工事現場にて
『ブリリア魔導国への手紙でござるか? 分かったでござる。拙者のほうへと届けてくれれば、こちらからきちんと相手へと届くように手配するでござるよ』
俺が用意した手紙。
それを送るために、今はオリエント国にはいないバナージに託すことになった。
王族や貴族相手に出すというのは、簡単なことじゃないからだ。
送り先が庶民であれば、ブリリア魔導国という遠い地であってもクリスティナなどから商人経由で頼んだことだろう。
が、今回ばかりはそうしたところでまともに届かないどころか、勝手に手紙の中身を読まれたりだとか、盗まれたりだとかといった危険性もあった。
なので、外交に詳しいバナージにお願いすることになったのだ。
今、バナージはオリエント国外にいてソーマ教国の情勢について探っている。
が、ソーマ教国にいるわけではなく、ソーマ教国に近い場所にある小国にいた。
あまり情報収集は芳しくはないようだ。
ひとまずは、そこに人を置いて継続して探ることとして、次はブリリア魔導国などにも情報を得るための行動に移ろうとしていたらしい。
手紙のことについて話をしたら、自分にまかせてくれと言ってきた。
こういうときに、離れた地点にいるバナージと直接会話できる魔導通信器は本当に便利だ。
こちらから、ヴァルキリーに乗った伝令が手紙を持ってバナージのもとへと行き、そこからブリリア魔導国へとしかるべき伝手を頼って相手の手に渡ることだろう。
ま、そこから相手の返事があるかどうかはわからないけれど、あっても時間がかかりそうだな。
すぐに動けるわけでもないし、ハンナには布教活動はしばらく小国家群中心で引き続き行うように言っておこうか。
そんなふうに考えているときだった。
「アルフォンス様、ラッセン様の力をお借りしてもよろしいですか?」
「ん? ラッセンには今、【地質調査】の呪文化をしてもらうように頼んでいるところだろ? どこかに連れ出す必要があるってことか、アイ?」
「はい。先日報告のあった、川の付け替え工事についての報告で気になった点があるのです。その調査にラッセン様の力をお借りしたいと考えています」
「川の付け替え工事か。たしかに、そこでなにか問題があるってんなら、ラッセンの力が役立ちそうだな。わかった、いいよ。というか、俺もその現場に行こう。すぐに出発できるように準備をしておいてくれ」
「承知いたしました」
アイの相談を受けて、すぐに行動に移す。
新バルカ街で呪文化作業に取り組んでいたラッセンを急遽呼び出し、ヴァルキリーに無理やり乗せて出発する。
どうやら、アイも同行するようだ。
オリエント国内のいくつかの工事現場のうちから、アイが気になる点があるという現場へと急行する。
そこには川はなかった。
川の付け替えをするために、新たな水の流れる川が出来上がる場所として想定して地面を掘る作業にとりかかっていた場所だ。
さきに、こちらにある程度水の流れを誘導する溝を掘り、そしてその後に既存の川の流れを変えてそこに流し込むという計画の場所だった。
それまではあまり利用もされていない場所だったのだろう。
草がぼうぼうに多い茂っている原野に【整地】された道が作られ、そしてその道を目印にしての穴が掘り進められていた。
まだまだ、先の長い工事になりそうだ。
ここは結構大きく川の流れを変える予定なのだそうで、工事期間も長めに想定されている。
というか、数年でも終わらないんじゃないだろうか。
一応、不況対策の仕事創出の面でも意味があるのでいくら時間がかかっても問題ないみたいだけど。
が、それが早くも暗礁に乗り上げたということなんだろうか。
アイが立てたこれまでの計画はあんまり失敗や遅延がなかったので意外だ。
「ここです。このあたりがご報告した場所で、穴を掘っていたらこんなものが出てきたのです」
到着した俺たちを問題の地点へと案内する現場の責任者。
そいつの後についていった俺は責任者が案内する前から、この地がほかの場所とは少し違うということに気が付いていた。
それは、においだった。
「臭いね。これって、もしかして油かなにか?」
「はい。そうです。予定されていた工事の場所で作業していたら、穴を掘った際にこのような油が出てきたのです。ここだけが特別かと思い、調査のために周辺の土地も掘ってみたのですが、同じように油が出てくる場所が何か所も見つかって。それで、ご報告したわけです。もしも、ここを川にした場合、油が川の水に混ざってしまうことにならないかと思ったものでして」
「ああ、報告ありがとう。よくやってくれた。確かにどのくらい影響があるかは確認が必要だな。そうか。それでアイがラッセン殿の力がほしいって言ったのか。地中の状況を魔力で確認できるラッセン殿の力があれば、油が出てくる場所が特定できるかもしれないってことね。工事の予定を考え直す必要もあるかもしれないだろうしな」
「そのとおりです、アルフォンス様。場合によっては、工事は中止となるでしょう。ラッセン様、この油の埋蔵量を調べていただけるでしょうか。地中にどれほどあり、どの程度、土地に影響を与えているかをお聞かせ願います。また、ラッセン様の魔術による穴掘りによって、どの程度の深さまである油が回収できるかもお聞きしたいと思います」
ふむ。
どうやら、さすがのアイも予想外だったのだろう。
すでに工事の中止も検討しているみたいだ。
で、それの確認のためにもラッセンを使いたかったのか。
油か。
ここにある地中から出てきたにおいのきつい油も火をつければきちんと燃えるものらしい。
油はそれなりに貴重品だし確保しておきたいのかもしれないな。
アイとラッセンが話し合って、あちこちを調査していくのを見ながら、俺はのんきにそんなことを考えていたのだった。
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