表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1079/1265

オリエント国の中と外

「状況を報告してください」


「はい。周辺国の事態は深刻です。だれもお金を手元から離さないようにしてしまったために、完全に機能が停止しています。また、武力による衝突も増加しています」


 オリエント国議会で話し合いが行われている。

 恐ろしいほどに速い速度で下落した魔道具相場。

 その大暴落によって多くの人が借金まみれになってしまった。

 各地の街に住む有力者や、各村で年貢を回収する役目を担う庄屋。

 あるいは、各国をまたにかける傭兵にごくごく普通の庶民たち。

 どこか一部の階級の人間だけではなく、いろんな身分の者たちが一度に負債を抱え込んでしまった。


 それに対しての高利貸の回収騒ぎはまさに血を見る事態となった。

 これはちょっと俺の予想と違ってしまっていた。

 というよりも、もっとこうなることを考えておいたほうがよかったかもしれないと後になって思う。


 借りた金で魔道具を買い付け、それを売ることで利益を出していた連中。

 そういう奴らの中には一般人とは全く異なる連中も存在した。

 それは暴力を使うことを躊躇しない連中だ。


 魔道具相場の暴落でそれまでの資産が一気に無くなってしまった者の中には、借金を取り立てに来た高利貸に激怒し、逆に攻撃して金を奪おうとした奴がいたのだ。

 なんだかんだで力があれば無理が通ることはある。

 多少の借金ならば我慢ができても、絶望的なまでの負債額を見て、怒りの感情を向ける先が必要だったのかもしれない。


 当然、金を貸す連中もまともな人間ではない。

 そいつらも自分たちの身を護るためにある程度の武装をしている。

 むしろ、そういう武力があるからこそ、金を貸して取り立てることができるわけだ。


 だが、そんな高利貸連中を蹴散らせる者たちがいた。

 【命名】によって地位を得ていた者たちだ。

 これまでに東方ではなかった魔法。

 これが小国家群にもたらされたことで、それまでの国という縛りから半ば独立する形で勢力を作っていた者がいたのだ。

 魔法と【命名】を使って一国一城の主に昇りつめたような連中は、借りた金を踏み倒すことに躊躇などなくても不思議ではないのかもしれない。


 そんなこんなで、借金を理由に各国、あるいは各地の地場勢力で激突があったという。

 急激な情勢の悪化。

 それを見て、さらに一般庶民は身を固くするようにして守りに入った。

 結果として、まともな商取引は行われなくなり、その日食べるものさえまともに買えないところが激増しているのだそうだ。


 大丈夫なんだろうか?

 なんだかんだで、そのうちまた冬はやってくる。

 今から食べるものにさえ困るようでは、まともに冬さえ越せないような気がするのだけど。


「オリエント国の都市、および各街や村の状況も簡潔に報告願います」


「はい。オリエント国内も魔道具相場の影響が大きいですが、他国と比べるとまだ軽微であると言えるでしょう。また、他国からの人とモノの流入も国境の壁で制御できています」


 悪化の一途をたどる状況。

 が、その中にあってオリエント国はまだマシな状況だ。

 いや、これも正確ではないか。

 オリエント国の中にも尋常ではない被害を受けている者は多数いる。

 が、武力を持って秩序を崩壊し、自分たちを守ろうと動く者は存在していない。

 なぜなら、それは徹底的に封じ込めているからだ。


 もともと、国を取り囲むようにできている壁と、それらの壁と陣地に配置したオリエント兵。

 それらを使ってにらみを利かせていた。

 借金を踏み倒そうと力で訴えようとしてもすぐに軍が動く。

 ほかの土地のように自力救済できる状況ではなかったのだ。


 それに、庶民への影響は他国と比べるとだいぶ少ないと言えるのではないだろうか。

 というのも、今も変わらず国中で工事をしているからだ。

 ほかの国では暴落後に何が一番困るかといえば、仕事すらも無くなってしまったことだという。

 特に都市部では物の売り買いが無くなったことで収入を得られなくなり困窮する者が増えた。

 が、オリエント国ならば誰でも工事に参加して日当を得られる。

 普段はほかの仕事をしていても、今だけはと日雇いの仕事に参加することができたのだ。


 一応の仕事があり、治安が最低限保たれた状態。

 それが今のオリエント国だ。

 が、問題は外からもやってくる。

 それは、生活に困った人がオリエント国内に入ってくるかもしれないという点だ。


 別にこっちも不況という状況にかわりはないのに、他がひどすぎて天国にでも見えているのかもしれないな。

 どうなるかな?

 ほかの土地からやってきた連中を受け入れられるかどうかを議員たちが議論している。

 が、すぐにそんな悠長な話をしていられなくなるんじゃないだろうか?


 他国で力を使って自己救済している連中。

 そいつらはきっと高利貸から借金をチャラにできる者もいるだろう。

 しかし、それは根本的な問題にはなりはしない。

 なぜなら、そうしたところですでに周囲全体が不況に陥っているのだから。


 完全に機能停止した状況でそれでもなにかを得るにはどうすべきか。

 持てる者から奪うのが一番わかりやすく、手っ取り早いだろうな。

 きっと、力を背景に生き残りを掛けた行動に出ることだろう。

 そうなればきっとまた戦いが起こる。

 小国家群全体を巻き込んだ大きな戦いが目前に迫ってきているのを感じながら、俺はそのまま議会での話し合いを見ていたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

ぜひブックマークや評価などをお願いします。

評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

本作の書籍版がただいま発売中です。

第一巻~第六巻まで絶賛発売中です。

また、コミカライズ第一~二巻も発売中です。

下の画像をクリックすると案内ページへとリンクしていますので、ぜひ一度ご覧になってください。

i000000
― 新着の感想 ―
[一言] もしかしてアイは戦争を求めているのを考慮に入れて、あえてこうなるようにしたんだろか。表面上は抑えているように見えてたけど……そうだとしたら恐ろしく、そして頼もしいね。
[良い点] 騒乱、各地の豪族的な集団、国家の破綻で 戦国時代に、 これを契機に、オリエントを中核に新国家樹立となるか? 魔道国も巻き込まれて消滅、王家は生き残るだろうが自治領的扱いかな?一番被害の少な…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ