グラハム家
「アルス様、バルカ騎士領にこのような城があるとは知りませんでした」
「そりゃそうだよ、リオン。この城はつい先日完成したんだからな」
冬が終わり、バルカニアに新たな城を作り出して少ししてからのことだ。
俺の結婚相手であるリリーナの弟であるリオンがバルカニアへとやって来た。
どうやら、結婚についての話の最後の詰めとして現地を見に来たのだろう。
そのリオンがバルカ城を見て驚いている。
バルカニアという城塞都市の真ん中に新たに造った城をバルカ城と名付けた。
この城はなかなかの出来だと思う。
硬化レンガで組み上げた城はまるで大理石で作られたような色合いでこの世界において一般的なレンガ作りの建物とは一線を画している。
さらにその硬化レンガでできた城は無駄に高い尖塔が左右に2つついており、その中間に大きな入口となる門がある。
これから城へと入ろうとするものはまずその高さを見上げて感心するだろう。
入り口をくぐると中は広いホールのようになっており、真っ直ぐ進むと階段がある。
この階段を越えて更に進むと謁見の間が存在するのだ。
謁見の間自体も広くつくっている。
おっさんが取り寄せた絨毯を敷いており、その絨毯の上を歩いて奥に進むことになる。
左右は大きく高い縦長の窓があり、ステンドグラスがはめ込まれている。
青を基調として様々な色がモザイク状になっているステンドグラスには光が差し込んでいる。
そのステンドグラスにも驚くだろうが、さらにその奥に目を引くものがある。
まるで雪の結晶を思わせるような複雑な模様をした円形のステンドグラスがデカデカとあるのだ。
ここは特に採光がよくなるように建築段階から設計している。
光を浴びた青のステンドグラスがキラキラと輝いてるその光の下に、俺が座るイスがドンと置いてあるのだ。
完璧だった。
ここへと訪ねてきた人はまず間違いなく驚くに違いない。
この城を見て俺に権力がないなどというやつなどまずいないだろう。
完成したバルカ城を見て、俺とグランは笑いが止まらなかったくらいだ。
「バルカ騎士領はもともと村2つだけの小さな土地だからな。いいとこの生まれのお姫様を迎えるならこれくらいの城は作っとかないとな」
「いえ、姉さんはカルロス様と血の繋がりはありますが、正式にはフォンターナ家に仕えるグラハム家の娘です。姫とは言えませんよ」
「リリーナが先代様と城で働いていたメイドとの子供だってのは聞いていたけど、完全に別の家なのか。というかグラハム家ってのはなんだ?」
「グラハム家は昔からフォンターナ家に仕えていた騎士の家です。かつては領地を持ち、グラハム騎士領というのもあったのですよ」
「あった? 今はないのか?」
「はい。グラハム家は私の父が急死した際にレイモンド殿に領地を没収されてしまったのです」
「レイモンドか。この間までフォンターナ家を仕切っていたやつだな」
「そうです。アルス様とも因縁浅からぬ相手でしたね。もともと父もレイモンド殿とは政敵関係にあったのです。急死した際に狙い打たれたように領地を取られてしまいました」
「まじかよ。もしかして親父さんの死にもレイモンドが関わってたんじゃないのか?」
「わかりません。今となってはすべて闇の中です」
「……それならカルロスに直訴してみたらどうなんだ? 奪われた領地の奪還を頼むとか」
「おそらく難しいでしょうね。父はもう何年も前に亡くなっています。領地も分割されて今はいくつかの騎士家が保有する形となっています。それを取り上げるのはまだ当主になったばかりのカルロス様にとっては難しいでしょう」
「……そうか。騎士の家っていうのも大変なんだな」
「そうですね。でも、過去のことばかりを考えているわけにもいきません。今できることをしなければいけないと思います」
「すげーな、リオン。うちのバイト兄と違って大人すぎるぞ」
「ありがとうございます。そこでアルス様にお願いがあります。私をアルス様のもとで働かせてはもらえませんか?」
「うん? うちで働く?」
「はい。グラハム家を再興するのは私の悲願ですが、実はまだわたしは戦場に出たことがないのです。家を再興するためなら手柄をたてるのが一番なのです」
「それなら、カルロスに頼めばいいだろ。戦場での一番槍をって」
「領地を失った我が家にはまともな戦力がありません。現状では戦場に立つだけの勢力すらないのが実情なのです」
「うーん、そんなこといってもうちも人に貸せるほど戦力があるわけじゃないからな。難しいと思うが……」
「あ、いえ、戦力となる人を貸してほしいというわけではないのです。アルス様に私を使ってほしいのですよ」
「リオンを使う?」
「はい。領地を失ったと言ってもグラハム家は少し前まではきちんと騎士領を持つ騎士の中の騎士です。グラハム家が取り立てたものを自領の騎士として取りまとめてもいたのです。亡き父からも戦場での戦い方を学んでいました。きっと戦場ではアルス様の役に立てると思います」
なるほど。
要するに指揮官になったり、作戦をたてたりできるってことか。
俺がカルロスに呼ばれて戦場に出ることがあれば、それについてきて俺に作戦をたてる。
そして、それが成功して勝利に導くことが何度もあれば、それを手柄として主張することもできるだろう。
それなら自前の兵を持たなくともできるか。
なんといっても俺の弟となる存在なのだ。
ほかの連中もリオンの言うことをないがしろにしたりはしないだろう。
「よし、わかった。リオン、お前は俺のもとで働いてもらうことにする」
「ありがとうございます、アルス様」
「ただし、お前の仕事は俺のサポート全般だ。戦場での働きだけじゃなくて、普段から働いてもらう。騎士としての教育を受けてたってことは字も書けるし、計算もできるってことだろ?」
「はい、もちろんです」
「なら、バルカ騎士領の運営も手伝え。ああ、そうだ。グラハム家で働いていたやつとは連絡がとれるのか?」
「え、当家で働いていたものですか? 領地を失ってからはほとんど離散していますが……」
「もし、今フリーのやつがいるなら呼び出してバルカで働くように言ってみろ。領地経営していた経験があるやつならうちは大歓迎だし」
「あ、ありがとうございます。すぐに探し出して呼び寄せます」
よっしゃ。
これまではバルカ騎士領の経営はド素人の集まりが意見を出し合ってやってきていた。
だが、経験者がいるならよりよい意見が聞けるようになる。
リオンを始めとしてうちで働いてくれるのならばものすごく助かる。
こうして、リリーナとの結婚を前に、離散して各地に散らばっていたグラハム家の関係者たちをバルカ騎士領へと集めることになったのだった。
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