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希望者多数

「ふーむ。思った以上に希望者が多そうだな」


 新バルカ街に新しい貴族院を作る。

 その構想が実現可能かどうかを調べるために、まずはもしも学校を作ったら入学希望者がいるかどうかを確認することにした。

 その結果は、確実に人が集まる、というものだった。


 新バルカ街はもともと廃村の土地を手に入れて俺が作った街だ。

 周囲をぐるりと壁で囲んで作った。

 そして、その壁の中には無関係な者は勝手には入れないように制限されていた。

 今は二つある壁のうちの内壁内には俺が許可した者以外は入ることができず、外壁はバルカ教会で腕輪をもらって身元がしっかりと分かる者だけが入場できるようになっている。


 つまり、なにが言いたいのかというと、近年できたばかりの新バルカ街という街は急発展しているにもかかわらずに、かなり管理が行き届いた場所であるということだ。

 個人の識別と位置情報の管理ができる腕輪の存在もあり、なかなか侵入は難しい。

 そのためか、外部からこの街の情報を知ることができる機会は限られているということでもあった。


 それが、今回子ども限定であっても比較的楽に入ることができるようになる。

 しかも、そこで教わるのがオリエント国やほかの国でも通用する質の高いものであると伝えられたわけだ。

 それを聞いて、我が子を入学させたいと言ってくる者が多かった。

 これはどうやらキクの存在も関係しているらしい。


 もともと、俺の家では孤児や貧民街出身の子どもを引き取り、育て、教育していた。

 その第一号でもあるハンナやミーティアと一緒にキクがいた。

 そのキクは今、オリエント軍でも隊を指揮する立場にまでなっている。

 そして、ハンナやミーティアよりも都市国家内部で人と会う機会がそれなりに多かったのだ。


 キクはほかの傭兵と違って俺が手元で育てた生え抜きの人間だと知られている。

 そして、そのキクの評価は街の人間からすると同じ傭兵出身のウォルターやゼンたちよりも高いらしい。

 どうやら、アイの生徒の中では戦闘面にばかり興味があって礼儀作法の授業を嫌がっていたキクだが、それでも純粋な傭兵であるゼンたちよりははるかに礼儀正しいと受け取られていたようだ。


 そのためか、こんなうわさもあるらしい。

 キクは実はどこかの国の騎士、あるいは貴族の出なのではないか、と。

 実際は全然そんなことはなく、都市国家の壁の外にあるあばら家のような場所にすら住めずにいた孤児だったにもかかわらずだ。

 それだけ、アイの教育、ひいては新バルカ街での生活がキクに大きな影響を与えたということだろう。


 そして、そんな噂にたいしてキクは以前から人に聞かれたらこう答えていたらしい。

 すべては俺やアイの教えのたまものだ、と。

 それを聞いていた、知っている者たちがいたからこそ、新しい貴族院構想に興味を持たれたのだと思う。

 キクだけではなく、バルカ教会にはハンナやほかのアイの生徒もいたことで、非常に質の高い教育が新バルカ街ではできるのだと判断されたのだ。


 それに、なんと言っても世の中は厳しい。

 どこの家にも子どもの問題というのがあるのだと、ローラが言っていた。

 たいていの場合複数の子どもがいる。

 が、親の数は決まっているし、将来子どもが受け継ぐことができる家も一つだ。

 つまり、子どもがたくさんいてもその子らが全員財産を引き継げるわけではないということだった。


 どうやら、俺の新しく作る学校には次男や三男、あるいはそれより下の立場の子どもが多くが入ることになるのかもしれない。

 将来、財産の多くは子どもの一人だけに受け継がれるかもしれないが、せめて教育を受けさせて、もしかしたらそこで得た知識や伝手を使って、自分で成りあがれる力を得られるかもしれない。

 小国家群は実力主義の場所でもあるからな。

 オリエント国だけではなく、ブリリア魔導国の礼儀作法や、周辺国の地理歴史に詳しくなれれば、ほかの国でも身をたてることができる可能性があるということだろう。

 まあ、そうでなくともオリエント軍で上官として仕事に就ける可能性だってあるわけだしな。


 そんなわけで、俺が思った以上に生徒数が集められる可能性はあると分かった。

 できれば、希望者はなるべく受け入れられればそのほうがいい。

 いろんな家に影響力を持てるということでもあるわけだし。

 が、そこで前にハンナに言われた問題が出てくるのも事実だ。


 教師役をどうするか、という問題だ。

 少人数であれば、アイを何体かあてがえばいけると思っていた。

 だが、数が多くなると教育の質を保つことができるかは分からない。

 今だってバルカ御殿では元高級娼婦の女性たちの補助をつけているくらいだしな。


「アトモスの里に行ってみるか」


 どうしようか悩んだ末に、そんな考えが頭に浮かんできた。

 アトモスの里。

 イアンたち、アトモスの戦士の故郷の地。

 しかし、今はその地を追われて失われた土地だ。

 そこに行けば、精霊石が手に入るかもしれない。

 大地の精霊が宿りし石とイアンたちが呼ぶそれは、アイを作るための土の魔石にもなりえる。


 どうしようかな。

 考えたものの、あそこはブリリア魔導国の支配地になっている。

 行ったところで精霊石を売ってくれるなんてことはないだろうしな。

 どうしたものかと考え込んでしまったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 50年計画でやるなら日本の義務教育制度を段階的導入なんて手も有るけど コイツ現地出身主人公だからそんなん考えんだろうしな 考えついても基礎教育学校と高等教育学校と 職業訓練校作る程度ぐらい…
[良い点] 素直に行って来れば、身分隠しても良いし 婚約前の挨拶とか顔見せで、入国も許可されるだろう。 精霊石は、なんとかなるだろう。
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