人工繁殖
「わー。どうしたんですか、アル様? ワンちゃんがいっぱいですね」
「オリエント国にいる犬や狼を適当に集めたんだ。噛むかもしれないから、あんまり触らないようにな、ミー」
「はーい。でも、みんないい子たちだから大丈夫ー」
ローラの意見を素直に聞いた俺は犬を集めまくった。
一口に犬といってもいろいろいるらしい。
体の大きさや色の違い、あるいは犬ではなく狼もいた。
犬と狼ってなにがどう違うのかは知らないけど、連れてきた者がこれは狼だと言っていたので狼でいいだろう。
とにかく、無数の犬が新バルカ街に集結した。
鋭い牙を持ち、噛む力が強いこの獣たちを街に集めるのは危ないかもしれない。
そう思ったのだけど、さすがに野生の力が強い獣たちだ。
ここの主が誰だかは分かるようで、集められた当初はうなり声なんかも上げていたけど、今はもうだいぶおとなしくなっている。
【威圧】をぶち込んだのも大きいのかもしれない。
だが、念のためにもミーティアたちには十分注意するように伝えておいた。
「で、どうするんだ、アイ? とりあえず、ほとんど思い付きで犬を集めたけど、エルちゃんたちと子どもを作るかな、こいつらは?」
「分かりません。前例がないので、検証するほかないでしょう」
「だよな。そうなるよね。でも、犬や狼も繁殖期ってあるんじゃないのかな? 今更だけど、役に立つんだろうか」
「そうですね。ひとまず、繁殖期を迎えている犬を選別して犬人と同じ場所で飼育してみるという方法で試してみるしかないでしょう」
「まあ、それくらいしかなさそうだよね。分かった。じゃ、それで試してみようか」
うーむ。
本当にこんなのでうまくいくんだろうか?
分からないが、アイが言った方法を試してみることにした。
しばらく経過観察を続ける。
どうやら、犬や狼は犬人よりも下に格付けされるみたいだ。
同じ場所に放り込んでいたら、いつの間にやら上下関係が出来上がったみたいだった。
一頭の犬人の周りに数匹の犬が従っているような光景が見られ始めた。
……どう考えても、こちらの意図と違うように思う。
もしかすると、犬人からすれば新しく連れてこられたこの街で生活している自分たちに俺が部下でも用意したとでも思ったんだろうか。
何日待っても交尾するような気配はないままだった。
「どうするんだ、アイ? 発情期の犬が犬人に近づいていっているけど、あんまり相手にされているようには見えないんだけど」
「そうですね。では、少々危険もありますが、薬を使ってみてはどうでしょうか?」
「薬? 何の薬だ?」
「媚薬です。塩草の栽培によって化粧品を作っていますが、あれは精製方法によっては媚薬としての効果も発揮します。犬人にそれが効能を発揮するかは未知数ですが、試してみてはどうかと考えます」
「……大丈夫かな? 人間に使えても、犬人の体に害がないかどうかってのは分からないんじゃないのか? 数の少ない犬人が薬のせいでさらに減ったりしたら困るぞ」
「はい。その可能性はもちろんあります。ですので、最初は少量で試すほうがよいでしょう。また、犬でも媚薬の効果を試してみてもいいかもしれません」
「わかった。十分気を付けて試してみてくれ。あと、ほかにはなにかやれることはないかな? どうせなら、犬人を増やすために考えられる方法は全部やってみよう。ローラに怒られない範囲でね」
「でしたら、クローン技術はどうでしょうか?」
「クローン? それってあれか。タロウシリーズを増やしたやつだよな。ついでに、俺にも使われたってやつ」
「はい。未分化の受精卵から核を抜き取り、そこに白犬人の核を移植します。そして、その受精卵を体内に戻して出産させる。そうすると、もとの個体と同じ身体情報を持った個体を作り上げることができます」
「え、でもあれってバルカニアでは黒犬人の受精卵を使っていたんじゃなかったっけ? そもそも受精卵が用意できないんじゃないのか?」
「そうです。が、犬の受精卵で代用できないか検討してみるのもいいかもしれません。犬人と犬の混血種が生まれるのであれば、犬の受精卵を使って犬人の細胞核を移植しても数が増やせる可能性はあるのではないかと考えます」
「そんなもんかな。どのくらいの確率で成功するんだろうな」
「万に一つの成功でもうまくいけばいいのですから、やって損はないでしょう」
「わかった。ま、それなら俺が【回復】をかけるよ。たしか、アルス兄さんは核の移植の時に【回復】を使ったんだよね?」
「そうですね。お願いいたします、アルフォンス様」
どうやって、エルちゃんたちを増やしていくか。
それを考えていくと、最後にはクローン技術というものにいきついた。
アルス兄さんが開発した技術で、俺が生まれた元になった技術でもある。
昔は禁則事項でアイがクローン技術について話してくれることはなかったのだけど、いつのころからか情報が解禁になっていた。
それを今、東方でも使おうということらしい。
不思議な感じだ。
アイが用意したガラス製のスポイトとかいう器具を使って、小さな小さな受精卵とかいうものから核を抜き取り、エルちゃんの核を移植する。
そうして、うまく抜き取った核の代わりに納めたら、【回復】を使って元気な受精卵に戻して雌犬の体にアイが戻していく。
俺もこんなふうにしてうまれたのか。
アルス兄さんは何を考えてこんなことを実践していたんだろうかとふと思ってしまった。
そんなふうにあれこれ試しながら、俺は何度も何度も【回復】を使っていったのだった。
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