ラッセンの真価
「もう検証は終わりそうか、アイ?」
「そうですね。ひとまずはこのくらいにしておきましょうか。お付き合いいただきありがとうございました、ラッセン様」
「い、いえ。ただ、こんなに魔力を使ったのは初めてです。つ、疲れた……」
ラッセンに対してのアイの検証行為が終わったようだ。
ラッセンはアイの終了という言葉を聞いて、安堵のため息をついている。
どうやら相当疲れたようだ。
ラッセンの魔力量は多いとはいえ、あくまでもそれなりだった。
が、検証のために、魔力のこもった魔石まで使って連続で魔術を使い、地面に穴を開けさせられていたのだ。
最初こそ、アイにいいところを魅せようとしたのか張り切っていたラッセンだが、だんだんとその顔は変わってきた。
いつしか、終わりはまだかと思いながらの魔術行使になっていたのではないだろうか。
「あ、その穴はちゃんと元に戻しておいてくださいね。あとで崩落すると困るので」
「そ、そんな……。分かりました、やっておきます」
だが、そこで終わってもらっても困る。
穴だらけになった土地は危険極まりないからだ。
なので、ラッセンによって開けられた穴を元の地面に戻すように伝えておいた。
きらりと涙を浮かべている姿が目に入った。
しかし、ラッセンの頑張りのおかげで、アイの検証は無事に終わった。
それがなにを意味するのかは俺も知らないが、土をここまで自在に操れる才能は凄いと思う。
それに、アルス兄さん以上の魔力効率を誇るというし、検証によってどういう情報が集まったのかをアイに確認することにした。
「そうですね。まずは、アルス・バルカ様についてお話しましょう。アルス・バルカ様は地面に手を付けて、土に魔力を流しこみ、魔術を発動します。その際、地表部分が魔術発動の起点となり、そこから縦・横・高さ、あるいは深さに応じて魔力の使用量が変わってくるのです」
「ふんふん。ようするに壁を作ろうとしたときに、容量が大きければ魔力をその容量に応じた量を使うってことでしょ?」
「そのとおりです。ですので、アルス・バルカ様は魔力消費を抑えるために、建築物を建てるときにはその建物の完成形にあらかじめ魔力の形を合わせておいてから形作る手法を取っています。その場合は、内部の空洞部分の魔力消費を抑えることができますので」
「ふーん。そんなことしてたんだ」
「はい。ですが、それでも魔力消費を抑えられない場所があります。それは地中です」
「地面の中、か。地表が魔力行使の起点になっているからってことなんだよね?」
「そのとおりです。たとえばですが、アルス・バルカ様が地中に空洞を作ったとしましょう。縦・横・高さそれぞれ十メートルであれば、容量は千です。ですが、その空洞が地表から百メートル深い場所にあるとどうなるか、お分かりですね?」
「千に百を掛けて、合計十万の魔力消費があるってことかな。そりゃ凄いね。地面のすぐ下に穴を掘るのと比べるとかなりの違いになるね」
「まさにそこが問題なのです。ですので、アルス・バルカ様は坑道の類をあまり作られたことがありません。深い場所に横に続く地中の通路を作ろうとしても、魔力の消費が大きすぎるからです」
「でも、天空王国とか作ったじゃない。あれなんか相当すごい大きさだけど」
「それらは、アトモスフィアや迷宮核といった外部の魔力も利用しています。そうでなければ、そう簡単にあれほどの規模の構造物を作ることはできないと、アルス・バルカ様本人も言っておられます」
なるほど。
ほかの人からは凄いという声しか聞いたことのないアルス兄さんの力だけど、そういう面では弱点もあるのか。
地面から浅ければ無視できても、一定以上の深さの土をいじろうとするとあまりにも効率が悪くなりすぎる。
そうか。
だから、アルス兄さんの作った魔法も地表に影響を与えるものばかりなのか。
「ふーん。って、ことはラッセンはそうじゃない、と」
「はい。先ほどの検証の結果、ラッセン様は地表からの深さには魔力消費量は影響されていないことが確認できました」
「ってことは、地中に好き勝手に穴を開けるどころか、通路まで作れるのか。……それって、やばいじゃん。防壁戦術の根底を覆す存在ってことにならないか?」
「そうですね。魔力さえあれば、壁の外から地面の下を通過して内部に侵入することも可能でしょう。どれほど守りを固めても無意味になる可能性があります」
まじか。
そんな奴がその辺に野放しになっていたのか。
というか、今までそういうふうに魔力を使ってこなかったんだろうか。
……多分、魔石がなかったというのもあるんだろうな。
今は魔石があったからこそ、たくさん魔術を使ってもらうことができた。
が、これまでは魔石なんてそうそう手に入るものではなかったはずだ。
ましてや、潤沢に魔力が込められた魔石なんて土建屋程度では手に入れようがない。
ラッセン自身の魔力量だと建物を建てる時の基礎部分の穴を開けるのが楽になる、とかそれくらいだったのかもしれない。
だから、穴を開ける能力そのものはそこまで気にされていなかった。
危なかったな。
もし、こいつの本当のすごさが認識されていたら、戦闘で使われていたかもしれない。
本当に偶然ここに来ることになった男の力にアイが気が付いただけなのだ。
ただ、逆をいえばこいつを活用すれば防壁戦術をこちらが覆せることにもなるのか。
どういったふうにラッセンが役立つか、それこそ確かめてみる必要がありそうだなと感じたのだった。
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