盗掘許可
「盗掘許可、ですか?」
「そうです。俺たちは精霊石を手に入れるためにここまで来ました。事前にその入手についてはブリリア魔導国側から許可を得ていません。しかも、現地には警備の兵が常駐している。そこで盗掘許可を得るのですよ」
「……なるほど。もはや枯れたと思われている迷宮での魔石の確保。しかも、少人数で向かうのはいったいなぜかと思っていましたが、そんなことを考えていたのですね。ようやく理解できました。私たちがいなければ効果の薄い方法というわけですね」
バリアントの街に到着した俺たち。
スーラが俺と一緒にこの地を出た後に、このバリアントを任されていた者に会った。
かなり暮らしやすい場所になっているバリアントだが、やはりここに住む若者たちはこの地を出て俺がいるオリエント国に出てきたい者が多いみたいだ。
ぜひオリエント国で受け入れてくれないかと陳情を受けたりした。
そんなふうに歓迎されて、食事をし、用事を済ませた後に部屋で休憩する。
その際に、今後の予定についてをラッセンへと説明した。
ここに来るまでは、大丈夫だ、任せろというばかりできちんとした説明をしていなかったのだ。
改めてどうするつもりなのかを言うと、ある程度納得できたのか、それまでの不安そうな感じが鳴りを潜めた。
俺はここに来るまでにバナージなどを通して、魔導国にたいして精霊石を手に入れる許可などは取っていなかった。
それは、精霊石があまりにも重要な戦略物質だからだ。
当たり前だろう。
なにせ、精霊石を手に入れたブリリア魔導国は岩弩杖という岩を飛ばす遠距離攻撃型魔道具のみならず、魔装兵器を作り出したのだから。
アトモスの戦士を相手に故郷を奪い取るほどの力をもつ岩の巨人の魔道具。
それを作り出せる精霊石を他国の人間が手に入れる許可なんか出すはずがないのは分かっていたからだ。
なので、許可を取ることなく盗掘する前提でここまで来たが、ここにきて最初にすることは許可を得るという行為だった。
これは別に矛盾しているわけではない。
今から手に入れる許可はブリリア魔導国に対してではなく、現場を監督している者に対してだ。
アトモスの里は魔導国からは離れた飛び地状態だ。
そして、そこには今も兵が駐屯している。
が、土地そのものは不毛で、何もない。
食料もなければ娯楽もないところなのだ。
そんなところに、本国から切り離された軍が何年も居続けている。
そういう場所にはきっと不真面目さがみられるだろうと考えたのだ。
本来ならば徹底しなければいけない監視任務だが、寒い中をだれがいつ来るかもわからない状態でずっと見張るのはつらいものだろう。
そこで、相手にそっとささやくのだ。
今から俺たちがすることは見逃してくれたら報酬を出すよ、と。
ようするに買収だな。
こっちは銀貨を集めた際にブリリア魔導国の硬貨も手に入れている。
それがあれば、いくらか包めば見逃してくれるだろう。
もちろん、相手にしてもあまりに無茶なことはできない。
たとえば、軍のような大軍が押し寄せてきて、発掘作業をするのを見逃せと言われてもそれは無理だろう。
そんなことをしたのがばれたら、責任問題になるからだ。
なので、見逃すには条件があった。
それは少人数で、期間が定められているというものだ。
ようするに、アトモスの里に来て盗掘するのを見逃してもいいが、それには限られた人数だけで、しかも時間的制約があるということだ。
これならば、警備している軍もあまり気にしないのだろう。
迷宮が枯れたと言われるほどに採りつくしてしまった状況なのだ。
偶然にも落ちている精霊石を見つける確率は低い。
さらに、その状態で地中にある精霊石を発見できる確率はさらに下がるし、鉱脈を見つけるのはもっと無理だ。
しかも、たとえ見つけたとしても採掘するには人手も時間も足りなさすぎる。
ようするに、相手からすれば絶対に損をしないやり取りなのだろう。
事実、そういう申し出はすでに何度かあったらしい。
そして、それを受けたことはあるみたいで、けれど精霊石を持ち出されたことはないようだ。
なので、バリアントの伝手で連絡を取ったブリリア魔導国の軍人は俺が渡した手付金を嬉しそうに懐にしまい、許可を取るためにといってアトモスの里に戻っていった。
残った別の兵と一緒に数日間をおいて向こうに向かえば、一定期間の盗掘を見て見ぬふりしてもらえることだろう。
普通ならばそれでも相手に損はないはずだった。
だが、今回は相手が悪い。
なにせ、こちらには地中の探索ができるラッセンがいるのだから。
ラッセンならば魔力があれば地面の中を目で見るよりもはるかに高い精度で見通せる。
そして、発見した精霊石を掘り起こすことも可能だ。
しかも、俺は魔法鞄があるからな。
本来ならば少人数では持てる量に限りあるはずが、魔法鞄があれば見た目からは想像がつかないほど大量の精霊石を持ち出せる。
なので、小金稼ぎで見逃すつもりが、大損になることだろう。
まあ、もっともそれはうまく地中の精霊石が見つかればの話だけれど。
実際には地面の下にどの程度の精霊石が残っているのかなんて誰にも分からないしな。
行ってみてのお楽しみというわけだ。
こうして、バリアントで盗掘許可を得た俺たちは、少人数でアトモスの里へと向かったのだった。
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