枯れた迷宮
「枯れた迷宮、か。今のアトモスの里ってそんな感じになっているんだな」
アイの体を作るためにも必要な精霊石。
それが手に入るのはイアンの故郷でもあるアトモスの里だ。
今のアトモスの里はどうなっているのか。
それをブリリア魔導国にいるバナージに調べてもらったところ、枯れた迷宮、という言葉が出てきた。
「なんだそれは? アトモスの里はどうなっているんだ、アルフォンス?」
「バナージ殿が調べた限りでは、どうも精霊石を採りつくしたみたいだよ、イアン。枯れた迷宮だってことでブリリア魔導国内では認識されているらしい」
「忌々しい連中だ。あの地にあった大地の精霊が宿りし石を全て採ってしまったというのか。強欲極まれりだな」
「ま、迷宮核に相当するアトモスフィアをアルス兄さんが持っていったってのが一番大きな原因なんだろうけどね。それでも、精霊石を採りつくすってのは凄いことだけど」
東方にはいくつか迷宮が存在する。
迷宮には基本的に迷宮核と呼ばれるものがあり、その迷宮核から漏れ出る魔力によって、迷宮内は高い魔力量で満たされていることが多い。
そして、その迷宮核の影響で、迷宮内では魔石が採掘できるというのが一般的な認識だ。
大昔は東方にある迷宮には魔力に引き寄せられた魔物が住んでいたりもしたそうだが、それも今では大多数が絶滅するまで狩りつくされて魔物の姿を見る機会はほとんどない。
そのため、東方で名が通っている迷宮というのは魔石が取れる場所を指すことがほとんどだ。
だが、魔石がいつまでもとれるという保障はない。
何らかの理由によって魔石が手に入らなくなってしまう迷宮というのがあった。
それを枯れた迷宮と呼ぶのだそうだ。
今のアトモスの里はその枯れた迷宮なのだという。
精霊石が手に入る場所としてアトモスの戦士が住んでいた土地をブリリア魔導国が手に入れた。
そして、その精霊石を手に入れて、魔道具などを作り上げた。
が、その後にアトモスの里からは迷宮核であるアトモスフィアが持ち出されてしまった。
その結果、アトモスの里では新しい魔石が発生することはなく、残された魔石を取りつくしてしまえばもう二度と魔石は得られない場所となったのだ。
アルス兄さんがアトモスフィアを持ち出して、もう何年も経っている。
どうやらブリリア魔導国はその後も精霊石を採り続けていたが、今はもう手に入らなくなったことで、魔導国内でのアトモスの里の位置づけは低くなっているのだそうだ。
「ふむ。ということは、今のアトモスの里にはやつらがいないということか?」
「いや、どうもそうでもないらしいな」
「なぜだ? 奴らの狙いが大地の精霊が宿りし石ならば、それが手に入らない時点で放棄してもおかしくはないだろう」
「普通はそう考えるよな。けど、放置できない理由があるんだよ。今もブリリア魔導国はアトモスの里に兵を常駐させて警備させているみたいだ」
「放置できない理由? なんだそれは?」
「どうやら盗掘される危険性があるらしいね。あそこから兵を全員引き上げて精霊石を採掘されたら困るってことらしいよ」
「意味がわからん。言っていることがおかしいだろう。もう採れなくなったのではなかったのか?」
自分たちの故郷だからだろう。
イアンがアトモスの里について聞いてくる。
その中で俺がする説明に納得できなくて、さらに問い詰めてきた。
確かに、おかしいと思うだろう。
アトモスの里では精霊石が採れなくなったはずなのに、いまだに盗掘を警戒しているのだから。
が、これはバナージがきちんと調べてくれていた。
実は今でも精霊石が手に入ることがあるのだそうだ。
アトモスフィアという超巨大な迷宮核によって、以前まではアトモスの里にはゴロゴロと精霊石が転がっていたらしい。
それを全てブリリア魔導国は回収した。
そして、地表から見えている部分も穴を掘り、地中に埋まっている精霊石もとっていった。
その結果、すべて採りつくしたということになったらしい。
が、実際にはブリリア魔導国が穴を掘った場所以外でも穴を掘っていけば精霊石が見つかることはあるのだそうだ。
しかし、それはかなりの少量で、ブリリア魔導国側としてはこれ以上、植物一つ生えていない荒野の渓谷で作業し続けるのは損失のほうが大きいとなったのだ。
が、ものがものだ。
精霊石は普通の魔石とは違い、大きな価値を持つ。
完全撤退して勝手に盗掘されて少数であっても持ち出されるならば、ある程度兵を置いておいて監視任務だけでも継続する。
そういう判断があったのだそうだ。
それはそれで金がかかりそうだと思ってしまった。
が、まあさすがに大国ということなんだろう。
盗掘対策に人がほとんどいない土地に兵士を置いておくのをいとわないのだから。
そんなわけで、今のアトモスの里は精霊石を採りつくした枯れた迷宮でありながらも、警戒の兵が常駐している場所なのだという。
「と、そういうわけだ。ってことで、俺はこの冬、アトモスの里に行こうと思っているんだけど、イアンはどうする?」
「愚問。行かないわけがないだろう。俺も行くぞ、アルフォンス」
「了解。じゃ、あとはラッセンも連れていこう。地面の中を調べる専門家がうちにはいるからな。多分、ブリリア魔導国の連中が気付いていない地中の精霊石の鉱脈くらい残ってるだろ。そいつをもらいに行こうぜ」
現状をしった俺たちはアトモスの里へと向かうことに決めた。
イアンは俺が行くと言えば当然自分も行くというのは最初から分かっていたけどな。
そして、俺はラッセンという存在があるからこそ行く気になった。
地中深くの油を採ろうとして縦穴の迷宮を作り上げるような男なら、精霊石くらい見つけられるだろうと思ったからだ。
こうして、俺たちはブリリア魔導国の軍が警備している土地に精霊石をもらい受けるために向かうことにしたのだった。
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