暴落後を見据えて
「というか、その場合世の中はどうなるんだろうな?」
シオンの占いでほぼ確定的に起こるだろう未来として、今年の夏から秋ごろには魔道具相場が暴落しているという考えのもとで行動していく。
その原因は多分大元はなにかといえばエンだろう。
本当にたかだか鉄貨を回収しまくるだけでそうなるのかは分からないけど、きっかけの一つではあるとは思う。
改めて考えると、魔道具の購入が一般人にまで広まっているというのが一番の理由なんだろうな。
金貨や銀貨は当たり前だけど高額だ。
普段目にする硬貨としては鉄貨や銅貨などが多いと思う。
そして、鉄貨をよく使うのは一般人だ。
商人も使うけれど、大きな商いをする人ほど金貨や銀貨などを使うことになるだろう。
一般人にとってみれば、本来であれば金貨数千枚なんていう世界は関係ないもののはずだった。
だが、それが最近になって変わった。
権利の分割共同購入という形で魔道具相場に誰でも参入できるようになったからだ。
各地の街に住む市民と言われる者に限らず、村に住む庄屋や農民、あるいは都市の外にいる貧民ですら魔道具相場に加わっている。
ほんの少しでもかじることができれば、間違いなく儲かっていたからな。
少し頭が回るのであれば手を出そうと考えるはずだ。
そして、一度でも手を出すと二度と離れられない。
一般人にとって、権利を買ってしばらく後に売れば相当量の金貨分の儲けが出ることなんて、今までの人生で経験した者などいないはずだからだ。
ばかみたいに簡単に大儲けできる。
そんな経験をして、そこから自分から離れようとする者は絶対にいないんじゃないだろうか。
そして、そういう奴らが最初に税を納められなくなるんだろう。
大きな商会の人間ではなく、その辺のおっちゃんおばちゃんが税を納められなくなり、魔道具を急いで現金化しようとする。
それが、いろんな国で同時多発的に起きることになる。
というのも、それだけ魔道具相場は広がり続けていたからだ。
各国の農民や貧民ですら参加していて、そしてそいつらが最初の被害者となるわけだ。
魔道具の投げ売りが始まったら、それを見ておそらくは商人たちも動くだろう。
というか、動かざるを得なくなる。
最初はどんどんと安値で売り出されている魔道具を買い付けるが、それが高値では売れなくなり商人たちもその時の購入時よりも低く売ろうとしてしまう。
最終的には誰も買い手がいないくらいの暴落が引き起こされる。
もしも、こうなった場合、自分だったらどうなるか。
そんなふうに考えてみた。
俺がオリエント国以外の国の人間で、一般人として生活していたとしよう。
そして、魔道具相場にもあとから参入して、それなりに儲けが出た。
今後も隙あらば買い増しして、さらに儲けてやろうとしていたところで、相場が暴落したとする。
今まで自分は大金持ちであると思っていたのに、一瞬にして金がなくなる。
いや、むしろ借金だらけになるかもしれない。
だって、たいていの奴はより儲けようと考えて人から金を借りてでも魔道具の購入権利を買っているのだから。
自分もそうしていた場合、借金をして買ったはずの高額商品の値打ちが無くなるということは、後に残るのは借金だけになってしまう。
多くの国で借金まみれの人が出る。
金を貸した連中も黙ってはみていないだろう。
なんとしてでも貸した金の回収に動くはずだ。
取り立てはきっと厳しいことになるに違いない。
そうなったら、きっと魔道具以外も売り出されるんじゃないだろうか。
魔道具以外の売り物。
なにがあるだろうか?
貧民はなにも持っていないだろうけど、それ以外の者は家にある金目のものを売ることになるかもしれないな。
たとえば、宝石だとか、きれいな布の生地だとか、職人が作った家具だとか。
そんな売り払えるものを売ってでも、なんとか凌ごうとするだろう。
けど、きっと足りない。
あまりにも額の大きな魔道具相場が崩壊するんだ。
そんなものを売ったくらいじゃ全然足りないだろう。
ならば、その次に何を売るか。
家や土地を手放す者もいるかもしれないな。
実際、そういう前例がある。
米の先物取引で大嵐という予測不可能な事態によって大損を出した庄屋などは、土地などを手放すことになった。
なので、今度も土地を売る奴はたくさん出てくるだろう。
それ以外にも売れるものといえば、あとは命があるだろうか。
命というか、体というか。
ようするに身売りだ。
大損を出した家がなんとか一時しのぎにと考えて、家族を売ることもあるかもしれない。
子だくさんの家族だったら、子どもを身売りしてでも自分の身を守るってことも普通にあるだろうし。
ふむ。
そう考えると、魔道具相場の暴落ってのもなかなか面白いかもしれないな。
きっと、土地や家、あるいは人も今までにないくらい格安で売り出されることになるだろう。
わずかな金額でも得たいという気持ちが先行し、捨て値で買い取れるかもしれない。
ならば、買い取ってもいいかもしれない。
今も、オリエント国内で俺とアイは大地主みたいになっているが、これが結構おいしいからな。
自分の土地を優遇するように道を作ったりして地価をあげられるからだ。
なんだったら、オリエント国外の土地も買ってみようか。
アイにそのことを相談すると、特に反対はされなかった。
というわけで、俺は魔道具を売りながら現金を貯め、来るべき買い相場に備えて準備万端で構えることにしたのだった。
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