アルス以上
「ラッセン殿はどこかの貴族とかそういった出自なのですか?」
「いえ、庶民ですよ。ただ、母方の祖父はそれなりの家の人間だと聞いています。もっとも、母が結婚した相手があれだったので、関係が切れているのですが」
「なるほど。まあ、祖父がいいところの家ならその血を受け継ぐラッセン殿も生まれた時には魔力量が多かったんでしょうね」
「そうですね。普通の人と比べると多少は。ただ、私はその魔力という力が土との相性が少しいいだけで、戦いには全然向いていませんでした。なので、子どものころから土いじりが好きで、大人になった今はいつの間にか土建屋などと呼ばれるようになっていましたよ」
ラッセンという男は壮年の男性であり、体つきもがっしりとしている。
ただ、傭兵や戦士の体つきではなくて、いつも重たい荷物を運んでいるような、厚みのある体つきという感じだろうか。
その体にはそれなりに魔力を感じる。
仕事は土いじりが起源になったと言っているが、主に土建屋として知られていた。
「もしよければ、私の力をお見せしましょうか?」
「いいのですか? では、あのあたりの土でやってみてください」
「分かりました」
そのラッセンがどうやら自分の力を披露してくれるらしい。
こいつも必死なんだろうな。
あちこちで大不況の原因とされて、多分生きた心地のしない日々を過ごしてきたはずだ。
それが、ここでは嘘か本当か身の安全を保障すると言ってきている。
それにすがるしかないのだろう。
自分がいかに役立てるかを証明して、安全を確保しようとしていた。
「っは」
新バルカ街にある土地でラッセンは足を曲げ、地面へと手をついた。
そして、その地面に広がる土へと魔力を流していたのだろう。
それがある程度の範囲に広がったと思ったら、掛け声一つで魔術を発動する。
「おお、凄いな。でかい穴が開いたぞ」
ラッセンが魔法化されていない魔術を使用すると、そこには穴が出現していた。
結構な広さで、さらに深さもある穴だ。
魔法による大地の操作。
規模の違いはあるが、アルス兄さんと同じ系統の魔術をラッセンは俺に見せてくれた。
「凄いですね」
「ん? アイもそう思うのか?」
「はい。ラッセン様、少しお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「は、はい。なんでしょうか、議長殿」
「今の穴を掘る魔術ですが、まだ魔力量に余裕はあるのですか?」
「ま、魔力量ですか? はい。もちろんです。このラッセン、議長殿に頼まれれば、どこでもどれだけでもいくらでも穴を掘る所存です」
俺のそばにいたアイがラッセンへと声をかける。
それに対して、ラッセンが顔を赤らめて大言を吐いている。
いくらでも穴を掘るなんてさすがに無理だろう。
「では、横穴はどうでしょうか。あちらに同じ深さの穴を掘ったとして、その穴とここにある穴を地中でつなぐように横穴を掘った場合、魔力の消費量はどのくらい変化するでしょうか?」
「地中の穴ですか? 地面から下に掘るのとあまり変わりありませんよ。ほとんど同じくらいだと思います」
「それは凄いですね」
ラッセンの話を聞いて、アイが褒める。
そんなに凄いことなんだろうか?
まあ、確かに穴を掘るのは意外と労力がかかるし、危険でもあるので、それが魔力を使って簡単にできるというのであれば確かにすごいのかもしれないけど。
「ラッセン様はアルス・バルカ様以上に土と親和性があるのかもしれませんね」
「は? アルス兄さん以上に? さすがにそれは冗談だろ、アイ」
「冗談ではありません。魔術を発動した際の魔力効率がアルス・バルカ様よりもラッセン様のほうが高い可能性があります」
「……ほんとに? その根拠は?」
「アルス・バルカ様の魔力はラッセン様と同様に土と高い親和性があります。しかし、魔術の発動起点は地表に固定化されているとアルス・バルカ様は言及されています。ですので、地中で魔術を発動した際には魔力効率が恐ろしく低下してしまうのです」
「地中での発動? 地面の中で使うとってこと? よくわかんないな。アルス兄さんは空に土地を浮かべたり、魔力で大きな池というよりも湖みたいなものを作ったりもしたんでしょ? 地中でも関係なしじゃないの?」
「いいえ。それはアルス・バルカ様の魔力量が増大してからのことです。それらは魔力効率を度外視して、豊富な魔力で魔術を発動させたにすぎません」
アルス兄さんの魔力量が少ないころの話か。
そういえば、アルス兄さんは貧乏農家で生まれたんだっけ?
俺が物心ついたころはもうフォンターナ家を取り仕切っていたし、全然想像もできないけど、確かに小さいころには魔力が少ないときもあったんだろう。
けど、効率か。
そう言われても、天空王国を作る人間よりも、目の前にいるラッセンという男のほうが優れていると聞いてもピンとこないな。
だが、俺とは違ってアイはラッセンの力をその後も検証し始めた。
どうやら、こいつは俺が思っていた以上に凄いのかもしれない。
アイの検証している姿を見ながら認識を改める必要があるかもしれないと思い始めたのだった。
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