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手紙

「ブリリア魔導国での布教か。どうしようかな」


 ハンナによる指摘でそのことについて考えることになった俺は、かつて短期間だけ留学していた国について思い出していた。

 俺がオリエント国に来る以前のことだから、もうかなり昔のことになる。

 けれど、そこでの暮らしのことは結構しっかりと覚えていた。


 あの時は、ブリリア魔導国の王子でもあるシャルル様の屋敷に泊まり、そこから貴族院に通っていたからな。

 今から考えるとあの貴族院に来ていた子どもたちはみんなすごかったように思う。

 誰もかれもがとんでもない魔力量の持ち主だったからだ。


 生まれながらに高い魔力量を持つ貴族の子どもたち。

 それらが一堂に会して学ぶ機会があるというのは考えられないことのようにも思う。

 それは、俺がオリエント国という新天地に来たからかもしれない。


 だって、それはつまり、小国家群にある国々すべての有力者の子どもが一か所の学校に集まってきているようなものなのだから。

 そんなことは小国家群ではできっこないだろう。

 自分の大切な後継者をよそに出すというだけでもかなり勇気のいることだと思う。

 どの国も子どもを出すのに抵抗するだろうし、もし子どもを集めるにしろ、自分の土地に来させたいと考えるんじゃないだろうか。


 そんな力ある有力者たちの反対意見を封じ込めて、実現させているのがブリリア魔導国なのだ。

 そして、それは単に集めるだけではなく、実際に学ぶ機会を提供している。

 貴族院にはブリリア魔導国でも高名で知識の深さが認められた人物が子どもたちに教えている。

 しかも、その内容はいろんなものがあった。

 多岐にわたる教科を学生は自由に選択し、自分に合ったもの、興味のあるものをいくらでも学ぶことができるのだ。

 それがあるおかげか、大国と呼ばれるほかの国に引けを取らない知識層を確保することができている。

 実際に、これまで魔法陣技術を用いた魔道具を積極的に作り、活用していたのはあの国なのだから。


 そして、そんな貴族院にはブリリア魔導国の王家が管理する迷宮にも通うことができる。

 俺も入ったことがある魔導迷宮だ。

 あのような魔力の満ちた空間で、しかも魔導兵という訓練相手には最適な魔物がいるところで、実戦さながらの修練も積めるのだ。

 そのかいあって、ブリリア魔導国は頭でっかちの貴族だけではなく、実力の伴った魔力の高い者も多い。


 そんなふうに頭と体と魔力を鍛えた貴族が、男女問わずいるのだ。

 そこで知り合った者同士で将来的には婚姻も結ぶことになり、そして、さらに高い魔力を持った子どもが生まれ、次の貴族院の学生となる。

 この循環があるからこそ、ブリリア魔導国は小国なんかとは比べ物にならない強さを持っているのだ。


 その国にバルカ教会の教えを広げる。

 悪くない考え方だと思う。

 が、注意すべき点はやはり貴族の存在だろう。

 あの国はオリエント国のように議会制ではなく、貴族が土地を治めている。

 その土地を治める貴族によっては新しい宗教による教会なんて許さないというところもあるんじゃないだろうか。

 もしも、何も考えずにそういうところに進出しようとして変に目をつけられても面倒かもしれない。

 特に、今は小国家群での硬貨不足の件についても見られていることだろうし。


「でも、アルフォンス様ってその貴族院に通っていたんですよね? どこか、お知り合いの貴族様がおられる土地に頼んでみることってできないんですか? 新しく教会を建てたいって事前にお伺いをたてておけばいいんですよ。許可さえもらっておけば、堂々と布教できますし」


「うーん、そうだなぁ。まあ、聞くだけ聞いてみようか。……けど、俺のこと覚えているかな?」


 っていかう、ぶっちゃけ、知り合いと呼べる相手が少ないってのがあるんだけどね。

 あの時は、貴族院にしばらく行った後すぐにアイとの個人授業が始まって、それが終わった後にもう一度通い出したら迷宮に行っちゃったし。

 おかげで俺は貴族院に通っていたと言いつつも、そんなに講義を受けていない。


 まあ、けど大丈夫か。

 アイがいたしな。

 貴族院はブリリア魔導国内の貴族や騎士の子どもが主に通っていたが、外国からの留学生も多くいた。

 そして、そういう学生には留学生に付き添うという形で一緒に講義を受ける人もそれなりにいたのだ。

 それは護衛だったり、家庭教師だったり、付き添いという名の本当の意味で学びたい人だったり、いろいろだ。

 俺にとってそれはアイだった。

 アイはひとりではないというのが大きかった。

 俺に修行をつけている間にも、別のアイが貴族院へ赴いて講義を受講していたりしたのだ。

 おかげで、アイはブリリア魔導国の言葉や歴史、礼儀に専門科目なんかも精通している。

 そして、学生の知り合いなんかも多いし、相手もアイのことを覚えている可能性が高い。

 そのアイと一緒にいた俺のことも、思い出してくれるかもしれない。


 とりあえず、手紙でも出すか?

 許可を取るってことになると、王子であるシャルル様は外せないだろう。

 あとは、そうだな。

 あえて仲が良かったといえば、年上の女性で当時よく話しかけてくれた伯爵嬢のエリザベスやセシリーなんかも手紙くらい読んでくれるだろう。

 宗教の布教活動に許可を出せるほどの決定権があるかどうかは分からないけれど。


 まあ、いいや。

 ひとまず、これを機会にブリリア魔導国の字や文章の書き方を復習しておこう。

 で、書いた手紙と一緒にこっちから贈り物でも送ることにしようか。

 アイにそのことを伝えて、何枚かの手紙を書き、その後、遠く離れた大国へと送ることにしたのだった。

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