大国の動き
「アルフォンス殿、ちょっといいでござるか?」
「どうしたんですか、バナージ殿? なにかありましたか?」
いろんなことに手を出していた俺のもとにバナージがやってきた。
なにか報告すべきことがあるらしい。
が、その顔には焦りがあった。
どうしたんだろうか。
「実はちょっとまずいことが起きるかもしれないでござるよ。拙者はしばらくオリエント国を離れることになりそうでござる」
「まずいことですか? どこかに行くんですか?」
「そうでござる。この冬から来年にかけて、拙者はソーマ教国の様子を探るために動くでござるよ」
「ソーマ教国、ですか? 教国になにか動きがあるってことですか」
「まだ分からないでござる。なので、それを調べるのでござるよ。ただ、拙者のほかにも人を派遣して魔導国や帝国にも目を向ける必要があると思うのでござる。もしかすると、この小国家群に大国が絡んでくる可能性があるでござるからな」
バナージはどうやらソーマ教国方面に向かうようだ。
だが、教国だけではなく、ほかの大きな国にも目を光らせておくことが重要だと俺に強く言ってくる。
どうやら、この小国家群にたいしてそれらの国がなんらかの介入をしてくる可能性が出てきているらしい。
「……もしかして、硬貨不足の件についてですかね?」
「そのとおりでござるよ、アルフォンス殿。この小国家群では三つの大国が発行している硬貨を使うところが多いのは知っているでござろう? そして、今、その三つの国の貨幣が揃って数を減らしている。これにそれぞれの国が反応しているのでござるよ」
なるほど。
思ったよりも事態は深刻なのかもしれない。
俺もアイと一緒にエンという全く新しい貨幣を作った。
エンは銀を担保として発行している実態のないお金であって硬貨ではない。
が、それでもお金はお金だ。
その自分たちで作り出したお金について、考えることがある。
それはどれくらいのお金が国外に流れるかという問題だった。
たとえばだけど、うちで作ったエンが全て外国に流れてしまった場合、困ったことになる。
国内でのエンが不足して、自国で自分たちのお金を使えないということになってしまうのだ。
なので、発行したエンはなるべく持ち出されすぎないほうがいい。
少なくとも銀の保有量が少なく、エンをあまり多く発行できていない現状では特に。
だが、それは大国にとっても同じだろう。
自分たちの作ったお金が国外に流れていくのはある程度はしかたがない。
だからこそ、今まで小国家群であってもそれらの国の硬貨が流通し、使えていたのだ。
しかし、ここにきて大きな問題が発生した。
それは、国外に流れたお金が物理的に消滅しているという点だ。
まあ、どう考えても原因はオリエント国だな。
それまであった鉄貨を回収し、エルちゃんたちによる錬銀術によって銀へと変えた。
つまり、大国の発行した鉄貨は消え去ったわけだ。
そして、次には銀貨もなくなっている。
これもうちが金貨を払ってでも銀貨を集めた結果だ。
そうして集めた銀貨はエンを発行するための担保として手元に置いておくために、市場に戻ることはない。
つまり、銀貨も存在しなくなりつつあるということになる。
そうして、通貨不足に陥り、魔道具相場の暴落で借金まみれになった小国だが、一部の国では失われた通貨を補充しようとする動きがあったようだ。
補充、つまり外から手に入れることになる。
それは大国からの硬貨の輸入だ。
なにを支払って失われた硬貨を得ようとしているのかは知らないが、ある程度のお金が流れ込んできているらしい。
それは、大国のお金がさらに小国家群に移ることを意味する。
そうすると、大国にあった硬貨は今以上に減るわけだ。
硬貨はすぐには増やせない。
これはどの国でも同じだ。
金や銀、あるいはほかの金属を使用し、適切な配合で、偽造を防ぐ技術を用いて、国家の威信をかけて作るためだ。
それが国内から失われていく現状を黙ってみている国はないだろう。
なぜ小国家群という場所でそれほどにお金が減少していっているのか。
疑問に思うのは当然だ。
そして、放置するはずもない。
きっと、まずはこの問題について徹底的に調べることだろう。
なぜ、大国の通貨が減少するに至ったかを調べ上げ、そして、その問題を解決するために動く。
バナージが言うには一番影響があったのがソーマ教国らしい。
なので、大国の中で一番小国家群に目を向けているのが教国だからこそ、そちらの動きを探るために動くのだとか。
教国はどう動くだろうか。
向こうの経済規模からすれば小国家群で流通している硬貨の量なんてそこまで大きいものじゃなさそうだけど。
原因を調べるといっても、すぐに突き止められるものだろうか。
硬貨の不足はさまざまな小国で同時多発的に起きたから、調べるのは時間がかかると思う。
けど、いずれはオリエント国に行きつくだろう。
しょうがない。
ラッセンとか言ったっけか。
硬貨不足の原因になった男を時間稼ぎに使えないか検討してみよう。
今、小国家群に大国が介入してきても厄介なので、身代わりを用意して時を得られないか考えることにしたのだった。
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