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縦穴の迷宮

「聞いたでござるよ、アルフォンス殿。なにやら面白いことになっているようでござるな」


「ガリウスか。ちゃんと【毒無効化】は使ってるよね? 興奮するのはいいけど、定期的に使っていないと体に悪いよ」


「ああ、そうでござったな。大丈夫でござるよ。それで、その【ラッセンの獄炎釜】というのを実際に拙者も見てみたいのでござるが、よいでござるか?」


「了解だ。案内するからついてきて」


 鮮血兵ノルンが炎鉱石を回収してきて、さらに数日が経過した。

 新バルカ街などとも連絡を取り合っていたのだが、そこで話を聞いたガリウスがすぐに駆けつけてきた。

 どうやら、この場所についてものすごい興味を持っているみたいだ。

 いきなり俺の肩を掴んでまくしたてるように話しかけてくる。

 ひとまずは、落ち着かせるように相手をしながら、【ラッセンの獄炎釜】へとガリウスを連れていった。


「ほほう。ここは完全に壁で囲んでいるのでござるな? 内部に入ることができる場所は限られている、と」


「まあね。獄炎釜は蓋をしたところで中が消火できないみたいなんだよ。だから、壁で囲って勝手に入れないようにしているってわけ」


「魔力に反応して燃える炎鉱石のためでござったか。普通は完全に密閉すると炎というのは消えてしまうものでござるが、そうではないのでござるな」


「らしいよ。魔力に反応して炎が出るって時点で、普通の火とは違うのかもね。よくわかんないけど、空気が存在しない宇宙って場所でも炎が出るらしいから」


「宇宙、でござるか? それはどこなのでござろうか?」


「空の上のお月さまの領域、かな。正直、俺もよくわかんないけど、とにかく普通なら燃えない状況でも炎鉱石は燃えるってことらしいよ」


 ガリウスを案内しながら説明する。

 この【ラッセンの獄炎釜】があった場所はもともとは川の付け替え工事を行っていた場所だ。

 そして、その土地自体は以前の【ラッセンの大暴落】で借金の返済のために格安で売り出された場所であり、アイが購入していた。

 なので、ここは完全に私有地でもある。

 例え近くに先祖代々住んでいた者がいようとも、ここはアイの持ち物であり、この土地から得られるものもアイのものであるということになる。

 というわけで、超貴重な炎鉱石が手に入った【ラッセンの獄炎釜】は厳重に管理されることとなった。


 周りを壁で囲い、警備のために人を立たせたその土地で、現状についてをさらに詳しく説明していく。

 炎鉱石の不思議な特性についても話しておいた。

 ガリウスはいろんなものを作ることができる職人であり、そのためか火にも詳しい。

 普通に考えたら、火は空気が遮断されてしまえば消えてしまうのではないかという疑問を投げかけてきたが、炎鉱石はそうではない。

 あれはあくまでも魔力に反応して炎が出るからだ。

 それを聞いて、さらに興味深々となっていた。


「それで、この獄炎釜をどう利用するつもりでござるか、アルフォンス殿?」


「ん? どう利用するって、しっかりと管理して、今後もできる限り炎鉱石を手に入れていくつもりだけど?」


「それだけでござるか?」


「それだけってどういうことだよ。炎鉱石が手に入るってだけで十分じゃないの?」


「何を言っているでござるか、アルフォンス殿は。この土地を見るでござる。あの炎の穴に獄炎釜などという名をつけたのは誰でござるか。あそこには消えることのない超高温の炎が出続けているのでござるよ? あの大火力を利用せずに放置するつもりなのでござるか?」


「……え、まさかガリウスはあの地面から出ている炎で鍛冶でもしようって考えているの?」


「もちろんでござるよ。炉に火をくべるのにはどうしても炭が大量に必要になるのでござる。その炭が必要なく、炎が手に入るのであれば、それを使わないのはもったいないでござるよ。この獄炎釜そのものをどのように使っていくかは検討すべきだと拙者は思うでござる」


 なるほど。

 言われてみればそのとおりなのかもしれない。

 炎鉱石という希少なものを手に入れられると分かったから、俺の中では獄炎釜自体にはさほど注意が向いていなかった。

 が、確かに燃料もなしに燃え続ける場所というのは得難いものであるのかもしれない。


 というのも、どうもこの獄炎釜の下にあるラッセンが掘った縦穴は龍脈になっている可能性があったからだ。

 龍脈、あるいは地脈とも言われるものだ。

 それは、土地に存在する魔力の流れる道みたいなものだろうか。


 土地と土地には物理的に魔力の流れが存在する。

 これは、アルス兄さんによって確認された情報だったはずだ。

 とある迷宮に存在する転送石というものは、魔力的につながった場所であればそれぞれ離れた地点に設置すると、魔力を用いて瞬時に移動できる。

 迷宮核によって魔力が満ちた迷宮内であれば、転送石では消費魔力が少なく移動できるが、アルス兄さんの作った【道路敷設】などでも地脈は繋がり、離れたところにある転送石へと移動可能になるのだそうだ。

 しかし、【道路敷設】などの土地に干渉する魔法を使わなければ地脈はつながっているとはみなされないようで、移動はできないということらしい。


 ようするになにが言いたいのかというと、大地に干渉する魔法、あるいは魔術を用いるとそれまでにはなかった地脈、あるいは龍脈というものが出来上がることがあるのだ。

 そして、それはアルス兄さんと同じような魔力の性質を持つラッセンにもそれができたということなのだろう。

 油を採掘するために縦穴を掘ったが、それがこの大地の魔力を吸い上げて途中にある炎鉱石と反応して炎を出す特殊な場になってしまった可能性があるというわけだ。


 つまり、ここで採れた炎鉱石を全て持ち出してほかの場所に置いたところで、消えない炎を得ることはできないということになるのか。

 だったら、ノルンを使って少しずつ炎鉱石をとりながらも、この土地そのものを活用しようというガリウスの意見は参考にすべきかもしれない。


 なんか、まるで縦穴の迷宮みたいだな。

 消えることのない炎を噴き出し、周囲を毒で満たす【ラッセンの獄炎門】を見て、俺はそんな印象を受けたのだった。

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