執念深さを見せるような知性を持っているように思わなかったので、イアンの言うことが本当だろうかと思いつつ、周囲への警戒を続けることにした。


「っていうか、あれをほんとに食っていたのか? うまいの?」


「土喰の肉か? あれは、仕留めた後に天日で干してやるとうまみが凝縮する。きちんと処理した後に、汁物に入れて料理したものは結構いけるぞ」


「へえ、そうなんだ。見た目とは違って案外おいしいんだな。ちょっと予想外だ」


「そこらの肉食の獣の肉を食うよりは断然うまいぞ。倒したら俺が一品作ってやろう」


「お、いいね。それは楽しみだな」


 魔物の肉のうまさについて、イアンと話し合う。

 土喰は意外といけるらしい。

 外観だけから、たくさんの肉が手に入るから重宝されていたのだろうと思っていて、その分味は期待できなさそうだと考えていたがそうでもないらしい。

 しかし、天日干しか。

 あの巨体をうまみが凝縮させられるくらい干すって、どのくらいの時間がかかるんだろう。

 ここに滞在できる期間は短いから、その間には間に合わないんじゃないだろうかとは思った。


「あの、ちょっといいですか、イアン殿?」


「なんだ?」


「その……、土喰という魔物について私からもお聞きしたいのですが、もしかしてあの魔物も魔石を食べたりするのですか?」


「ああ。土喰は大地の精霊が宿りし石を食べているはずだ」


「え? ちょっと待て、イアン。それ聞いてない。どういうことだ?」


「どういうこともなにも、土喰は土を食いながら地面を移動する。その時に、この地にある大地の精霊が宿りし石も自然に食べることになるだろう。なにせ、あいつは体もでかいが、口もでかいからな」


 イアンの奴、説明がなさすぎる。

 まあ、もともと傭兵であって戦うだけの戦士だからな。

 魔物について聞いたときに、食性まで説明しろってのは無理なのかもしれない。

 が、精霊石を食べるというのは知らなかった。

 言われてみれば、そういうこともあるかもしれないが、初めて聞かされて驚いてしまう。


「ちょっと確認だ、イアン。土喰は土と一緒に精霊石も食べる。その場合、精霊石は土喰たちにとって好物に当たるのか? たとえば、精霊石が多い場所に土喰はよく集まってきていたとか、そういうことってあるのかな?」


「さあな。詳しいことは知らん。が、アトモスの里に出る土喰はほかの土地では見かけない。ということは、奴らにとって大地の精霊が宿りし石は好物だからこそ、この地に住み着いているかもしれんな」


 なるほど。

 迷宮には魔物が潜む。

 しかし、これは別に迷宮核が魔物を作り出しているというわけではない。

 まあ、例外として魔導迷宮は魔装兵という魔物を核が生み出していたみたいだけど、あれは人工的なものらしいしな。

 とにかく、魔物が迷宮にいるときは、たいてい迷宮核の魔力などに引き寄せられて住み着くみたいだ。


 そういう意味では確かに土喰はこの地を好んでいたのだと思う。

 アトモスフィアという迷宮核があった、このアトモスの里を。

 だが、今は迷宮核は存在しない。

 そして、残った魔石もブリリア魔導国が採りつくしてしまった。


「ラッセン殿。もしかして?」


「……どうもそのようです、バルカ殿。今、魔力で地中を探査しました。さっきの土喰の気配が地面を進んで地中深くへと向かっています。おそらくは、この縦穴の底にある魔石の気配か何かを感じ取ったのではないでしょうか?」


「やっぱりですか。精霊石を食べると傷でも治ったりするのかな? とにかく、深さ千メートルにある精霊石の鉱脈に土喰が向かっていっているってことですよね、それって」


「そうだと思います。せっかくの鉱脈が食べられてしまうかもしれません」


 うーむ。

 やはりそうか。

 ラッセンが穴を掘って掘り当てた精霊石の気配を感じて、俺たちの前に土喰は現れたのかもしれない。

 そこで手傷を負わされて逃げた。

 が、タダでは逃げなかったに違いない。

 ラッセンの堀った縦穴に沿うようにして、土喰も真下に向かっていっているみたいだ。


 ノルンが無事に帰ってくることを祈ろう。

 魔法鞄ごとあの魔物の大きな口で食べられて消化されてしまわないように、俺は神頼みをすることとなったのだった。

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